第4話 コンビネーション(7/14)

■シーン11■ 駐車場


       啓吾、ビールの空瓶を翔の車に積もうとしている。

       彩香が駆け寄って来る。


彩香    「啓吾さん」

啓吾   : 手を止めて顔を上げて、

      「よっ!」

彩香   :「手伝います」

       ケースを持とうとする。

啓吾   : 彩香の頭に手を置いて止めて

      「いいよ。無茶するなって言ったろう?」

       一人でケースを車に乗せる。

       彩香に振り返って、

      「ああ、彩香、ごめんな」

彩香   :「(ややぎょっとした様子で)え!?」

啓吾   :「いやさ、連中調子に乗り過ぎてて」

彩香   :「(安堵した様子で)あ‥‥、いいえ」

啓吾   :「優香ちゃんも事情分かっているんだから、もうちょっと気ぃ使ってくれりゃいいんだけど」

彩香   :「あたしも楽しんでいます。お気になさらないで下さい」

啓吾   : 彩香を見る。安心して微笑する。

      「楽しんでいる、か?」

彩香   :「はい」

啓吾   :「なら、良かった」


       啓吾、車のハッチに腰を下ろす。


彩香   :「あの‥‥」

啓吾   :「ん?」

彩香   : 口ごもる。


       啓吾、しばらく、彩香の口が開くのを待つ。

       ジュースの缶を取って、彩香に差し出す。

       彩香、首を横に振る。


啓吾   :「ああ、そうだ。この後、みんな、夜っぴて呑み会だから、彩香は適当な時間に小屋で休めよ」

彩香   :「あ? はい。啓吾さんも、ですか?」

啓吾   :「そう。パパも呑み会」

彩香   : 吹き出しそうになる。

      「(顔を赤らめて)さっきは、済みませんでしたっ!」

啓吾   : 視線をしばし泳がせる。肩でも凝っているのか、ぐるりと首を回す。

       おもむろに再び彩香を見て、

      「お前なぁ。俺を幾つだと思ってるんだよ!?」

彩香   : 首をすくめて、

      「『お兄さん』って言われるのが嫌なんだと思って」

啓吾   :「さらに悪いだろうが! 天女の年齢なんか知らんけどな、俺とお前、恐らく十も違わないぞ」

彩香   :「(笑いながら)はぁい」

啓吾   :「で、何?」

彩香   :「え!?」

啓吾   :「さっき、何か言いかけたろう?」

彩香   :「あ‥‥。 (困った様子で)いえ‥‥。あ、そうだ。優香さん達に温泉に行こうって誘われてるんですけど、あたし、入っていいでしょうか?」

啓吾   :「ああ、そうか‥‥。朝倉先生は、何か言ってた?」

彩香   :「いえ。楽しんでおいでって」

啓吾   :「ならば、問題ないんじゃないかな。却って傷にも良いと思うぞ」

彩香   :「(ぼんやりして)そうですか‥‥」

啓吾   : 彩香を眺める。意味ありげな笑みを浮かべる。

      「ただし、混浴な」

彩香   :「(心ここにない様子で)そうなんだ、混浴‥‥、(ふと顔を上げて)って何ですか?」

啓吾   :「男女でお風呂に仕切りがないの」

彩香   :「(理解に数瞬を要した後)えええ! うそ!!」

啓吾   :「(吹き出しそうになりながら)混浴もあるよって言う事。内風呂もあるから安心して行って来な」

彩香   :「(からかわれた事に気付いて、胸を反らして)い、いいんじゃないんですか、そういうの。わあ、面白そう!」

啓吾   :「(面白がって)へえ?」

彩香   :「その代わり、啓吾さんもいらっしゃるんですよ」

啓吾   :「うん、そのつもり」

彩香   :「え!?」

       じりじりとあとずさって、

      「えーと、あのー‥‥ぉ。えっち!」

       駆け去る。

啓吾   : 腹を抱えてクックと笑う。


       林間を歩く彩香


彩香   :「うー、も~お! おじさんっ! 子供扱いばっかり!」

       立ち止まる。指を目元に当てる。何度か舌を出してみる(アカンベの練習)。

       勢い良く振り返る。表情が強ばる。


       木立の向こうに、啓吾と茉莉。何事か話している。

       やがて、二人で暗がりに降りて行く。


       立ち尽くす彩香。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る