第1話 夏の始まり(2/11)

■シーン3■ 吉祥宮(きっしょうきゅう)

*シーン3-1* 地球


       漆黒の宇宙を背景に、地球が小さく浮かぶ。

       地球を中心に光の渦が集まって行く。

       ズームアップ。



*シーン3-2* 天上界


       雲間に第3天上界、白雲の都(しらくものみやこ)が現れる。

       ズームアップ。



*シーン3-3* 白雲の都


       白雲の都、町並み 風が吹き荒れている。


雫    : 「(声のみ)吉祥宮からの天象通報です。大型で強い太陽バースト6号は、現在金星軌道付近にあり、依然勢力を保ったまま『この星』に接近しつつあります」


       ズームアップ。



*シーン3-4* 吉祥宮、外観


       一筋の大通りの奥に、大門と回廊、巨大な高楼を持つ宮、『吉祥宮』が現れる。


雫    : 「(声のみ)午前十時現在、太陽バースト6号の中心電磁気圧は九六〇、中心付近の最大太陽風速はコンマ四八光速と観測されています。この影響で天上界は全域で異常擾乱に見舞われており、この擾乱は今後更に強まる見込みです」


       ズームアップ。



*シーン3-5* 吉祥宮、放送席


       雫、横顔。


雫    : 「先程、第5天上界西方楽土に対して避難勧告が出されました。現在、『帝釈宮(たいしゃくきゅう)』の部隊が避難の誘導に当っています。該当する地区に居住する皆様は、防災通報と帝釈宮の指示に従い落ち着いて避難を行って下さい」



*シーン3-6* 吉祥宮、観測中枢


       天球内を、複数の天女が浮遊しつつデータの分析と予測に当たっている。


天女1  : 「強プラズマ前線帯、巽の方角へ速度20で前進」

天女2  : 「第7天上界電磁振動データ、入ります」


       梢、作業椅子から振り返り、


梢    : 「吉祥天女(きっしょうてんにょ)様、第4天上界西宮門外のデータが入りません」


       風花、立ち上がりつつ、


風花   : 「あそこは無人の観測所だわ。きっと擾乱の影響で故障したのね。吉祥天女様、私が行って参ります」

吉祥天女 : 「(声のみ)お待ちなさい、風花」


       吉祥天女、立ち姿。


吉祥天女 : 「お待ちなさい」

風花   : 「吉祥天女様。帝釈天様の部隊が西方楽土に展開中です。西宮門外のデータが入らなければ、大きな事故につながるかも知れません」

吉祥天女 : 「(うなずき)分かっています。(目を転じて)雫。梢」

雫、梢  : 「はい」

吉祥天女 : 「それに彩香」


       彩香、ソロショット。斜め後ろから。

       髪を左右に分けてお下げ髪。

       少し驚いた様子で振り返る。


彩香   : 「はい!?」

吉祥天女 : 「一緒に行きなさい。4人とも決して無理をせず、この吉祥宮との連絡を絶やさない様に」



*シーン3-7* 吉祥宮、高楼内部


       高楼を舞い降りる4人の天女。

       天女達は、それぞれ、色取り取りの小袖に揃いの袴肩衣姿。足に鹿革の靴。左手首に『九耀の腕輪』。

       袴、肩衣は、風花、雫、梢は紺色。研修生の彩香は浅緑色。

       風花は頭頂に、雫と梢は額に日輪の冠をつけている。彩香のみ無冠。

       4人、肩衣の下から翼を広げて舞い降りる。



*シーン3-8* 吉祥宮、更衣室


       羽衣を着ける梢と彩香。白い羽衣を、肩衣と袴の帯に結びつける。


梢    : 「(顔を寄せて、楽しげに)彩香、ついとうよ。うち、実習中にこんな騒ぎに遭わんかったもん」


       彩香、手を止め、顔を上げて、にっこりと微笑む。

       雫が、脇から体を伸ばして来て、フレームイン。


雫    : 「あったって、梢なんかを出しゃしないわよ」

梢    : 「(雫に答えて)あはは、それもそうやな! (再び彩香に顔を向け)彩香は、研修生やいうても、吉祥宮ではうちらよりも古株やもんな。けど、もったいない気ぃもするなぁ? その彩香が吉祥宮天女にならへんやなんて」


       彩香、ソロ、バストショット。

       手を止めて、少し寂しげな笑み。


彩香   : 「うん‥‥。でも、叔父様のお言いつけだから‥‥」


       梢、彩香を見つめつつ。

       彩香は手を動かしている。


梢    : 「そうやなぁ。彩香は、秋には18歳になって加冠の儀式やし、そしたらすぐに獅子王様との御婚約や。それなら、始めから日輪の冠やのうて帝釈宮の孔雀の冠やな。(慨嘆して)あーあ、彩香はええなぁ! うちにも素敵な男の人、現れへんかなぁ(おしゃべりに夢中で手が留守になっている)」


       風花と雫、振り返る。二人とも既に羽衣を着け、笠を被っている。


雫    : 「梢。それならすぐにでも恋人見つけるいい方法あるわよ」

梢    : 「(目を輝かせて)本当!? 教えて!」

雫    : 「そのおしゃべり癖を今すぐ直す事! 支度は出来たの?」

梢    : 「(彩香に顔を向け)あかん! これや!」


       彩香、口元に指を当てて、くすっと笑う。

       彩香も、既に羽衣はつけ終わり、笠の紐を結んでいる。


風花   : 「彩香」

彩香   : 「(顔を上げて)はい」

風花   : 「(彩香の笠に垂衣させて)彩香はこれを着けなさい。彩香の羽衣はまだ若いわ。上部天上界の電磁気を浴びたら、肌が火脹れになるわよ」

彩香   : 「うん」

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