第5話 過ぎ行く夏の日(3/13)

■シーン5■ 路上

*シーン5-1* 日山食品本社ビル前路上


       日山食品本社ビルを出る啓吾と茉莉

       携帯電話の呼び出し音が鳴る。


茉莉   : 電話に出る。

      「はい、相沢です。‥‥はい、お世話になります」

       啓吾から離れる。

啓吾   : 茉莉の後ろ姿を見つめる。

茉莉   :「はい‥‥。それは、そちらのご要望通りに‥‥」

啓吾   : 空を見上げる。

茉莉   :「分かりました。明日までに検討します‥‥。ええ、ご要望通りに‥‥。失礼致します」

       携帯電話をバッグにしまって戻って来る。

      「ごめんなさい。急用が出来たの」

啓吾   :「(微笑)ああ」

茉莉   :「さっきの事、よく考えて」

啓吾   : うなずく。

      「ああ。急ぐんだろう?」

茉莉   :「うん、ごめん! また、連絡するわ。おやすみ」

啓吾   :「ああ」


       茉莉、ビルに戻って行く。見送る啓吾。

       啓吾、ビルに背を向けて、ゆっくりと歩き出す。

       上着の内ポケットから携帯電話を取り出す。


       啓吾の携帯電話。電源を切っていたものをONにする。


       啓吾、携帯電話をポケットにしまいかけた所に着メロが鳴る(『ラムのラブソング』)。*1

       啓吾、あわてて電話に出る。


啓吾   :「はい。土門です」

翔の声  :「啓吾かぁ? 俺ぇ」

啓吾   :「なんだ、翔か」

翔    :「『なんだ』は無いだろう!」

啓吾   :「あっ! おい、聞いたぞ! お前、優香ちゃんと同棲していたんだって?」

翔    : しばし絶句の後、

      「何、今頃言ってんの!?」

啓吾   :「お前、やめろよな、そういう中途半端な事」

翔    :「啓吾の頭が古いんだよ!」

啓吾   :「‥‥そうかな?」

翔    :「(笑いながら)そうだよ!」

啓吾   :「(済まなげに)わる‥‥かったな?」

翔    :「何言ってんだよ? 今頃マジで謝るなよ。それより、今どこにいるんだよ?」

啓吾   :「どこって‥‥、(軽く背後を振り返り)本社の前だけど」

翔    :「あれ!? お前、そうだったの? 俺はてっきり今日は上がったんだと、‥‥ちょっと待ってろよ」


       啓吾の耳元の携帯電話、アップ


彩香の声 :「え!? いいですよ‥‥」

翔の声  :「いいから。通話料かかるんだから早く」


       啓吾、路上で一人苦笑。


啓吾   :「何だ、優香ちゃんの所か‥‥」

       歩き出す。



*シーン5-2* 三軒茶屋、優香のマンション


彩香   :「(おずおずと)もしもし‥‥」



*シーン5-3* 日山食品本社近く路上


       啓吾、再び立ち止まり、心持ち顔を起こして。


啓吾   :「彩香か? 元気か?」

彩香   :「はい」

啓吾   :「ごめんなぁ。この所行ってやれなくて」

彩香   :「いえ‥‥」

啓吾   :「急にちょっと忙しくなっちゃってさ。明日は、何とか早く終わって顔を出すから」

彩香   :「もう、怪我人でないですから、お気になさらないで下さい」

啓吾   :「明日は、どうにかするから」

彩香   :「いえ、本当にもう、大丈夫ですから」

啓吾   :「(笑いながら)行くよ」

彩香   :「(強い口調で)いえ、本当にいらして頂かなくても!」


       啓吾、怪訝な顔で電話を一瞥する。


啓吾   :「(白けた声で)そう?」



*シーン5-4* 三軒茶屋、優香のマンション


       彩香、しまった、という表情。



*シーン5-5* 日山食品本社近く路上


       啓吾、白けた表情。


啓吾   :「なら‥‥、無理には行かないけど‥‥」



*シーン5-6* 三軒茶屋、優香のマンション


       彩香、泣きそうな顔で受話器を握り締める。



*シーン5-7* 日山食品本社近く路上


       啓吾、視線を泳がす。携帯電話を右手で支え、腕時計を見る。


彩香   :「(おずおずした声)あの‥‥」

啓吾   :「(気のない声)うん?」

       電話を再び左手で持つ。


       携帯電話、アップ。


彩香の声 :「今度、あたしが啓吾さんのお部屋に伺ってはいけませんか?」


       啓吾、表情が固まる。



*シーン5-8* 三軒茶屋、優香のマンション


       彩香、不安げな表情。



*シーン5-9* 日山食品本社近く路上


       啓吾、ゆっくりと、ほのぼのとした笑みが浮かんで来る。顔を上げる。


啓吾   :「いいよ」



*シーン5-10* 三軒茶屋、優香のマンション


       彩香、嬉しげな笑み。



*シーン5-11* 日山食品本社近く路上


       啓吾。明るい表情で、


啓吾   :「若林の駅まで迎えに行くから、土曜日においで」

彩香   :「はい!」


       啓吾、笑顔。歩き出す。


啓吾   :「何してたんだよ?」

彩香   :「(声のみ)ゲーム! あのね、あたし、翔さんを3回もKOしたんですよ」

啓吾   :「あいつ、口先ばっかだもん」



*シーン5-12* 三軒茶屋、優香のマンション


       彩香、笑み。



*シーン5-13* 日山食品本社近く路上


       歩いて行く啓吾。


啓吾   :「こっちのゲーセンに、でっかい画面のがあるよ」

彩香   :「そうなんですか?」

啓吾   :「ああ。俺の手並みを見せてやるよ」

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