第2話 羽衣と九耀と約束

第2話 羽衣と九耀と約束(1/11)

■シーン1■ 第四天上界、西宮門跡


       曇天から舞い降りる多数の火竜


火竜   :「ギャーッ! ギャーッ!」


       馬上に帝釈天。『九耀』の胸当て、白いマント、白い武具、頭に孔雀の冠。


帝釈天  :「(鞭をふるい)いかずちの矢を構えよ」


       武装天人の弓隊。弓に矢を番える。

       武装天人も全て孔雀の冠、『九耀』の胸当て。


帝釈天  :「放て!」


       武装天人が次々に矢を放つ。稲妻が走る。

       雷鳴と共に数頭の火竜が矢に穿たれ、稲妻が火竜を真っ二つに切り裂く。

       生き残りの火竜が更に前に進もうとする。


帝釈天  :「防げぇっ! 一頭たりとも宮門内に火竜をいれるなーっ!」


       抜刀した武装天人が、翼を広げて次々に舞い上がる。


       火炎球を吐く火竜の群れ。



■シーン2■ 第三天上界、吉祥宮


       地上から戻った3人の天女が、吉祥天女に報告する。


吉祥天女 :「彩香が!? 間違いはありませんか!?」

風花   :「はい。私達が追いついた時には彩香はもう‥‥」

吉祥天女 :「それで、その火竜は!?」


       風花、苦し気にうつむく。

       雫、風花の様子を見て、


雫    :「火竜は、風花がつむじの矢で射取り、海に沈みました。今頃は消滅したものと思われます」


       吉祥天女、悲痛な表情を浮かべる。しばらくうつむき、やがて顔を上げる。


吉祥天女  「火竜は恐らく消滅してはいないでしょう」

三人   :「えっ!」

吉祥天女 :「火竜は、外天界の生き物です。そのままでは、地上では取るに足りません。

       しかし、天女を捕食したという事は、火竜が、この星の命を得たという事なのです。命を得た火竜は、地上でも消滅せず、更に地上の生命を奪い、天上の力と地上の力を合わせ持った時に、再び外天界へ舞い上がろうとします。その時には熱擾乱(ねつじょうらん)を起こし、地上と天上に大きな被害を及ぼす事でしょう」


梢    :「(小声で風花に)熱擾乱って?」

風花   :「地上の大気の擾乱よ。中心に熱気の核があって渦巻きみたいな雲が出来るの」

梢    :「ふーん」


吉祥天女 :「火竜の起こす熱擾乱は、第一天上界の結界を破って天上界をも突き抜けて行くのです。中心の熱気は灼熱し、渦雲は海を覆い、巻き起こる風は地上の生き物を根こそぎにします。吹き上げる熱風は7つの天上界を貫き、この星の成層は完全に破壊されてしまう事でしょう」

風花   :「天上界まででございますか!?」

梢    :「大変やわ!」

吉祥天女 :「地上は、今、第3物質の影響で気温が上昇し、熱擾乱の起こりやすい状態になっています。それに彩香は、強い九耀の力を持った帝釈天家の娘です。その力を得た火竜が熱擾乱を起こせば、どれ程の規模になるかは知れないのです」

風花   :「吉祥天女様。私達を今一度地上にお遣わし下さい」

吉祥天女 :「なりません。命を得た火竜は、もはや天女の手に負える相手ではありません。事が収まるまで、あなた方はこの第3天上界の『白雲の都』より出てはなりません。

       それよりも、風花。あなたはすぐに、地上観測を強化しなさい。熱擾乱の前兆を見い出し、火竜の位置を補足するのです。雫は、風花に代わって太陽バースト監視の指揮、梢は風花の下につきなさい」

三人   :「はい!」


       風花、雫、梢、立ち上がる。

       吉祥天女、一人佇み、


吉祥天女 :「(独白)これは、帝釈天様のお手をわずらわさねばなりますまい。でも、あの地上人嫌いの帝釈天様が、果たして兵を出して下さるやら‥‥」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る