第6話 あなたを守りたいから(6/14)

■シーン8■ 月曜日、日山食品東京第2事業所、室内


       窓の外は快晴。


       パソコンの前に彩香。手慣れた様子で操作する。時々、ピッと電子音。


       パソコン画面。南アジアの天気図がてきぱきと作られて行く。


       パソコン前の彩香。画面を覗き込んで。


彩香   :「前線は、こんなかな?」


       彩香、パソコンから体を離して画面を眺める。


彩香   : 両手を組んで右頬に当てて、

      「ううん! 美的!」


       マウスのボタンを押す。ピッという音。

       しばらくして、ピーガーゲロゲローと通信音。


       彩香、立ち上がる。


       室内の様子。社員達がきびきびと仕事を続ける。


       彩香、体を曲げて窓の外を伺う。


       窓の外、ビル街の上に青空と、鮮やかに白い鰯雲。


       彩香、興味深げな顔。体を伸ばす。


       部屋を出て行く。



■シーン9■ 日山食品東京第2事業所、ビル屋上


       鉄の扉が開いて彩香が出て来る。

       ブーンという機械音。


彩香   : 両手を額にかざして、

      「うわっ、暑い!」

       それでも歩き出す。


       彩香、排気口の間を抜けて広場へ。


       彩香、フェンスの手すりを掴む。


       夏空の一角に鰯雲。


       彩香、手すりに手をついて、


彩香   :「空が高い‥‥。8月って‥‥、やっぱり秋なんだ」


       空を見つめ続ける彩香、ほぼ全身の俯瞰。

       カメラが、彩香の周囲をぐるりと回るようにして写す。

       風が、髪と着衣をなびかす。

       周囲から、街のざわめき、自動車の音、電車の音。


       彩香、アップ。ふいに、空に向かって小さく叫ぶ。


彩香   :「こんな中途半端な記憶、なければいいのに!」

       涙が溢れ出す。止めどなく流れる。

       短く嗚咽する。口元を手で押さえる。


       彩香、スカートのポケットから小さく畳んだ紙を取り出す。


       風の中で紙が広げられる。

       インターネットのページをプリントアウトしたらしい紙。

       「あなたも気象のプロに!」の大見出し。


       彩香、風の中、涙を流しながら紙を見つめる。

       目を逸らし、顔を空に向けて叫ぶ。


彩香   :「駄目だよね! これ以上! 啓吾さんには茉莉さんがいるもの!」

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