第3話 彩香、絶体絶命(1/13)

■シーン1■  帝釈宮、広廊下


       帝釈天と吉祥天女、画面奥から並んで歩いて来る。吉祥天女の後ろには風花と梢。帝釈天の後ろには武装天人が1名従う。


帝釈天  :「賛同しかねますな!」


       一行、画面手前に歩いて来る。


帝釈天  :「第4天上界からは撃退したとは言え、侵入した火竜を掃討し終えた訳でもないのに、どうして地上に部隊を派遣する事など出来ましょう?」

吉祥天女 :「ですから、部隊の派遣をとは申し上げておりません。吉祥宮より数名の天女を降ろしますゆえ、その護衛の人数をお貸し頂きたいと申し上げております」

帝釈天  :「ですから、それが、」

       立ち止まって吉祥天女と向き合う。

      「無用だと申すのです。地上といえども広い。2、3の吉祥宮天女を降ろしたところで、たかが1頭の火竜を見つけられるとは思えませぬな」

吉祥天女 :「地上界の危険を知りながら、それを見捨てよ、とおっしゃられるのですか?」

帝釈天  :「お話では、火竜の落下点は北緯35度付近との事。そんな高緯度で熱擾乱は起こりますまい」

吉祥天女 :「昔の常識は、今の地上界には通じません。それに、仮に熱擾乱が起こらずとも、火竜自体が、地上の生物への十分な脅威です」

帝釈天  :「地上には地上人がおる。彼らが何とか致しましょう」

吉祥天女 :「彼らは火竜の事を知りません」

帝釈天  :「それは、彼らの責任! 天地自然の営みを忘れ、物質文明などにうつつを抜かしておる地上人の責任で、我等には関りのないことでありましょう」

吉祥天女 :「帝釈天様、それは違います」

帝釈天  :「何が違うとおおせられる?」

吉祥天女 :「天上と地上とが無関係でなどいられないと申しているのです。天上と地上とは同じこの星のはらから。

       第3物質のこととて、そうです。我等から地上との関りを断ったとて何の解決になりましたでしょう。今進行しつつある第2天上界のオゾンの結界の崩壊を招いただけではありませんか。思えば、今回の第7天上界の結界の破界も、余りにも異常な事。もしかしたら、上部天上界にも第3物質の影響が出ているのかも知れません」

帝釈天  :「これは、異な事をうかがう」

       吉祥天女をまじまじと見る。

      「我等は常に吉祥宮よりの情報に基づき行動し、このたびの破界では多数の負傷者を出しております。吉祥宮におかれては、それすらも地上人の責任とされるお積りか?」

吉祥天女 : さっと青ざめる。

      「その様な事は申しておりません!」

帝釈天  : 薄ら笑みを浮かべて

      「ほほう。それでは吉祥天女殿には、今回の件につき責任をお取りになると?」


       吉祥天女、口をつぐむ。


風花   :「(思わず前に出ようとして)帝釈天様、それは――」


       吉祥天女、風花を手で制す。


       廊下に、新たな武装天人が走り来てひざまずく。


武装天人2:「帝釈天様。第5天上界において、火竜の追い込みを完了致しました」

帝釈天  : 振り返って、

      「相分かった。今参る。出撃の準備をせよ!」

武装天人2:「はっ!」

       走り去る。

帝釈天  : 再び吉祥天女に顔を向け、

      「お聞きの通りだ。職務があります故、これにて失礼する。吉祥天女殿の職責に関しては、事態が収まってからゆるりとお話ししようではありませんか。せっかくですから、執政会議の席ででも?」


       帝釈天、踵を返す。付き添いの武装天人従う。


帝釈天  :「参る!」

武装天人1:「はっ!」

帝釈天  :「(聞こえよがしに)まったく! 天女が火竜に喰われるなど、吉祥宮では、どのような教育をしておるのやら!」


       吉祥天女一行。風花も梢も心持ち青ざめる。吉祥天女は帝釈天を見送っているため表情はうかがえない。


風花   :「吉祥天女様‥‥」

吉祥天女 : 後ろ姿、右肩から拳までが震える。

      「口惜しい。なんと人も無げな帝釈天様のおっしゃり様。彩香は、他ならぬあなたの姪、亡き兄上様のたった一人の忘れ形見ではありませんか。それを、憐れとも思われないのですか!」

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