第1話 夏の始まり(8/11)
■シーン15■ 引き続き、海岸
啓吾、松の倒木の間に立つ。
啓吾 : 「(茫然と)女の子?」
さらに一歩踏み出す。
松の倒木の間に彩香、目を閉じ、生死不明。
彩香、横顔。波が胸元を洗う。
啓吾、足場を確保し、枝を左手で握って体を支えつつ、恐る恐る右手を差し出す。
啓吾 : 「おい、君」
啓吾、アップ。
啓吾 : 「生きてるかい?」
彩香の頬に触れる啓吾の手。
啓吾 : 「(ナレーション)後になれば笑い事だが、この時はマジで怖かったのだ。少女の顔は蒼白だったし、濡れた髪の貼り付いた頬は石の様に冷たかった。だが、かすかにだが呼吸をするのは感じられた」
啓吾、手を引いて、
啓吾 : 「大変だ!」
さらに一歩、前へ踏み出す。松の枝を踏み分ける。
啓吾、彩香の肩の下に右腕、膝の下に左腕を入れて持ち上げようとする。
羽衣が枝に絡まり、彩香の体が持ち上がらない。
啓吾、一旦、彩香の体を下ろす。
啓吾 : 「ちっ! 絡まってら」
啓吾、改めて彩香の状態を眺め回す。ジャケットのポケットからナイフを取り出す。
啓吾 : 「ファーかと思えば、水鳥の羽根か。また変わったものが流行るな。恨むなよ」
ナイフの刃を出す。
啓吾、ナイフで彩香の肩衣、袴を切り裂き、羽衣を切り離す。
啓吾、改めて彩香の体を抱き上げる。衣服から水が滴り落ちる。
啓吾 : 「(ナレーション)失敗続きのこの日の中でも、最大の失敗がまさにこれだった」
啓吾、彩香の体を横抱きにして、海の中を歩いて運び出す。彩香の小袖から海水が滴る。
啓吾 : 「(ナレーション)むろん、その時の俺がそんな事を知るはずもない。切り捨てたものが何であったかなどと考える暇もない。とにかく、少女の身体を温めるのが先だった」
啓吾、砂浜に倒れた家屋の2階部分の窓を蹴破って、彩香を中に担ぎ込む。
■シーン16■ 倒壊した家屋の中
啓吾、ひっくり返った引き戸の上に彩香を下ろす。
啓吾 : 「よいさっ!」
戸板に横たわる彩香。戸板が海水でぐっしょりと濡れる。
啓吾、Gパンから携帯電話を取り出す。
啓吾の手の中の携帯電話、アップ。
ストラップに仮面ライダーのマスコット。*3
ディスプレイに「デンパガトドキマセン」の表示。
啓吾 : 「(いらだたしげに)『電波が届きません』!?
チクショウ! 駄目じゃん!」
啓吾、横たえさせた彩香の様子を伺う。
啓吾 : 「(独白)救急車を呼びに行くか!? だけど、この子、右腕折ってるぞ」
頭をかきむしり、
「ええい!」
腹を決めて立ち上がる。
啓吾、室内に転げた椅子を拾い上げる。
椅子の脚を両手で掴むと、「むっ!」とうなって力を込める。
上腕の筋肉が膨れる。素手で椅子の脚を叩き折る(啓吾の膂力を強調)。
消防団のロゴ入り鞄から包帯を取り出す。
毛布に包まれ、寝袋の上に横たえられた彩香。
頭に包帯。止血にはなっているものの、かなり乱暴な巻き方。
右肩からは、腕に添え木した椅子の脚が覗いている。
啓吾の影が、画面を横切る。
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