第6話 あなたを守りたいから(2/14)
■シーン4■ 成田空港
掲示板。出発便の案内が目まぐるしく変わる。
出発ロビー。雑踏。アナウンスの声。
雑踏の中に啓吾と茉莉。俯瞰。荷物を引きずって歩く。やや遠い声。
啓吾 :「なんか、欠航が多いな!」
茉莉 :「そうねえ。どうしたのかしら」
啓吾と茉莉。雑踏の中で立ち止まる。
茉莉 :「まだ、時間はあるわね。食事はした?」
啓吾 :「実は、まだ」
茉莉 :「どこかで食べた方がいいわね。ねえ、啓吾」
啓吾 :「え?」
茉莉 :「固くならないでよ」
啓吾に書類を渡しながら、
「これ、向こうでのスケジュール表。こちらから提出する資料は全部出来てる?」
啓吾 :「ああ。部数刷って発送してある」
茉莉 :「時に、啓吾はカラオケって得意?」
啓吾 :「んー、得意とはいえないけど、なんで?」
茉莉 :「向こうで今カラオケブームだそうで、日本人と来ればカラオケで接待すればいいと思われてるらしいわ」
渡した資料の中を示して、
「ほら、ここ」
啓吾 :「ありゃ? (独白)こりゃ、CD屋見て回るどころでないな」
茉莉 :「何、CD屋って?」
啓吾 :「ああ、何でもない。こっちの話」
茉莉のあとについて歩く啓吾。深いため息。
■シーン5■ その前日の日曜日、代々木公園
*シーン5-1* 公園内を散策する啓吾と彩香
深緑の木の葉。木漏れ日がまぶしい。
木立の間、そこここに家族連れやカップルなど。
木立の向こうに新宿の高層ビル群と都庁舎。
啓吾と彩香。公園の中をゆっくりと歩く。
彩香、カップを差し出す。
彩香 :「はい、啓吾さん」
啓吾 : カップを受け取りながら、
「なに? わざわざ持って来たの?」
彩香 :「だって、第3物質を増やしたくないもの」
啓吾 :「(苦笑)用意周到な事で」
カップを口に運ぶ。
彩香 : 布のバッグを胸に抱えて歩きながら。
「翔さんから聞いちゃった!」
啓吾 :「(苦笑)今度は何?」
彩香 : 啓吾を見上げて、
「啓吾さん、明日から茉莉さんとご旅行ですって?」
啓吾 : 口に含んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「『仕事』だよ!」
彩香 :「(前を向いて、抗議口調)分かってます」
啓吾 :「キャンベラにある取引先の本社で本調印をやるんで、その前準備に俺と茉莉だけ一足先に行くの!」
彩香 :「(すまして)分かってますぅ!」
啓吾を見上げて、
「でも、啓吾さん、嬉しいでしょう?」
啓吾 : カップで彩香の頭を軽く叩いて、
「ちっとも分かってねえじゃんかよ」
彩香 : カップを受け取りポットの蓋に戻して、布バッグを肩に掛ける。
彩香、バッグのストラップを気にする様な様子で、うつむき顔で啓吾について歩く。
啓吾、彩香の様子をちらと見る。
啓吾 「不安、か?」
彩香 : 不安げに啓吾を見上げる。
啓吾 :「俺も油断している訳じゃないんだけど、火竜もあれから現れないからなぁ‥‥」
彩香 :「(抗議口調)そんな事心配してるんじゃありません!」
啓吾 : 彩香を見て、
「ん? じゃあ、何?」
二人、立ち止まり、見つめ合う。
再び歩き出す。
彩香 :「啓吾さん、お体大事にされて下さいね」
啓吾 :「(驚いて)へっ!?」
彩香 :「(啓吾を見つめて歩き出しながら)お酒も、程々にされて下さい」
啓吾 : まいったという表情。軽く空を見上げて、
「生意気なヒヨコ天女!」
彩香、ちょっと頬を膨れさせて啓吾に従って歩く。
二人、しばらく無言。互いに前を見たまま歩く。
ボール遊びをする子供たち。
しばらくして、
啓吾 :「お前こそ、俺の留守に消えたりするなよ」
彩香 : えっという表情で啓吾を見上げる。
啓吾 :「記憶、少しは戻った?」
彩香、はっとした様な表情で小さく息を呑む。立ち止まる。
*シーン5-2* カットイン
回想、第5話シーン16。お下げ髪の彩香、背後から抱きすくめられる。
*シーン5-3* 再び代々木公園
彩香、考え込む。顔を伏せて、激しく首を横に振る。
啓吾 :「そうか‥‥」
しばし、考える。努めて明るい表情を作って、
:「とにかく、その時にはみんなでお祝いしてやるから、それまではいろよな」
彩香、しばらく無言で歩く。
ふと、笑みを浮かべる。
彩香 :「(小声で)帰りません」
啓吾 : 彩香を見て、
「え!?」
彩香 :「啓吾さんと茉莉さんが結ばれるのを見届けてから帰ります」
啓吾を見上げて、
「いいですよね? それまであたしがいても、茉莉さん、お気になさいませんよね?」
啓吾 : 苦笑する。ふと気づいて、
「そうだ。土産買って来てやるよ。何がいい?」
彩香 :「そんな事言われたって分からない。キャンベラってアメリカの近くですか?」
啓吾 : 空を見上げて、
「ちょっと、方角が違うかなぁ‥‥」
彩香を見て、
「ああ! コアラのぬいぐるみ買って来てやるよ」
彩香 :「(啓吾を見上げて抗議口調)ぬいぐるみですかぁ? あたし、子供じゃないです!」
啓吾 :「可愛いんだぞ、これが」
彩香 :「啓吾さんって変な人ぉ! あの茉莉さんにもそういう贈り物をするんですか?」
啓吾 :「(嫌そうに)いいよ。じゃ、買って来てやらない!」
彩香 : 口元に指を当ててクスッと笑う。啓吾を見上げて、
「買って来て下さるなら、あたし、CDがいいな!」
啓吾 :「CD? また『リズム・アンド・ブルース』か? ありゃあ、確かにアメリカもんだな」
彩香 :「(抗議口調)『リズム・アンド・ブルース』じゃなくて『R&B』!
でも、何でもいいんです。啓吾さんが見つけて来て下されば」
啓吾 :「(苦笑)オッケー。CD屋でも覗いてみよう」
啓吾と彩香、並んで歩く。
啓吾、右からアップ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます