第2話 羽衣と九耀と約束(5/11)

■シーン8■ 朝の海岸


       家屋の中。

       羽目板の隙間から朝日が差し込んでいる。鳥の声。波の音。


       彩香、寝顔。

       肩に日が当たっている。

       枕許に置き手紙。風で飛ばない様に彩香の腕輪で重石してある。


置き手紙文面: 「すぐ戻る。

         動かぬ事。

             土門 啓吾

         天女の彩香ちゃん」


       戸口。外はすっかり明るい。


       朝の海。波間を鳥が飛び交っている。


       海面。

       一部が不意に泡立ち、盛り上がったかと思うと、激しい蒸気とともに火竜が姿を現す。

       火竜、喉を鳴らす。


火竜   :「グルルル‥‥」


       海から見た海岸


       火竜、再び海中に潜る。


       泡立つ海面が岸へ向かって移動する。



■シーン9■ 城址公園


       公衆電話。ピーピーと音を立ててテレカが戻る。


啓吾   : 「(独白)参ったな‥‥」

       再び電話機にテレカを入れてダイヤルする。

       しばらく呼び出し音。

       相手が出る音。

      「あ、母さん? 俺!」

和子   :「啓吾!? あんた、今どこにいるの?」

啓吾   :「小田原。えっ? いや、俺は何ともない。ちょっとトラブッて帰れなかっただけ。

       ‥‥。

       えっ、伊東へ? いや、今日は東京帰るよ。仕事だってあるんだし。

       で、ちょっと頼みがあるんだ。東京と連絡が取れないんだ。

       ‥‥。

       いや、知らんけど、繋がらないんだ。

       で、まさかとは思うけど、もしもそっちに連絡が行ったら、俺の状況を伝えといて貰えないかな。‥‥。いや、無事だって言っといて貰えりゃそれでいいよ。

       ‥‥。

       うん。

       ‥‥。

       うん。

       ‥‥。

       いや、だから、帰るって、東京に。

       (次第に早口)じゃ、電話切るから、伝言だけお願い。後でまた連絡するから。じゃ、切るよ!」


       啓吾、受話器を戻して、深いため息。

       ピーピー鳴っている電話機からテレカを取る。


       救護センター窓口。

       啓吾、スタッフに質問。


啓吾   :「救急車、まだ回してもらえませんかね?」

スタッフ :「駄目だ、駄目だ。土門君、怪我人が歩けるなら歩かせた方が早いぞ!」

啓吾   : 空を仰ぎ独白。

      「歩かせるかな」

       海岸に目を転じ、

      「ただ、あの子、自分を天女だと思っているからな、おとなしくついて来るかな?」

       麓に目を転じ、

      「ん?」

       歩き出す。



■シーン10■ スーパーこぐま


       道路脇に、スーパーこぐま。「24時間営業中」の貼り紙。「民間救護物資配布所」の立て看板。

       店の前で数人の若者が火を焚き、炊き出しの準備中。

       啓吾のバイクが滑り込んで来る。啓吾、バイクを止めて店に入る。


       スーパーこぐま、店内。


啓吾   :「おやじさぁん。女の子が羽織れるようなもの、何かないかな?」

店主   :「兄さん。そこは売り物だよ。救護品は、こっちの入口の段ボールだ」

啓吾   : 振り返る。陳列棚を離れてレジ前へ歩く。

      「何? 商売もやってるの?」

店主   :「そりゃ、そうだろう? それが仕事だもの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る