第4話 コンビネーション(5/14)

■シーン8■ 川北温泉保養所、到着


       保養所駐車場。翔のタウンエース・ノアとカリブが着いている。


優香   :「それでは、部屋割り表に従って各自、荷物を運んで下さい」


       啓吾のカローラが入って来る。

       カローラが停車し、乗っていた人数が降りる。

       優香と女子社員が駆け寄る。


優香   :「啓吾君、疲れてる所悪いんだけど、もう一度、麓の町まで行って来てくれないかな?」

啓吾   :「なに?」

優香   :「由美が、常備薬忘れちゃったのよ」

啓吾   :「薬屋で売ってるの?」

由美   :「処方箋薬局でなら扱ってると思うんです」

啓吾   :「じゃあ、乗って」

       助手席のドアを開ける。

       由美を乗せ、再び走り去る。


       彩香、バンガローの前で啓吾の車を見送る。

       茉莉が声をかける。


茉莉   :「あなたが彩香さんね?」

彩香   : 振り返る。

      「あっ!」

       あわてて、頭を下げる。

      「はい! あの‥‥、啓吾さんには大変にお世話になっています」

茉莉   : 吹き出しかけて

      「いいわよ。どうせ、あの人が勝手にやっているんでしょう?」

彩香   :「でも‥‥」

茉莉   :「昔からそうなの。誰かの面倒を見出すと、自分の事なんかそっちのけ。そこが良い所だって、みんなは言うけどね」


       彩香、茉莉が啓吾について優香達と同じ評価を下す事に安堵する。口許に指をあててクスッと笑う。


彩香   :「(独白)優香さんたちと同じ事を言ってる‥‥」


茉莉   : 啓吾の去っていった方向を見つめて、

      「もっとも、今はお互いに仕事だけを頑張ろうって話したばかりなのに、困ったものね」


       彩香、やや不安な表情を浮かべる



■シーン9■ 散策


       数人の社員で散策。周囲に数頭の牛。どこかでトビの声。


女子1  :「(空の一角を指して)あそこ、あそこ! 何を狙ってるんだろ?」

男子1  :「人間が食べてる弁当をかすめ取ったりするそうだよ」

女子1  :「えー!?」


       彩香と茉莉


彩香   :「あの‥‥」

茉莉   :「なに?」

彩香   :「茉莉さんは、どうして啓吾さんとおつき合いするようになったんですか?」

茉莉   :「え?」

彩香   :「(やや、あわてて)済みません。ただ、すごく雰囲気が違うなって思って」

茉莉   :「そう?」

彩香   :「都会的っていうか‥‥、」

茉莉   :「(含み笑い)ん‥‥。なんでかな? 啓吾や翔君とは、大学で一緒だったの。語学とかの授業も一緒だったからクラスメートみたいなもんよね。啓吾には結構最初の頃から誘われたりしてたんだけれど、でも、始めは全然興味がなかったの。啓吾って、体大きいし場所塞ぎだし、話す事って言ったら剣道の事ばかりでしょう? 私、スポーツは嫌いじゃないけど、ずっとアメリカにいて、日本の武道って興味ないのね。そうしたら、4年生の時に『学生最後の試合で優勝するからつき合ってくれ』って言われて」

彩香   :「(感動して)それで、優勝したんですか?」

茉莉   :「だそうよ」

彩香   :「凄い! (茉莉の言い草に気付いて)もしかして、観に行かれなかったんですか?」

茉莉   :「(ちょっと言い訳口調)大学4年って忙しいのよ」

彩香   :「でも‥‥」

茉莉   :「(彩香を見て)笑っちゃうと思わない? 今時、そんな口説き方する人いないわよ。あんまり可笑しくて、その上落ち込ませちゃったものだから、ちゃんと卒業してちゃんと就職するならって条件でつき合う事にしたの。あの人、剣道続ける事しか考えてなかったみたいだったから」


       彩香、やや痛ましげに茉莉を見る。


       風が渡る。

       空からトビの声。


茉莉   : ふと彩香を見て、

      「あなた、啓吾の事好き?」

彩香   :「え!?」

茉莉   :「啓吾、可愛がってくれるでしょう、あなたの事。おとなしくて素直で、啓吾が可愛がりそうなタイプだもの」

彩香   :「(足元を見つめて)啓吾さんは、あたしの事は妹みたく思っているんだと思います‥‥」

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