第5話 過ぎ行く夏の日(10/13)
■シーン21■ 日山食品、本社会議室
会議室。机を取り囲む啓吾ら特設チームメンバー。一同を前にマネージャ。
マネージャ:「えー、皆さんのお手元にある資料、『資料7』というのですね、これが、仮調印で当社が提出した機内食配送システムの詳細となります。こちらの資料にも、よく目を通しておいて下さい」
啓吾、目は、資料ではなく前方を見つめている。
マネージャ:「次の『資料11』、こちらが調理方法ですね。皆さんも、機内で調理出来るくらいに熟読しておいて下さい」
メンバーから、笑い声。
会議室の隅に茉莉。
マネージャ:「それでは、現在の進捗状況について、事業推進部の相沢君から説明してもらいます」
茉莉、中央に進み出て一礼する。
茉莉 : 「事業推進部の相沢です。本事業の沿革については、既にマネージャより説明がありましたので、私からは、現時点での決定項目、未決項目、および先方からの修正要求について、概略的に述べさせて頂きます。それでは、資料の4番を‥‥」
啓吾、目をようやくに資料に向ける。
男の声 :「とォ言う訳でェありましてェ、今後はァ8月中の本調印とォ、9月からの試験運用開始を目指してェ、皆さんで力を合わせて行きたいとォ思う所存でありますゥ!」
■シーン22■ カフェバー コールドフロント
店内。ざわめき。隅でピアノの演奏。テーブルの間を歩くウェートレス。
カウンターに啓吾と茉莉。
茉莉 :「どうしたの?」
啓吾 :「え!?」
茉莉 :「疲れたの? これからなのよ」
啓吾 :「いや」
グラスを弄びながら、
「もうちょっとで、自惚れる所だった」
茉莉 :「え?」
啓吾 :「実力で選ばれたのかと思ってたから‥‥」
茉莉 :「あら、啓吾の実力よ。私に、何か出来るとでも言うの?」
グラスを、啓吾のグラスに触れさせる。
「おめでとう」
啓吾 : 複雑な表情
茉莉 「この仕事ね、去年の12月から関わってるの。抜擢された時、嬉しかった。研修が終わってから3ヶ月くらい、コピー取りみたいな仕事ばかりやらされてたから」
啓吾に顔を向けて、
「やめてやるー、って思った事もあったのよ」
啓吾 : 顔を伏せて笑う。
「短気じゃん」
茉莉 :「そうかな?」
啓吾 :「俺より短気だ」
茉莉 :「(笑い)かもね。でも、それがあったからかも。今は仕事がすごく面白い」
啓吾 :「ああ」
茉莉 : 啓吾に顔を向けて、
「分かるでしょう?」
啓吾 : 無言。目を伏せる。
茉莉 :「いいわ、今は分からなくても。でも、啓吾なら分かる」
カウンターから少し離れたテーブルに、3人のOL客。
3人、カウンターを見ていたのが、視線を離し顔を見合わせ、ささっと携帯電話をかける。
■シーン23■ 日山食品東京第二事業所
優香、携帯電話で通話中。
仁王立ち。憤怒の形相。
■シーン24■ JR中野駅近く、鉄道の高架下の街路
*シーン24-1* 高架下の街路
抱き合う影。電車が走り過ぎる音。
茉莉、啓吾から体を離す。
茉莉 :「悪いわね。送らせて」
啓吾 :「いや」
茉莉 :「ここまででいいわ。明日から大変よ」
啓吾 :「分かってる」
茉莉 :「おやすみ」
啓吾 :「ああ」
茉莉、啓吾に背を向けて歩き出す。
啓吾、路上にたたずむ。遠ざかる靴音。
啓吾。高架下に立ちつくす。何事か考え込む。
向きを変え、ゆっくりと歩き出す。
浮かぬ顔。
携帯電話を取り出す。電源をONにしてポケットに戻す。
たちまち着メロが鳴り出す。
あわててポケットから取り出す。
啓吾 :「もしもし」
*シーン24-2* 三軒茶屋の優香のマンション
固定電話を掛ける優香。
優香 :「もしもし、啓吾君!? あなた、今、どこにいるのよっ!?」
*シーン24-3* 中野路上の啓吾
啓吾 :「(顔をしかめて、携帯を耳から浮かせて)優香ちゃん?」
優香の声 :「彩香ちゃん、ずうっと待ってたのよ!」
啓吾 : あっ、と口を開く。
携帯にむさぼりつくようにして、
「彩香、どうした!?」
優香の声 :「わたしが連れて帰ったわよ! 啓吾君、あなた、ちょっと無責任なんじゃないの!?」
啓吾 :「ごめん! 本社でミーティングのあと、呑みに流れちゃって」
*シーン24-4* 三軒茶屋の優香のマンション
優香 :「(唯一、冷静な声)相沢茉莉さん?」
*シーン24-5* 中野路上の啓吾
啓吾 : しばし絶句。携帯を口に当てて、
「仕事だよ!」
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