第3話 彩香、絶体絶命(3/13)

■シーン3■  優香のマンション前


      路上に翔のタウンエース・ノア・フィールドツアラー。

      エンジン音が響いている。

      その脇に啓吾と彩香。


翔    : 運転台から、

      「送ろうか?」

啓吾   :「いや! 二駅だから、酔い覚ましがてら歩いて帰る」

翔    :「そうか? 小田原からは何か言って来たの?」

啓吾   :「いや、何も」

翔    :「ふうん‥‥。(彩香に向かって)早く家族とか見つかるといいね」


       彩香、ちょっと困惑顔。


       翔、車を発進させる。

       タウンエース・ノア、走り去る。


       見送る彩香


啓吾   :「(彩香の背後から)連中には、お前の正体は言っていない」

彩香   : 振り返る。

啓吾   :「目ぇ回しちまうだろう?」



■シーン4■  啓吾の帰路


       街路。啓吾と彩香、並んで歩く。


啓吾   :「(苦笑含みに)お前も別に送らなくていいぞ」

彩香   :「そこまで、(はにかんで言葉を途切らす)送らせて下さい」

啓吾   : 苦笑する。

彩香   :「あの‥‥、」

啓吾   :「ん?」

彩香   :「本当にありがとうございました。何もかも‥‥」

啓吾   :「(笑)まっ、そう鯱矛張しゃっちょこばるな。連中の言う通り、確かに俺は世話好きでおせっかいな面があるらしいから」

彩香   : おかしいのか、顔を伏せて笑う。

啓吾   :「朝倉先生には、何もかも話してある」

彩香   : ちょっと驚いた表情で啓吾を見やる。

啓吾   :「信じたかどうかは知らんけどな。でも、あの人は、俺の東京での親代わりみたいな人だから、相談には乗ってくれると思うよ」

彩香   :「(路面を見つつ)はい」

啓吾   :「(彩香を見つつ)一つだけ聞くけどさ!」

彩香   : いぶかしげに啓吾を見る。

啓吾   :「お前、この間、本当に帰るつもりだったの? そういう事が出来る訳?」

彩香   :「あの時は、そのつもりでしたけど‥‥」

啓吾   :「けど?」

彩香   : 啓吾を見やりつつ、

      「方角が分からないから、帰れたかどうか?」

啓吾   : 呆れ顔で彩香を見やる。

彩香   : 顔を伏せ上目使い。

啓吾   :「無茶なやつだね、見掛けによらず」

彩香   : 赤面し、ますます顔を伏せる。

啓吾   :「ま、気持ちは分かるけど、焦ってみてもしようがないから、まずは怪我を治す事だよ」

彩香   : 顔を伏せたまま、

      「はい」

啓吾   :「記憶だってじきに戻るさ」

彩香   :「はい」

啓吾   :「とにかく、この世界にいる間は、責任持って面倒見るから、」

彩香   :「はい」

啓吾   :「何かあったら、遠慮なく言えよ」

彩香   :「はい」

啓吾   :「俺で言いにくけりゃ、優香ちゃんでもいいし」

彩香   :「はい」


       啓吾、少しいぶかしげに彩香を見やる。

       彩香、横目でチラッ、チラッと啓吾を見る。啓吾が自分を見ている事に気付き、顔を向ける。

       二人、正面から目が合ってしまい立ち止まる。


彩香   :「はい?」

啓吾   :「素直じゃない?」

彩香   : 困った様に

      「素直‥‥、ですよ?」

啓吾   :「俺はまた、パニック起こされたらどうしようかと思ってた」

彩香   :「パニックって?」

啓吾   : 大袈裟な動作で、声色作って、

      「あたし、何か食べちゃいましたよね!?」

彩香   : 赤面する。真っ赤になる。

      「ち、ちょっとくらいの第3物質は平気ですぅ」

啓吾   :「そうなの?」

彩香   :「け、啓吾さんだって平気で暮らしていらっしゃるじゃないですか?」

啓吾   :「俺は、ほら、アンドロメダで機械の体をもらって無敵だから」*2


       SE(サウンドエフェクト)に蒸気機関車の汽笛。

       鉄路のポイントが切り替わり、蒸気機関車が走り出す音。

       BGMに『銀河鉄道999(TV版)』前奏。


彩香   :「そうなんですか?」

啓吾   :「そうだよ」


       彩香、しげしげと啓吾を眺める。

       プイッと目を逸らして歩き出す。


彩香   :「ロングヘア・フェチなんですね?」


       SE、BGM、急激にフェードアウト。


啓吾   : 絶句し、

      「放っとけ!!」


       辻にて。

       街路を曲がると烏山川緑道の遊歩道。

       二人向かい合う。街灯が二人を照らす。

       啓吾、彩香の頭をクシャクシャっとなでる。


啓吾   :「じゃあな。早く休めよ」

彩香   : 少し不満気に啓吾を見る。気を取り直した様に、

      「はい」


       啓吾、遊歩道を歩き出す。


       彩香、啓吾を見送る。


       啓吾、ちょっと振り返り、手を振る。


       彩香、笑みを浮かべる。くるりと背を向け、でも、もう一度振り返り、そうして、ゆっくりした歩調で歩き始める。

       夜風にスカートの裾が揺れる。

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