第1話 夏の始まり(10/11)

       啓吾、雫と梢の前に立つ。手にボートのオール。

       啓吾、オールを八双に振り上げる。


啓吾   : 「この赤マムシのバケモノ! 俺が相手だ!」

       突進する。

火竜   : 「地上の生き物風情が、失せろ!」

       右腕の爪を振り降ろす。


       啓吾、火竜に向かって殺到する。


啓吾   : 「であー!」

       右八双からオールを振り上げる。


       激突する火竜の爪と啓吾のオール。

       オールの水かきが、火竜の爪に、薄紙の様に切り裂かれる。

       火竜の第2撃。オールが、中ほどで、大根の様に切り飛ばされる。


       啓吾、短くなったオールに目を見張りつつも、折れた先端を真っ直ぐに突き出す。


啓吾   : 「でやっ!」


       火竜の尾が空を切る。


       火竜の尾が啓吾の腹を打ち吹き飛ばす。


啓吾   : 「ぐわっ!!」


       砂地に叩きつけられる啓吾。


       火竜、尾を振り戻し、頭を下げて咆哮する。

火竜   : 「ギャアアアアア!」


       火竜、啓吾に襲いかかろうとする。

       その横っ面を、激しい水流が打つ。


火竜   : 「グア!」

       振り返る。


       雫、砂浜に立ち、右腕で大きく空に弧を描く。

       周囲を、輪を描くように、水が踊る


雫    : 「ええいっ!」


       雫の周囲の水が奔流となって、火竜の顔面を打つ。


火竜   : 「ガウッ!」

       雫に向かって行きそうになるが、すぐに気を変えて、再び啓吾に向かう。


       梢、右手を前に突き出す。

梢    : 「やっ!」

       梢の小袖の袖口から緑のツタが伸びる。


       ツタが宙を走り、火竜の右爪に巻きつく。

       火竜、振り返る。


火竜   : 「ぐぐっ!」


       雫と梢、力を合わせてツタを引く。

雫、梢  : 「うーん!」


       火竜、右腕を引く。


       雫と梢、ツタに引かれて、砂の上に放り出される。

雫、梢  : 「きゃーっ!」


火竜   :  咆哮する。

     : 「ギャアアアア!」

       雫と梢に向かおうとする。


       数発の光弾が火竜を襲う。

       振り返る火竜。


       風花、矢を番えた弓弦を引いて、


風花   : 「火竜、こっちよ!」


       風花、矢を放つ。

       矢が空を飛ぶ。飛矢が風を巻き、つむじ風を起こす。

       矢が火竜の左目に刺さる。


火竜   : 「ギャッ!!」


       つむじ風が、轟音と共に火竜を包み込む。

       火竜の体がつむじ風に巻かれて舞い上がる。

       火竜、背中から海に投げ出される。

       水しぶきが上がる。

       火竜の体が海に沈む。


       風花、弓を下ろし走り出す。


       泡立つ海面。波打ち際に走り寄る三人の天女。


       風花、雫、梢、立ち姿。


雫    : 「やっつけたの?」

風花   : 「と思うんだけど」

梢    : 「(着物の袖で口許を覆って)いやあ、えらい臭いやわあ!」

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