夢
によ
夢
俺の日課はこの公園で酒を飲む事だ。
仕事終わりにビールを買って、夏でも冬でもここのベンチに座って飲む。
雨の日は流石にしないがな。
この公園は路地裏にあって、木々に囲まれていて薄気味悪いから、夜は誰もいない。
一人になれる場所だ。
今日もいつも通り公園のベンチに座りながら酒を飲んでいると、人影がちらりと見えた。
「隣、いいかい?」
人影はどうやら男で、自分よりも年上のような重たい声をしていた。
いつもは一本しか飲まないビールを今日は三本も飲んでいるからだろうか。
酔ってしまったのか、人影の顔ははっきり見えない。
「ここは公園のベンチだ。俺だけの場所じゃねえ。座りたきゃ、座りな」
影の男は自分の横に座った。
「ここ、いいよな」
影の男は言いながら、プシュッと缶を開けた。
「あんたもここで酒を飲むのかい?」
ここ数年通っていて、ここで酒を飲む奴は自分しかいないと思っていたが、どうやら違ったようだった。
「ここで飲む安酒は、どんな高級料理店で飲む酒より美味しい」
影の男は言った。
「あんた、金持ちかなんかか?俺は三十歳でフリーター。自慢辞めてくれ」
高級料理店など行ったこともない俺は、皮肉っぽく影の男に言った。
「ではなぜ、フリーターを嫌だと思いながら、その環境下で諦めているんだ?」
影の男は説教をする教師のように熱く語り始めた。
「人間に年齢なんて関係ない。これからどうするか、何をするか。そして、思い描いたことを計画に移すかどうかが一番大切なんだ。お前は夢がないのか?」
俺は余っていた酒を一気に飲んで立ち上がり、叫んだ。
「夢はあったさ!会社を作って、社長になって、モテて、結婚して、幸せに暮らす!そんな夢が!!!」
何故だか涙が出てきた。
「過去形じゃない。これからなんだ。それはお前の未来だ」
影の男は酒を飲み終わったようで、「じゃあ、先に行くよ」と公園を後にした。
・・・・・・・・・・・・
あの出来事から五年後。俺は社長になっていた。
三十歳から、勉強をし直し、考え、実行した。失敗もしたが、なんとか自分のやりたいことが形になった。
以前より、お金はたくさん持っているが、私はあの公園にたまに寄って、コンビニで買った酒を飲む。
いつものように行くと、珍しく今日は先客がいるようだ。
「隣、いいかい?」
夢 によ @niyo
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