背後にご注意を

によ

背後にご注意を

私には、二歳年上の完璧なお兄ちゃんがいる。

文武両道で、成績は校内トップ3に毎回ランクインするし、所属する野球部ではエース。

そんなお兄ちゃんとは似ても似つかない、地味な私。

小さい頃から周りの友達には「お兄ちゃんかっこいいね」「兄妹なのに似ているところないね」とずっと言われて来た。

完璧人間の妹に生まれて、常に劣等感を持ちながら育って来た私だが、高校生になり、とうとう人生初めての彼氏ができた。

「優香、相談ってどうしたの?」

放課後、私は彼氏の鈴木君とカフェで話をしていた。

「あのね、最近誰かに付けられている気がして…」

「え!?ストーカー!?心当たりは!?」

近頃私は、誰かの視線を背後に感じることが多くなっていた。

「心当たりは特にないんだ…。振り返ってみても誰もいないから、思い違いかなって思ったりしたんだけど、怖くて」

「バイト先の優香にボディータッチ激しいって言ってた先輩は?」

私はカフェでバイトをしている。そこにいる、六歳上のフリーターの人のボディータッチが激しくて、悩んでいた時があった。

「でもその人、先月辞めちゃったし…」

「辞めたって分からないじゃないか!これから放課後とバイト帰りはできるだけ僕が家まで送るから」

鈴木君はそれから毎日、私を家まで送ってくれた。

背後に視線も感じなくなり始めたそんなある日、鈴木君のお母さんが倒れてしまって迎えに来られないと電話があった。

「無理して来なくて大丈夫だよ。うん、うん。最近は付けられてないと思うし。怖くないから。うん。お大事にしてくださいって伝えて」

電話を切って、私はバイト先を出た。

ふう。もう視線感じないな。鈴木君のおかげだ。良かった。

人通りの少ない、暗い道に入った時だった。コツコツと靴の音が後ろから聞こえる。

私が歩く速さを早めると、その音も早くなる。

怖い。鈴木君に電話…。スマホをカバンから取り出し、電話をかけようとしたその時。

肩に手の感触を感じた。

「ねえ」

心臓が跳ね上がり、恐る恐る後ろを向く。

「お兄ちゃん!?」

そこには、お兄ちゃんがいたのだ。

「今日、鈴木君、迎えに来られないんだろ?ストーカーのこともあるし、バイト先に迎えに行ったら、優香もういないって言うからさ」

どうやら、お兄ちゃんは私を追いかけて来てくれたらしい。

「ありがとう。お兄ちゃん!」

あれ。でも、私、ストーカーの話も、今日鈴木君が来られないっていう話もお兄ちゃんにしたっけ…。

「早く帰ろう。今日はビーフシチューだよ」

そう言って、優香の兄は、ニタリと笑った。

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