第5話 過ぎ行く夏の日(5/13)
■シーン7■ 引き続き、啓吾のアパート
彩香、畳に座り、三つ指をついて頭を下げる。
彩香の服装、ストラップのワンピースドレスに袖なしのジャケット。
彩香 :「始めまして。彩香と言います。啓吾さんには大変にお世話になっております」
和子、腕組みをして難しい表情。
不意に破顔し、気の毒げな顔で、
和子 :「そおう? あの大波で。それはお気の毒に」
啓吾、和子と彩香に対面、あぐらをかいて、
啓吾 :「だから、何でもないって言ってるだろう?」
和子 : 啓吾に振り向いて、
「うるさいね。隠し立てしようとするのは、あんたにやましい気持ちのある証拠です!」
啓吾 : 視線を逸らす。
彩香 :「(急いで)あの‥‥、啓吾さんには本当に良くして頂いているんです」
和子 :「ああ、いいんですよ、彩香さん。この子は、人の面倒見の良いのだけが取り柄みたいな子ですからね。どうぞ、お気になさらないで使ってやって下さいね」
彩香、安堵し、可笑しそうに笑み。
啓吾 :「なんで、どいつもこいつも同じ事を言うかね?」
和子 :「なんですか? 親に向かって『どいつもこいつも』とは」
啓吾に紙包みを差し出して、
「ほら、彩香さんがケーキを焼いて来て下さったんですよ」
啓吾 : 紙包みを受け取り、彩香を見て、
「なんで、お袋に渡すの!? ここ、俺のうちだよ!」
和子 : 啓吾のひざを「パチン」といい音で叩く。
啓吾 :「いてっ!」
和子 :「下らない事を言ってないで、さっきの紅茶でも入れなさい!」
彩香 : 中腰になって、
「あ、お茶ならあたしが、」
和子 :「ああ、いいんですよ、彩香さん。この子には、そういう事はちゃんと仕込んでありますから」
啓吾、うんざりした顔で腰を上げる。
台所に立つ啓吾。座ったままの和子。
和子 :「啓吾! 紅茶は熱湯を使うんですよ!」
啓吾 :「はいよ!」
和子 :「ポットやカップには予めお湯を張ってね」
啓吾 :「はいはい!」
■シーン8■ ゲームセンター
ゲームセンター。格闘ゲームの画面に「KO」の文字
ゲーム機 :「ケーオー!」
啓吾 :「いてっ!」
ゲーム機の前に座る啓吾と彩香
彩香 :「(おかしそうに)動揺してる、動揺してる!」
啓吾 :「うるさい! こんなはずじゃあないんだ!」
ポケットを探る。
彩香 :「(おかしそうに)もう、いいですよぉ」
■シーン9■ 夕暮れの若林の街
ゲームセンターを出る二人。
啓吾、いらだたしげに頭を掻き毟る。
彩香、おかしそうに啓吾を見守る。
歩き出す二人。狭い路地。自転車で通る人。周囲にパチンコ店の音など。
啓吾 :「まったく、急に出て来るんだもんなぁ!」
彩香 :「素敵なお母様じゃないですか?」
啓吾 :「あの人と親子をやるのは大変なの! 元気はいいわ、やたら物知りだわ、何にでも一家言あるわ‥‥」
彩香 : おかしそうに啓吾を見上げながら、
「翔さんに伺いましたよ。啓吾さんの一番の苦手はお母様だって」
啓吾 :「あのやろー! 余計な事ばっかりペラペラとしゃべりやがって!」
■シーン10■ 町の携帯ショップ
店先で、啓吾、「PHS」の手提げ袋を彩香に渡す。
彩香 :「『ぴー・えっち・えす』?」
啓吾 :「“ピッチ”! 俺の携帯と同じ様なもの。緊急連絡用な」
彩香、嬉しそうに紙の手提げ袋を受け取る。
■シーン11■ 町の本屋
啓吾、店先で野球雑誌を買っている。
彩香 :「『DV』って、何ですか?」
啓吾 :「え!?」
彩香 :「『DV』って書いてある本がいっぱいありますね?」
啓吾 :「ああ‥‥、映画とかが観れる‥‥、新しいの?」
■シーン12■ 環状七号に面したファミリーレストラン
ファミリーレストラン外観。窓に啓吾と彩香。窓の前を車が通る。
彩香 :「陶芸? ずうっとやってらっしゃるんですか?」
ファミリーレストラン店内。食事をする二人
啓吾 :「うん。それが商売だからね。毎年10月に銀座で個展をやってて、今回もそれの打ち合わせで出てきたらしい」
彩香 :「どんなものを作るんですか?」
啓吾 :「何でもやるよ。伊東の土産物屋で売る様な湯飲み茶碗なんかも作るし、個展用にはなんだか訳の分からない粘土の塊みたいなのも作るし」
彩香 :「伊東って、啓吾さんがお育ちになった?」
啓吾 :「そう。その山の中にアトリエ持ってるの」
彩香 :「ふーん」
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