中二病女は惚れ魔法を使って彼女のことを堕としたい

でずな

堕ちた……!?



 準備は完璧。

 窓から光が入らないようにカーテンを締め、バームクーヘンのような何重もの層がある分厚いグリモアを開く。


 このグリモアは、人のことを惚れさせるために使うもの。私はいつも無愛想? な、私に惚れている彼女の事を堕としたい。「きゃ〜咲良さくらちゃん大好きぃ〜」って言う感じに。


「くふふ。これであんも私のもの……」


「いつから私が貴方のものになるのかしら?」


「なぬ!?」


 この魔法が成功したあとのことを考えていて、対象である杏が部屋の中に入ってきていることに気づかなかった。


「まぁ〜たこんなよくわからないもの買って……。今度は何をしてるの?」


 呆れたような顔。

 まぁ、これが何なのかわからないからそういう顔になるのも理解できる。


「ふっふっふっ。それを教えるためにはまず、一週間前に遡……」


「端的に」


「はい。えっと、これは杏のことを堕とすための魔法です」


 って、なにバカ正直に教えちゃってるの私。

 慌てて口を塞ぐと、杏は更に呆れた顔になった。

 

「くっ。まさか私がこんな情報を聞き出す高等テクニックにしてやられるやんて……!?」


「ただ聞いただけで高等テクニックなんて使ってないけど」


「なるほど。そうやって油断させ、あわよくばもっと情報を抜き出そうという算段、か。……いくら杏が可愛くて、私の彼女だとしてもこれ以上のことは言えない!」


「いや、うん。それなら聞かなくてもいいかな」


「ぐぬぬ。もうその手には乗らないと言ったばっかなのに! これは私への挑戦。ならば、この魔法使い咲良が受けて立とう! くらえ。惚れ惚れ光線!!」


 右手を腰に。左手の平を杏に向けて魔法を放った。

 ……はずだったが。


「なによ惚れ惚れ光線とかいうダサい名前。そんな変なので私が堕ちるとでも、本当に思ってるの?」


 杏は目の前に来て、見下ろしてきた。 

 バカにしないで、と言わんばかりの鋭い目。

 

「なっ。堕ちてない……!?」


「当たり前でしょ。はぁ。なんで咲良ってこういう変な本をみつけるの上手いのよ」


 あ、れ? なんかさっきから杏のが違う。

 上手く言えないけど、輝いてて目が離せなくて、声を聞くと心臓の鼓動が高鳴ってる。


「ねぇ、ちょっと聞いてるの?」


「なにっ!?」


「だからこの本どれくらいしたの?」

 

「えぇ〜と4000円くらいだったかな。値段なんて見てないからわからないや」


「咲良。この前怪しい本を買うんなら、値段を見て2000円以内って約束したよね?」


「そ、そんなのした……かな?」


「したよ。したした。とぼけたって、嘘付いてるのなんて見え見えなんだからね。約束を破られるなんて悲しいよ……」


「ごめん。その、杏なら許してくれるんじゃないかって思っちゃって。本当にごめん!」


「約束をしてるって覚えてて自分から破ったって認めたね?」


「え〜と、その」


 あっ。これやばい。

 怒ってる。怒ってるのは声色とか、顔から見てわかるんだけどやばいのは私の方。 

 本当はこういう時は謝ったり、悪いと思ったりしないといけないはず。

 けど私は怒ってるの姿を見て不覚にもときめいてしまった。 


 今でも忘れることのない、杏に恋をしたときのような新鮮でどうしようもないときめきが私を襲ってる。


「言い訳をするのならちゃんとした嘘をついて。私のこと何だと思ってるの」


「へへ」


「何笑ってるのよ! 私は怒ってるのよ」


「笑ってるんじゃなくて、杏にその、ときめいちゃって顔がほころんじゃった……」


「と、きめく?」


 なんで怒ってるのにときめいてるの? とでも言いたげな顔。

 私もよくわからない。なんか急に、ね。


「えへへ。そうなんだ。私、いつも以上に杏のことみたらときめいちゃって。えへへえへへ。この気持ち、どうしたらいいんだろう?」

 

「そんなの……私にぶつける以外ないでしょ」


「杏大好きぃ〜!!」

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中二病女は惚れ魔法を使って彼女のことを堕としたい でずな @Dezuna

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