第5話 過ぎ行く夏の日(1/13)

■シーン1■ 朝の彩香


*シーン1-1* 天上界


       第4天上界西宮門前、仰向けに倒れる彩香。上体を起こす。


       火竜、視線を下げる。背中の角がスパークを放つ。

       火竜、頭を上げ咆哮する。


火竜   :「ガアアア!」


       彩香、アップ


彩香   :「きゃーっ!」



*シーン1-2* 三軒茶屋。優香のマンションの一室


       ベッドから布団を剥いで飛び起きる彩香。

       彩香。目を見開いて胸を押さえる。肩で息をする。



■シーン2■ 日山食品東京第二事業所


       夕暮れ時。

       啓吾、扉を開けてオフィスに入ってくる。


啓吾   :「ただいまぁ」

男性社員 :「(声のみ)お疲れ」


       机につく啓吾。パソコンの電源を入れ、鞄と上着を机に置き、椅子に座る。

       鞄から手帳を取り出し、ページをめくりかけ、パソコンの起動に気づいてキーボードを操作する。


       パソコン画面

       「メールが2通来ています」の表示。


パソコン :「You got mail!」


       マウスカーソルが動き画面をクリック。

       パソコン画面、メールの一覧。


啓吾   :「(独白)ん? 茉莉からメール?」


       パソコン画面。メールの表示。


メール文面:「茉莉です。7時にコールドフロントに来て下さい」


啓吾   :「(パソコンの前で頬杖をついて)7時にコールドフロントか‥‥」


       啓吾、顔を起こし室内を見回す。壁時計は6時42分を指す。

       軽く舌打ちして立ち上がる。


啓吾   :「(誰にともなく)済みません、お先に!」

男性社員 :「お疲れさーん!」



■シーン3■ カフェバー、コールドフロント


       日山食品本社ビル1階のカフェバー。

       カウンターに啓吾。手に水割りのグラス。

       バックにピアノ曲。


       扉が開いて、茉莉が入ってくる。


茉莉   :「ごめんなさい。待たせちゃったわね」

啓吾   :「(緊張した声)いや」

茉莉   :「すぐに出るつもりでいたんだけど、取引先から電話が掛かってきて長電話。明日の打ち合わせの件だったものだから切れなくて。(啓吾を見て)水割り呑んでるの? 私も、一杯だけ貰おうかな。(バーテンに)薄くしてね!」

       携帯電話が鳴り出す。

       脇に置きかけたバッグを手早く取って、自分の電話な事を確認し、

      「(啓吾に目を向け)ごめんなさい」

       席を立つ。


       カウンターに啓吾。

       しばらくして、茉莉が戻って来る。


茉莉   :「(席に着きつつ)ごめんね!」

啓吾   :「いや。忙しそうだね、相変わらず」

茉莉   :「(軽く笑って)今月は大した事ないの。啓吾の方こそ、結構忙しいでしょう?」

啓吾   :「でもない」

       バーテンが茉莉のグラスをカウンターに置く。

茉莉   :「ありがとう」

       グラスを取り、啓吾をちらっと見て笑みを浮かべる。グラスを啓吾のグラスに軽く当てる。

      「この間はお疲れ様」

啓吾   : 苦笑

茉莉   :「でも、驚いたわ。随分と山道に詳しいのね」

啓吾   :「今年は、週末っていうと、バイクで一人で走ってたから」

茉莉   :「(嬉しそうに)それ、私への皮肉?」

       グラスを口に運ぶ。

       グラスをカウンターに置いて、

      「(笑顔で)で?」

啓吾   :「えっ!?」

茉莉   :「(飽くまで笑顔で)どうして、誘ってくれなかったの、この間?」

啓吾   : 無言で視線を泳がす。

茉莉   :「いつかの事、気にしてた?」

       啓吾の様子を伺う。

      「私、啓吾と別れ話した覚えないわよ」

       グラスを口に運び、呑むのは止めて、啓吾に笑いかける。

      「そんなに短気なつもりはないんだけどな。そんな風に見えるのかな?」

啓吾   :「(苦笑)いや、そんな事はない」

       茉莉の視線を意識して、言葉を捜す。

      「あれは、俺が悪かった」

茉莉   :「そう?」

啓吾   :「仕事辞めて田舎で暮らそう、なんて、茉莉に対するプロポーズじゃあないよな」

茉莉   : 柔らかく笑う。水割りを口に含む。

      「なら、何であんな事を言い出したのか、なんて聞かないわ」

       再び啓吾のグラスにグラスを当てる。

茉莉   :「カンパイ」

啓吾   :「え!?」

茉莉   :「仲直りの」

啓吾   : 安堵したように笑み。グラスを口に運ぶ。

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