第1話 夏の始まり

第1話 夏の始まり(1/11)

■シーン1■ プロローグ


       太陽。漆黒の宇宙を背景に。


啓吾   : 「(ナレーション)その夏は、まばゆ過ぎる太陽の光から始まった」


       閃光が起こり白失する。


雫    : 「(声のみ)本日7時、太陽バースト6号の発生が確認されました」



■シーン2■ 伊東


       和子の窯場。

       戸口の前に啓吾。芦ノ湖キャンプ場のロゴ入りTシャツにGパン姿。

       窯場に向かって声をかける。


啓吾   : 「じゃ、母さん。俺、帰るから」

和子   : 「(振り返り)あれ?」


       和子、頭巾を取り、こちらへ歩いてくる。


       啓吾と和子が並ぶ。身長の対比のしやすい構図。啓吾がかなりの長身なのが分かる。


和子   : 「なんだ。お昼食べて行けばいいのに」

啓吾   : 「とも思ったけど、忙しそうだから今日は帰るよ」

和子   : 「(笑いながら)その忙しい母さんとアイちゃんのためにお昼の支度をしてあげようとは思わないのかい?」

啓吾   : 「(笑いながら)あいにく、こっちも忙しいの」


       アイちゃんも窯場から出て来て、


アイちゃん: 「啓吾さん、お帰りですか?」

啓吾   : 「ええ。母をお願いします」

アイちゃん: 「また、いらして下さいね。あっ。ここ、啓吾さんのおうちですね(笑)」


       バイクを押す啓吾、並んで歩く和子。


啓吾   : 「窯の火は見てなくていいの?」

和子   : 「近頃はアイちゃんが当てになるからね」

啓吾   : 「ふーん」

和子   : 「昨日の話だけどね」

啓吾   : 「ん? あ、ああ‥‥」

和子   : 「あんたが考えて決めた事なら、母さんは構わないと思うよ。あんたには、食品会社の営業なんて似合わないよ。伊東で学校の先生でもやった方が合うんじゃあないのかい?」

啓吾   : 「ん、うん」

和子   : 「伊東へは、いつ帰って来てもいいんだからね」

啓吾   : 「学校の先生も大変らしいよ、今」

和子   : 「そりゃあ、何だってそうだろうさ」

啓吾   : 「まぁ、まだ辞めるって決めた訳でもないんだ。もう少し考えてみるさ」

和子   : 「そうかい? なら、そうする事だね」

啓吾   : 「お邪魔した。また、連絡するから」

       バイクにまたがりヘルメットを被る。

和子   : 「気をつけて」

啓吾     バイクを発進させる。片手を振って、

     : 「じゃあ!」


       坂道を下って行く啓吾。

       その先には、まばゆく光る青い海。


       ズームアウト。初夏の相模湾を望む。


       タイトル。


       啓吾、伊東の街を通り抜けて、海岸沿いの道を、東京へ向けて走り出す。


       国道135号を北へ走る啓吾。

       背中に陽射しが暖かい。

       右手には相模湾の海。左手には緑にあふれた伊豆の山が迫る。


啓吾   : 「(ナレーション)その日、俺は小田原に用事はなかったのだ。その日は、会社の同僚とのキャンプの帰りで、東京へまっすぐに帰れば良かったのだが、伊東にいる母親の所に寄り道したのが、そもそもの災難の始まりだった」


       走り去る啓吾、後ろ姿。

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