第2話 羽衣と九耀と約束(4/11)
■シーン5■ 再び、倒壊家屋の屋内
BGMは「ゴジラのテーマ」。
啓吾 : 混乱し、立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ってね!」
手で彩香を制する様に。
「落ち着こうね! こういう時にはとにかくお互い落ち着こう! つまり、君は、あの天女みたいなのの仲間だって言うの!?」
彩香 :「(顔を上げ抗議口調)『みたい』でなくて、(上目遣いに慎重な口調で)『天女』ですけど?」
啓吾 :「(決めつける様に)君、記憶ないでしょう!?」
彩香 :「(断然抗議)おじさま、記憶をなくすと自分が地上人か分からなくなります?」
啓吾 :「(ほとんど悲鳴)『おじさま』ってやめてよぉ!! 君ってクラリス!? それじゃ、あの背中に翼はやした赤まむしの化け物、一体何?」
彩香 : やや呆れて、
「赤まむし?」
BGMはフェードアウト。
彩香 : 考え込む。やがて、
「おじ‥‥、あなたが見たのは、多分、火竜ではないかと思います」
啓吾 :「(オウム返しに)火竜?」
彩香 :「火竜は外天界の生き物なんです。普通は第7、第6天上界の結界に阻まれて『この星』に入って来ることはないのですけど、強い擾乱などで結界が破れると、上部天上界に現れて暴れるんです。
でも、地上との間にも第1、第2天上界の結界があるし、地上に火竜が現れたのだとしたら、第2天上界のオゾンの結界のホールを通って?
(口許を押さえて急に叫ぶ)あああっ!」
啓吾 : ぎょっとして、
「な、何!?」
彩香 : 泣きそうな顔で、
「あたし、今何か飲んじゃいましたよね!?」
啓吾 : 訳が分からず、
「飲んだよ」
彩香 : 顔をそむけ、手で口を押さえて、
「うっ!」
啓吾 : 逆上する。
「何、そのリアクション!?」
彩香 : 悲しげに、
「だって、地上界って第3物質がいっぱいだって‥‥」
啓吾 : 再び彩香の前に腰を下ろす。ただでは済まさんという怒気を漂わし、
「何、その第3物質って?」
彩香 :「この星に自然に存在する空気や鉱物でなく、生物の活動で生まれたものでもなく、地上の人が作ったおかしな物質を、あたし達は第3物質と呼ぶんです。地上は今、第3物質でいっぱいで、まともな生き物は生きられないって‥‥」
啓吾 : 苦い顔。しばし物も言えず。
「君、記憶がない割には嫌な事を知っているんだね?」
彩香 : 申し訳なげに上目使い
啓吾 : 立ち上がりながら
「ちなみに、さっきのスープは、うちの会社の商品なんだけど?」
彩香、失言に気づいて、あわてて左手で口を押さえる。
その彩香の前に、再びマグカップが差し出される。
彩香、ギョッとして身を引く
彩香 :「な、何ですか!?」
啓吾 :「(彩香の前に顔を突き出し)微生物! (顔を引いて)が作ったアルコール。(彩香にカップを押し付け、立ち上がりつつ)お湯で薄めたから、それ飲んで、君、少し寝ちゃいなさい」
彩香 : カップを見、上目使いに啓吾を見、再びカップを見る。一口飲んでむせる。
「コホッ! コホッ! 苦い!」
啓吾 : 振り返りつつ、
「いいから全部飲んじゃいなさい」
彩香、上目使いに啓吾を見、もう一口だけ飲んでカップを置き、画面に背を向けて寝袋にもぐり込む。
彩香 :「(ぼそりと)意地悪なおじさまだな‥‥」
啓吾 : 逆上しかけて独白、
「この小娘、首締めてやろうかな‥‥」
二人。彩香は寝袋の中。啓吾は少し離れて自分用にコーヒーを入れている。
啓吾 :「時にさ、天女ってのは、美人で大人で、羽衣とか着るんじゃないの?」
寝袋の中の彩香、ぱっちりと目を見開く。
啓吾の声がリフレイン。
「美人で大人で、羽衣とか着るんじゃないの」
「美人で大人で、羽衣とか‥‥」
「美人で大人で‥‥」
彩香、しばし無言の後、熊がうなるような低い声で、
彩香 :「羽衣なら着ますよ、大人になれば。あたしは着ていませんでした?」
啓吾 : 気が付いて、渋面。
「あ!」
■シーン6■ 回想
第1話、海岸にて、啓吾が枝にからまった彩香の羽衣をナイフで切り捨てるカット。
啓吾(ナレーション):「もしかして、あれかな‥‥」
■シーン7■ 再び屋内
啓吾 : 彩香の方を向き、
「だけど、君の羽衣、その火竜とやらが食べてた」
彩香 : 上体を跳ね起こす。
「えええっ! (左手で右腕を押さえ)あいた、あいた、あいた!」
啓吾 : 呆れ顔。彩香に歩み寄り、
「おおい、大丈夫かよ?」
彩香の右腕に触れる訳にもいかず、肩を抱いてやる。
彩香 :「す、済みませんっ!」
苦しげに顔をしかめながら、啓吾の胸にもたれる。
啓吾 :「それって、やっぱり大変な事なの? 元の世界に戻れなくなるとか?」
彩香 :「そんな事もないんですけど‥‥、」
ようやくに表情を多少和らげ、啓吾の胸から離れながら、
「羽衣は、あたし達の翼の羽根で出来ていて、あたし達の体の一部みたいなものなんです」
自力で体を支えて、啓吾をちらっと見て、赤面して顔を伏せる。
「それを食べたって事は、火竜が、この星の命を得てしまったのでないかと思うんです。それさえなければ、火竜なんて、地上界では自然に消えてしまうものなんですけど」
啓吾 : 釈然としない顔。
「ふ、ん?」
彩香を見て、
「まぁ、とにかく、君、今日は寝ろ。悩んだって仕様がないから」
彩香 :「(まだ少し苦しげに)そうします」
啓吾、彩香が横になるのに手を貸してやる。
立ち上がって彩香から離れかけて、
啓吾 :「そうだ! 君、『アヤカ』って名前でない? そんな名前で呼ばれた憶えない?」
彩香 :「アヤカ‥‥、アヤカ‥‥。よく‥‥、分から‥‥ない」
啓吾、身を乗り出し彩香の様子を伺う。
彩香、寝顔。考え事を続ける様に左手の甲を額に当てている。
啓吾、彩香の脇にしゃがみこんで、
啓吾 :「寝たか‥‥。たわいもない」
彩香の左手を寝袋の中に入れようとし、その前に左手首から腕輪をはずしてやる。腕輪を一瞥し、枕許に置く。
啓吾 :「天女、ねぇ‥‥。宇宙人とでも言ってくれる方が余程説得力があるんだけどね」
『九耀の腕輪』アップ。石が一つ欠けている。
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