第4話 コンビネーション(3/14)

■シーン3■ 啓吾の帰路


       マンションの部屋を出る啓吾と彩香。


啓吾   :「うわ、暑っ!」

彩香   :「蒸しますねぇ!?」


       啓吾、ドアの前でおもむろに振り返り、彩香を見つめる。


       彩香の服装、先ほどと同じサンドレス。シースルーのブラウス。

       右腕は包帯のみ。

       コルクの厚底サンダル。グリスのリップをつけている。


彩香   : 見つめられて期待いっぱいに、

      「ん?」

啓吾   :「お前、一々送らなくていいぞ!」

彩香   :「(落胆して抗議口調)夜のお散歩です」

啓吾   :「あんまり感心な習慣じゃないな(歩き出す)」

彩香   :「みんな、遅くまで出歩いてますよぉ(啓吾を追いかける)」


       街路、歩く二人。

       啓吾、隣の彩香をちらちらと見る。


       彩香の足元。コルクの厚底サンダル。

       彩香の胸元から包帯をした右腕上腕部、シースルーのブラウスに透けて見える。

       彩香の横顔、唇がグリスのリップで光る。

       彩香、視線に気付いて顔を上げる。


彩香   :「ん?」


       啓吾と彩香。顔を見合わせて、


彩香   :「(嬉しそうに)何ですか?」

啓吾   :「(厳しく)お前、腕吊らなくっていいの!?」

彩香   : 目を丸くする。

啓吾   :「おまけに、足元そんなもん履いて。コケたらまたギブスだぞ!」

彩香   : 頬を膨らませて顔を逸らす。


       二人、並んで歩く。


彩香   : すぐにまた嬉しげな表情で、懲りずに話し掛ける。

      「翔さんから伺いました」

啓吾   :「(不機嫌そうに)何?」

彩香   :「啓吾さんて、大学の時はものすごく強かったんだそうですね?」

啓吾   :「(話題について行けず)え!? (気づいて)ああ‥‥」

彩香   :「もう少しで日本一になるところだったって伺いました」

啓吾   :「(無関心げに)そう?」

彩香   :「どうして、辞められたんですか?」

啓吾   :「(苦笑し)ん? 理由? そうだなぁ‥‥。(夜空をちらと見て)そんな事ばかりやっててもメシが食えないだろう? それだけ」

彩香   :「でも‥‥」

啓吾   :「もっとも、まぁ、そんな事でもやってたお陰で、彩香のお守りくらいは勤まるんだけどな」


       彩香、立ち止まる

       啓吾、数歩行き過ぎて、振り返る。

       脇は、もう、遊歩道。


啓吾   :「どうした?」

彩香   : 首を横に振り「ううん」

啓吾   :「お前、さ」


       啓吾、手をあごに当ててしげしげと彩香を眺める。

       彩香、見つめられてモデル立ち。


彩香   :「(嬉しそうに)ん?」

啓吾   :「一応、胸、あるんだな」

彩香   : あわてて両腕で胸元を押さえて

      「なっ!?」

啓吾   : 背を向けて、立ち去りながら

      「山には、寒くない格好で来いよ」

       遊歩道を曲がって行く。


       彩香、真っ赤になって、


彩香   :「うー、も~おっ、おじさんっ! 他に言い方無いんですかぁ?」

       踵を返して帰りかけ、ふと立ち止まって振り返る。


       遊歩道を遠ざかる啓吾の後ろ姿


       彩香、寂しげに立ちつくす。


彩香   :「『お守りくらい』なんですか、啓吾さん?」

       傷ついた様子

      「あたしは、こんなに感謝しているのに、な」

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