第1話 夏の始まり(7/11)

■シーン11■ 小田原城址公園


       城址公園、「救護センター」の横断幕が風にはためく。


       芝生に横たわる啓吾。


       横たわる啓吾、アップ。額に手を当てつつ、


啓吾   : 「(独白)う~‥‥、だからぁ、余計な事に手を出すなって茉莉に言われるんだろう‥‥」


       一人の少女が啓吾の様子を覗きに来る。


少女   : 「土門さぁん。タオル濡らして来てあげましょうかぁ?」

啓吾   : 「いや、いいっす」

少女   : 「大丈夫ですかー!?」

啓吾   : 「いや、本当に、大丈夫」

少女   : 「無理しないで下さいねー(立ち去る)」


       仰向けに寝転ぶ啓吾、アップ。顔を腕で覆って男泣き。

啓吾   : 「『本郷猛』は強かった!」*2


       寝転ぶ啓吾。周囲で動く人々の声。啓吾、じっと空を見る。


       よく晴れた初夏の空。



■シーン12■ 回想


       啓吾の回想。東京某所、某夜。啓吾を見つめる茉莉。


茉莉   : 「結局、啓吾は自分の事しか考えていないのよ!」



■シーン13■ 再び、小田原城址公園


       寝転ぶ啓吾。じっと空を見つめる。しばらくして、


女性スタッフ: 「(声のみ)救護物資が到着しましたー!」


       遠くに女の姿


女性スタッフ: 「手の空いている方! 物資の搬入の手伝いをお願いしまーす」


       仰向けの啓吾


啓吾   : 「手伝いますかね‥‥」

       フラリと立ち上がる。

       歩き出す。ふっと顔を上げて振り返る。


       城址公園から海岸を遠望。


       啓吾、体ごと向きを変え、目を細めてかなたを望む。


啓吾   : 「んん! 海岸に人!?」


       海岸遠景。


       啓吾。口元に手を当て顔をそむける。


啓吾   : 「うっ!!」


       啓吾、口元を押さえながら、


啓吾   : 「うえっ! だけど、人だったらやばいぞ」


       啓吾、バイクを引き出す。跨がりヘルメットをかぶってエンジンをかける。走り出す。


少女   : 「あっ! 土門さん!?」


       坂を降りて行く啓吾の後ろ姿。



■シーン14■ 海岸


       海岸通りを走る啓吾。

       そのむこうに見える海岸は、瓦礫の浜と化している。

       波打ち際に無数の松の木が倒れ緑の帯をなしている。

       その端に、小さく白い布切れが見えて来る。


       啓吾、砂浜にバイクを乗り入れて停車する。


啓吾   :  ヘルメットを取り、かなたを見はるかし、

      「うわっ! やっぱり人かよ!」

       バイクを降りる。


       遠景に、波打ち際を駆ける啓吾。近景に、波が松の根方を洗う。


       松の倒木の間に分け入る啓吾。


啓吾   : 「おおい!」


       松の枝をかき分ける啓吾。松葉が顔に当たる。


啓吾   : 「っつ!」

       枝をかき分け、更に進む。

     : 「おおい! そこの人!」


       かき分け、かき分け、先へ進む。


       波打ち際に立つ啓吾。呆然として、その場を見つめる。

       波の音。


       松の根方に彩香。

       意識はなく、血の気のない顔に額から血を流している。髪は濡れて、左右に分けて束ねていたのがバラけて顔に貼り付いている。

       羽衣は裂け、その下の小袖も、松の枝が刺さり破れている。

       左袖は裂けて、二の腕から血を流しているのが見える。

       右腕は、枝の分かれに挟まれて不自然な姿勢。

       両足は腿まで海に浸かり、袴が裂けて左足が覗いている。脚絆が途中までほどけて左足の靴が脱げている。

       波が、彩香の体を洗っている。

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