第6話 あなたを守りたいから(5/14)

       彩香、窓の前まで戻って来て、


彩香   :「どうして、そんな事を聞くんですか?」

啓吾   :「ん‥‥」

       頭を掻く。言いにくそうに、

      「いや、お前、雨とか雷とかそういうのが好きなら、そういう勉強をするかなと思って」

彩香   : 驚いた表情。

      「え!?」

啓吾   : なぜか「勉強」という単語を嫌そうに、

      「勉強! それ位の勉強ならばさせてやれるから」

彩香   : 両手の指を組んで、前のめりに、

      「本当ですか! 嬉しい!」

啓吾   : 面食らう。

彩香   : 身を乗り出すように、

      「あたし、知りたい事がいっぱいあるんです! 地上の大雨の事とか第三物質の事とか!」

       感極まった様子で、言葉に詰まる。

啓吾   : 照れ臭そうにちょっと視線をはずす。再び彩香を見て、やけくそな口調で、

      「お前、やっぱり変わってる! 勉強しろって言われて嬉しい?」


       彩香、口元に指を当ててクスッと笑う。

       可笑しそうに啓吾を見る。

       外で雷光。バリバリという音。彩香、口元にウズウスした笑みを浮かべて、体ごと窓の外に向く。

       啓吾、妙に照れ臭そうに彩香を見る。こめかみを指で掻く。

       視線をはずして窓枠にもたれ、室内の天井を見上げる。

       雨音。

       しばらくの間。

       啓吾、妙に照れ臭げ。

       ちらっと彩香を見て、ふと表情を変える。


       無表情に空を見つめ続ける彩香。


       啓吾、真顔で、


啓吾   :「お前‥‥、いつもそんな風にして空を見ているのか?」


       ゆっくりと振り返る彩香、ひどく曖昧な表情。


       啓吾と彩香。窓の前。

       見つめ合う。

       啓吾、腕を伸ばす。

       彩香、啓吾の腕の中に滑り込む。

       啓吾、彩香の体を強く抱きしめる。

       雨音が響く。


       啓吾の右手が彩香の髪を掻き上げ、左手が彩香の背中を愛撫する。髪に口づける。

       彩香、啓吾の背中に腕を回して啓吾の胸にすがりつく。額を擦りつける。嗚咽する。涙が流れる。

       雨音。


       窓の外に強い雷光。二人のシルエットを浮かび上がらせる。

       続いて地響きの様な雷鳴。


       啓吾、アップ。目を見開く。顔が雷光に照らされる。


       彩香、アップ。目を見開く。雷鳴の余韻がまだ続いている。


       雨音。


       啓吾、彩香の肩を掴んで自分から引き剥がす。二人、驚いた顔で見つめ合う。再び雷光。


       啓吾、アップ。驚いた表情が雷光にはっきりと浮かび上がる。


       彩香、アップ。驚き顔で啓吾を見上げる。雷鳴が轟く。


       啓吾、アップ。


啓吾   :「(上ずった声)あの‥‥」


       彩香、アップ。


彩香   :「(かすれた声)はい‥‥」

       雷光が消えて暗くなる。雨音が響く。


       啓吾、アップ。


啓吾   :「さっきの、自分で調べろな」


       彩香、アップ。


彩香   :「え? どうやって?」


       啓吾、アップ。


啓吾   :「インターネットとか使えるだろう? それで良さそうな所があったら入学手続きをして、支払いが俺に来るようにすればいいから」


       啓吾と彩香。見つめ合う。

       啓吾、ふいに彩香の肩から手を離すと、身を翻す。


       玄関で靴を履く啓吾


啓吾   :「自分の事だからな、それくらい自分でやれよ!」

       飛び出て行く。


       窓の前に彩香。しばし茫然とした後、はっとして、


彩香   :「あ! お帰りですか? それでしたら、傘!」



*シーン7-6* 三軒茶屋、遊歩道(烏山川緑道)


       土砂降り雨の中、走って来る啓吾。ふと立ち止まり、肩で息をする。顔を空に向ける。

       啓吾の顔を雨が洗う。啓吾、両手で雨を受けると顔に浴びせかける。首をぶるぶると振る。稲光が辺りを照らす。

       啓吾、顔を下ろす。茫然とした表情。来た方向を振り向く。

       足元に視線を向ける。

       再び走り出す。


       雷鳴が轟く。


       走り去る啓吾、後ろ姿。雨音が激しい。

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