第6話 あなたを守りたいから(1/14)

■シーン1■ 朝の彩香

*シーン1-1* 優香のマンションのリビング


       激しい雨音。

       ベランダに打ちつける雨粒。

       室内。

       窓に雷光。一つの影を浮かび上がらせる。地響きの様な雷鳴。


       彩香、啓吾の腕の中。目を見張る。


       啓吾、彩香の髪に唇をつけて。目を見張る。



*シーン1-2* 彩香の部屋


       朝。布団を剥いで飛び起きる彩香。

       彩香、アップ。目を見開いて胸を押さえる。肩で息をする。



■シーン2■ 月曜日、朝の食卓


       彩香、席を立つ。


彩香   :「ごちそうさまです」

       牛乳パックが倒れる。

      「あっ!」


       彩香、あわてて牛乳パックを起こし、流し台に布巾を取りに走り、牛乳を拭う。

       優香、彩香の様子を目で追う。


優香   :「ちょっと、どうしたの? 時間まだ大丈夫よ」

彩香   : ダイニングテーブルを拭きながら、

      「済みません!」

       と、言っているそばから、体の向きを変えた拍子に空のグラスを倒す。

      「あっ!」


       食器を流し台に運ぶ彩香。テーブルで食事を続ける優香。


優香   :「今日の彩香ちゃん、ちょっと変」

彩香   :「そんな事ないですぅ!」


       テーブルの優香。カップスープをすすりながら、彩香を様子をうかがい、


優香   :「昨日、何かあった?」


       流し台の前の彩香。キッと振り返り、


彩香   :「ありませんっ! あ、あるはずがないじゃないですか! 啓吾さんには茉莉さんていう恋人がいるんですよ!」


       テーブルの優香。カップスープをすすりながら、


優香   :「ふーん、そうなんだ?」


       彩香、再び流しに向き食器を洗いながら、


彩香   :「(怒ったように)そうですよ!」


       テーブルの優香。肩をすくめる。


優香   :「わたし、啓吾君の事なんて聞いたっけか?」


       流し台前の彩香、目を丸くする。手からスポンジが落ちる。

       優香、食器を持って席を立つ。彩香の脇までやって来て、


優香   :「駄目だなぁ。そんな風に始めからあきらめてたんじゃ!」

       自分の食器を容赦なくタライに突っ込む(今日は彩香の当番らしい)。

彩香   :「あ、あきらめるとか、あたしは、別に‥‥」

優香   : 彩香の耳許に口を寄せて、

      「欲しいものは、奪いなさい!」

       すっと背後に消えて行く。

彩香   : 目を丸くする。振り返って、素っ頓狂な声で、

      「優香さん!?」


       優香、歩み去る後ろ姿。


優香   :「わあ、大変! 支度しなくっちゃ!」

       一向に急ぐ様子もなく、自分の部屋に入って行く。



■シーン3■ 地下鉄


       地下鉄車内。彩香と優香、吊り革に掴まって、


       彩香。白い無地のサマードレスに、紺のカーディガン。

       ウォークマンで音楽を聴きながら窓の外を見ている。


       優香、女性雑誌の釣り広告を見上げている。

       彩香、窓に目を向けて音楽を聴いている。


       優香、釣り広告を見上げている。

       ひょこっと彩香の顔を覗き込む。


彩香   :「(驚いて、怒った様に低い声で)な、何ですか?」

優香   :「ん? 少しはきれいになったかなって思って」


       彩香、優香を見る。

       顔を逸らし、目をぱちくりさせ、窓に映る自分を見る。

       再び優香を見て、優香に視線を誘導されて、雑誌の吊り広告に気づく。


       広告の見出しに

       「恋をしてキレイになろう!

        恋する女は美しくなる

        知ってる? 現代医学が明かす心と体の確かな関係

        あの有名人が語る 恋と美しさの結びつき」


       彩香、真っ赤になって再び目を背ける。


彩香   :「(すねた声で)どうせ、あたしは不美人です」

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