第3話 彩香、絶体絶命(2/13)

■シーン2■  三軒茶屋

*シーン2-1* 天上界から地上を俯瞰


        BGM『無限に広がる大宇宙』*1


        雲間にわずかに海と陸地が見える。

        ゆっくりとズームアップ。

        東京湾と神奈川、ゆっくりと北上して東京。

        東京、世田谷の市街地。

        東急世田谷線、三軒茶屋駅。

        商店街を抜けて住宅地へ移動。



*シーン2-2* 夕暮れ時、鳴海優香(なるみ ゆうか)のマンション


       ドアが開く。啓吾と彩香が入って来る。


啓吾   :「ただいまぁ」


       啓吾は、綿シャツにチノパン、カジュアルな服装。

       彩香は、相変わらず、頭に包帯、右腕はギブスをして三角巾で吊った状態。ただし、頭の包帯は、額、こめかみ、後頭部を一周する程度。

       服装は、膝丈のサンドレスの上に、薄手のカーディガンを袖は通さずに羽織って第一ボタンだけ止めている。


       優香、玄関で二人を迎える。


優香   :「おかえり。どうだった?」

啓吾   :「うん。有明総合病院に昔から知り合いの先生がいて、看てもらえる事になったよ」


       奥から翔が現れる。


翔    :「よぉう! 来たな」


       啓吾、面食らって翔に食って掛かる。


啓吾   :「お前! 何でいるんだよ!?」

翔    :「いやぁ、彩香ちゃんの事が心配でさ」


優香   : 彩香を招じ入れて、

      「それじゃ、彩香ちゃん、こっちね。お部屋一つ明けたから」

       奥に案内する。


啓吾   : 翔に向かって、

      「仕事は!?」

翔    :「早めに切り上げて、さ」

啓吾   : わなわなと唇を震わせて、でも、結局言葉が出ず。


       優香、戻ってくる。


啓吾   : 翔を無視して、戻って来た優香に向かって

      「優香ちゃん、今度は急に無理な事をお願いしちゃって」

優香   :「あはは。いいのよ。(奥の部屋から出て来た彩香にも目を向けて)うちは部屋数多いし、それに、ほら、女の一人暮らしって何かと物騒じゃない?」

翔    : 首を突っ込んで来て、

      「あっ。それなら俺が住み込もうか?」

優香   : 無視して、

      「ほうらね! こういう物騒なのがいるでしょう?」


       啓吾と翔、それに彩香、ダイニングのテーブルにつきつつ。


翔    :「どう? 彩香ちゃん。部屋狭いだろう?」

彩香   : 顔を伏せて笑っている。

啓吾   :「お前な‥‥」

翔    :「うちだったらもっと広いし、部屋数だってあるんだけどさ」

啓吾   :「お前んとこ遠いし、ご両親だっているだろう?」

優香   : ビールやグラスを運んで来る。

翔    :「いいじゃん、啓吾の所から遠くたって。(彩香に向かって)ねぇ?」

彩香   : 笑っている。

優香   :「(たしなめ口調で)そうもいかないでしょう?」

翔    :「(彩香に体を乗り出して)そうだ、彩香ちゃん。啓吾に助けられたからって、『命の恩人』だなんて恐縮する必要はないからね。こいつは人の世話焼くのが趣味みたいな奴だから」

啓吾   :「あのな‥‥」

翔    :「こいつは、誰かがコピー機の前でちょっと戸惑っているとシャシャリ出て来るって、そういう奴だから」

啓吾   :「お前な!」

優香   :「(可笑しそうに)でも、啓吾君って本当にそうよね」

彩香   : 啓吾をちらっと見て、口元に指を当てて笑う。


       啓吾、一人テーブルに片肘をつく。


啓吾   : 「なんか、俺さんざん‥‥」


       優香、彩香に笑みを送ってキッチンに戻ろうとする。

       彩香、椅子から腰を浮かす。


彩香   :「あっ。何かします」

優香   :「(驚いて)いいの、いいの。座ってて!」

彩香   :「でも、何か出来る事‥‥」

優香   : 手を腰に当ててちょっと考えて、

      「じゃ!」

       彩香を手招き。


       彩香、席を立つ。

       翔、優香と彩香を目で追う。


啓吾   : 翔にビールを差し出して、

      「おい」

翔    : 目を戻す。啓吾に身を乗り出して小声で、

      「お前さ、本当はあの子、ずうっと自分のアパートに置いておきたかったんだろう?」


       啓吾、胡散臭げな表情。

       キッチンの優香と彩香を一瞥する。

       一瞬、赤面する。目を戻し、


啓吾   : 殊更不機嫌そうな顔で、

      「何、言ってんの?」

       ビール瓶をしゃくって見せて、

      「ほら」

翔    : 手で自分のグラスを被って、

      「ああ、俺、今日、車だから」

啓吾   : 怪訝な顔でビンを引っ込め、

      「車ぁ? お前、本当に今日、何やってたの?」

       自分のグラスにビールを注ぐ。


       洗面に彩香と優香


優香   :「使い方、分かるわよね?」

彩香   :「はい」


       優香、キッチンに戻る。


彩香   : 洗面を見て、いぶかしげな表情。

      「あのお‥‥。優香さん?」

優香   :「(声のみ)ええ!?」

       戻って来て洗面を覗いて

      「なぁに? どうしたの?」


       彩香、一角を指差す。

       洗面台の脇に歯ブラシが2本。


彩香   :「どなたか、他に、いらっしゃるんですか?」


       優香、歯ブラシの1本をサッと取り、背中に隠す。


優香   :「アハハハ! 気にしない、気にしない!」


       優香、あとも見ずにキッチンに戻る。ゴミ箱のペダルを踏んで蓋をあけると、歯ブラシを放り込む。

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