第2話 羽衣と九耀と約束(3/11)

       彩香、啓吾の胸で震える。

       啓吾、居心地悪げ。ゆっくりと視線を降ろし、毛布一枚の彩香を見る。

       腕を下ろし、ふと気づいてカップの胴を自分の頬に触れさせる。

啓吾   :「(声には出さずに)あちっ!」

       カップを左手で支え、右手で毛布を引き上げて彩香の肌を包み込んで両腕で抱きしめる。

       抱擁する二人。


啓吾   : しばらくして、彩香の様子を伺い、

      「少し、落ち着いた?」

彩香   : 小さくうなずく。

啓吾   :「(用心深く)君‥‥、さ」

彩香   :「(震え声)はい」

啓吾   :「(困り口調)お兄さんに‥‥、ちょっと刺激的なんだけど‥‥、な」


       彩香、目を開く。

       ゆっくりと顔を起こす。

       啓吾の目と会い、見つめ合う。

       彩香、弾かれた様に啓吾から離れる。

       あわてて毛布で身体を隠す。胸元を押さえ、顔を伏せる。耳まで赤くなっている。


彩香   :「(叫び)ごめんなさい!」

啓吾   :「(息をつき、ほっとした表情で)震え止まった?」

彩香   :「(啓吾からますます身を引き)済みませんっ!」

啓吾   :「(おどけて)いやいや、」

       立ち上がる。

      「お役にたったのなら何より」


       啓吾、意味もなく戸外へ。家屋に背を向け、パタパタと手であおいで顔に風を当てる。


啓吾   :「(屋内に)あのさ。君、すごく運がいいよ。波に巻き込まれて助かったんだから」

       ふと手を止めて見つめ、ジーンズのポケットに突っ込む。

      「今、混乱しているだろうけど、すぐに落ち着くから。そうしたら記憶だってすぐに戻るから、大丈夫! 今は心配する事ないよ」

       小さくクシャミ。

       しばらく沈黙。波の音。

       啓吾、体を左右に揺する。


       屋内の彩香、まともに顔が上げられない。それでも必死で、


彩香   :「あの!」


       戸外の啓吾、あわてて貧乏揺すりを止める。


啓吾   :「うん?」


       室内の彩香、状況を一生懸命に好意的解釈。


彩香   :「助けて下さったのですか?」


       戸外の啓吾。家屋に背を向けたまま、


啓吾   :「うーん。まあ、そんな所。助けたっていうか、見つけたっていうか?」


       室内の彩香、やっぱり冷静ではいられないものの、必死で、


彩香   :「あの!!」


       戸外の啓吾、目はひたすら空に向けて、


啓吾   :「うん!」

彩香   :「(声のみ)ここは、どこですか?」

啓吾   :「ん? 小田原!」


       屋内の彩香、うつむいたまま怪訝な表情で、


彩香   :「オダ‥‥、ワラ?」

       顔を起こす。

      「第5天上界なのですか?」


       戸外の啓吾


啓吾   :「違うよ! (眉をひそめて)ん!?」


       屋内の彩香、考え込んでいる。


彩香   :「オダワ・ラ‥‥。 オ・ダワラ?」


       ドタバタと啓吾の足音。

       彩香、顔を上げる。

       啓吾、戻ってくると、彩香の前に顔を突き出す。


彩香   : 驚き顔。毛布をさらに引き上げて、

      「何か‥‥?」

啓吾   :「(疑念と当惑の混ざった顔で、用心深く)あのさ、変な事聞いていい? さっき、俺、妙な夢を見てた気がするんだよね」

彩香   : 当惑顔。毛布はしっかりと左手で押さえて、

      「夢、ですか?」

啓吾   : うなずいてみせる。

      「大口開けたデッカイ化け物が、いきなり俺を襲って来たんだ。そうしたら、白い羽を着けた女の子が3人、空から降りて来て助けてくれた。こんな話、君、どう思う?」

彩香   : 驚き顔。まじまじと啓吾を見つめ、やがて、

      「(用心深く)あの、変な事聞いていいですか?」

啓吾   :「何でしょ?」

彩香   :「あなたは、‥‥もしかして地上の方? ここは地上の世界ですか?」


       見つめ合う二人



■シーン4■ 映画のアイキャッチ風


       海。大波が岩に打ち寄せ音を立てる(「東宝」の文字の代わりに、ビックリマークが浮かぶ。画面右下隅に「映倫」のロゴ)。

       SEにゴジラの咆哮。*1

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