第4話

「――久しぶりだな、卒業試験以来か?」


「・・・驚いた。まさかアンタがここのとやらだとは」


「ふっ、そういう割には、随分落ち着いて見えるがね・・・からは酷い戦況だったと聞かされていたが、精神的に堪えているわけでもない。流石、私の一番弟子といったところか・・・コーヒーはノンシュガーミルクなしで良かったかな?」


「アンタのことを師だと仰いだことは一度もねえよ、つか彼って誰だよ」


「反抗的な態度はあの時と変わらんねえ、はい、まあ飲みながら話をしよう。カフェインは心を落ち着かせてくれる」


「・・・別に興奮してないけどな」


「はっは、まあそう揚げ足をとるなよ、その様子じゃあ、私が軍を去ったあと、何時までたっても上官に気にいられなかったんじゃないか?」


「生憎、上官は戦況悪化の責任を取らされてとっかえひっかえだったよ、名前も顔も思い出せないくらいのペースでな」


「・・・」


「・・・」


「・・・すまないな、別に暗い話をしようと思って君を呼んだんじゃないんだ。説明責任ってやつかな、こんな老いぼれでも果たすべき責務があると思ってね。この場所がどこか、私が艦長として率いているこの集まりは何なのか、――そしてあの白銀の機体に乗っている彼のことも――ね」


「・・・別に知りたくないことも混ざってそうだ、聞きたいのはここがどこで、同盟軍はどうなったのか、それだけ」


「ここは同盟軍でも帝国軍でもない、とある中立国家の休息地だ。そして、同盟軍は昨日――つまり君が我々に救出された日、『D-17宙域』から完全に撤退する告知を出した。要は帝国軍に『D-17宙域』を譲ったというわけだ」


「なっ――、冗談だろ? 同盟軍が『D-17宙域』を手放すはずがない。あの要所は――」


「あの宙域を諦めるということは、この戦争の敗北を認めるということ。つまるところこの戦争に、見切りをつけたんだろう」


「・・・見切り?」


「落としどころ、と言ってもいい。領土争いに端を発するこの戦争の終点がそこまで迫っているということだよ。帝国軍は民衆の反発を戦争の勝利という大義で包み隠し、同盟軍は帝国軍に情けをかけたというプロバガンダを大々的に打ち出すことだろう。戦争は産業は進歩させ、ナショナリズムは国益に繋がる。その利益と損害の天秤が、まさに昨日形勢を逆転したというのが大筋の見解だ」


「・・・随分難しい話をぺらぺらと」


「訓練学校では教えられなかった特別授業だとでも思ってくれ」


「結局、お偉い方の都合で戦争は始まって、気分で戦争は終わる、ってことか・・・怒りを通り越して呆れちまうな。・・・というか今更教官面するかね、アンタが」


「・・・教官として君たちを正しい道に導けなかったことは今でも申し訳ないと思っている。すまなかった」


「・・・別にアンタの謝罪を聞くために、戦場でボロボロになってたわけじゃない、顔を上げてくれ」


「すまないね・・・卒業試験が終わってすぐ、軍に配属される君たちを見ることもなく姿を消したこと、いつか謝らないといけないと思っていたんだ。くよくよ悩んでるうちに月日が経ってしまった。飛行訓練であれだけ大べそ掻いていた君が『同盟軍のエースパイロット』になるくらいの月日がね」


「繰り上がりでなったエースパイロットなんかに、どれほどの価値があることやら」


「相変わらずひねくれているね君は。・・・ふむ、どうだ、気分転換がてらに外の空気でも吸いに行かないか? ここの空気は結構うまいんだ」


「・・・タバコはあったりしますかね?」


「まだ吸っているのか、相変わらず悪ガキだな」


「十年ぶりの、教え子の頼みなんだから大目に見てくださいよ」

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