第13話 アクバラ魔法学園
【登場人物】
アーク=クリュー……十五歳。勇者。
マール=ララルゥ……十二歳。魔法使い。
リリーナ=ホーリーライト……十七歳。僧侶。
シナモン……全高一メートルの白ヒヨコ。パルフェという乗り物。アークの愛鳥。
ショコラ……全高一メートルの桃ヒヨコ。パルフェという乗り物。マールの愛鳥。
トルテ……全高一メートルの紫ヒヨコ。パルフェという乗り物。リリーナの愛鳥。
アーク、マール、リリーナの三人は、国境を越え、カルティナ王国に入った。
最初の町、アクバラ。
ここにマールの師匠、メイリンも所属している魔法協会がある。
当然のことながら、ポポロニア島唯一の魔法学校もある。
そして、こここそが、マールにとって、当初の目的地でもあった。
だが、今手元には、師匠メイリンの師匠でもある『エルナ=アンバー』が書いてくれた、中央大陸にある魔法学校への紹介状がある。
この島で、地元に根ざした魔法使いを目指すか、中央大陸で学んで、更なる高みを目指すか。
ずっと考えていたことだが、結論は出なかった。
最初の師の元を離れたばかりでまだまだ世間知らずの十二歳のマールには、簡単に決められぬ選択であった。
「じゃ、行ってきます」
「うん、いっといで」
「楽しんでらしてね」
三人は、アクバラ魔法協会の建物前で別れた。
ここには魔法を学べる施設、『アクバラ魔法学園』が併設されている。
今回マールはアンバー先生にお願いして、一日体験入学をさせてもらうことになっていた。
エルナ=アンバーは、ここの理事もやっている顔役でもあり、もしここに入学するのなら、マールは
更に、寄宿舎も備わっているので、在学中、飢えることなく勉学に
いい事ずくめだ。
アークとリリーナは、明朝ここに来る。
それまでに、ここに残るか、先に進むか、今後どうするか決めておくという流れだ。
「大丈夫かな」
「マールさんなら、どこでだってやっていけますわ。結果、どういう道を選ぶにせよ、応援してさしあげましょう」
アークの心配顔をよそに、リリーナはにっこり微笑んでみせた。
「この学園は百年の歴史を持つ、とても古い学校です。あなたの
「そうなんですかぁ……」
マールは担任の先生に連れられ、学園内の案内を受けていた。
学校の内部は、マールも通っていたアルマリアの小学校とほぼ変わらない。
都会というだけあって、オシャレ感はあるが、学校自体の構成というものは、どこにいっても変わらぬものだ。
だが……。
「先生、おはようございます!」
「はい、おはようございます」
同じ初等部の女生徒が、ペコっとマールと担任に挨拶していく。
「うわぁ……可愛い……」
「気に入った? そうなの。生徒だけでなく、保護者にもとても人気なのよ」
白のジャケットに、白のブラウス。
ブルーのネクタイにはエンブレムが入っている。
紺のプリーツスカートに入った白い一本ラインも、とてもオシャレだ。
まさに、お嬢様学校の制服といった感じがある。
マールは自分の格好を見た。
悪くは無いが、ここの制服と比べると、洗練されてないというか、やはり田舎じみた印象がある。
しかも、その上から
担任が、そんなちょっと沈んだ表情になったマールをチラっと見つつ、保健室のスライドドアを開けた。
「ジャクリーン先生、準備できてますか?」
「できてます、できてます」
保健室の中に、校医の女性が立っていた。
その脇に、制服を着たトルソーが置いてある。
「え? まさか!」
マールの目が、大きく見開かれる。
「そう、あなたのよ。サイズは事前にアンバー先生から
「わぁ!!」
マールは大喜びで制服に着替えた。
姿見の前で、クルっと回ってみる。
担任が優しく微笑む。
校医が記念にと撮ってくれた写真を、その場でマールに渡す。
マールは受け取った写真を大事そうに、胸ポケットに仕舞った。
「じゃ、そろそろ教室行くけど、いいかしら?」
「はい!」
マールは元気良く返事をした。
「ねね、マールちゃん、凄いね」
「ほぇ?」
休憩時間にマールの周囲にクラスメイトが一斉に集まってきた。
「
「そぅそぅ、今すぐお店開けるレベルだよね」
「そっかな。えへへ。師匠にみっちり仕込まれたからかな」
マールは、アルマリアではメイリンの助手として、日々、何百種類と薬を作っていた。
薬草
学校の授業で小学生が教わる程度の知識は、マールにとって
マールは町の学校に通う時以外は、ずっとお師匠と森の中に
師匠のメイリンも厳しい人だったから、自分のことを出来ない子だと思っていた。
でも、ひょっとしたら自己評価と他者からの評価に、結構差があるのかもしれない。
思っていた以上に、自分は、できる子なのかもしれない。
マールは密かに自信を持った。
マールは箒の操作も
敷地内の空中にいくつもリングが浮いている。
校舎の間を高速で飛び抜け、直径二メートルのリングをすり抜ける。
マールは、コース取りも難しく、スピードも出しにくい箒の訓練で、速度を落とさず、ギリギリのコーナリングを決めた。
「ひゃっほーーーー!」
「追いつけないよ、マールちゃん!」
「しゅ、周回遅れにされるーー!」
薬の材料の採取は、時間との戦いだ。
朝日の昇る数分の間にしか咲かない花や、朝露の最初の
朝、学校に行くまでのわずかな時間に、それら全てを採取し終わらなければならない。
アルマリアの森に住んでいたマールは、時間内に無事採取を終える為、毎日のように、木々が複雑に生い茂る森の中を、箒で飛び回っていた。
学校に設置された競技コースなど、一度覚えてしまえば、目を
マールは全力で箒を飛ばしながら、
昼食は、学内食堂だ。
体育館ほどもある巨大な食堂に、十二学年分、生徒が集まる。
クラスメイトに案内されながら、マールは食堂の大きさに
学校でありながらバイキング形式を採用しており、好きなものを好きなだけ取っていいというシステムを学校で味わえる、小さいくせに大食漢のマールにとっては夢のような食堂だった。
マールは料理の種類に興奮して、つい、トレイの上を山盛りにしてしまった。
だが、それだけの料理を、マールはクラスメイトにビックリされながらも、あっという間に平らげた。
すっかり人気者になったマールは、今日知り合ったばかりのクラスメイトと、笑い合いながら食事をした。
「風の精霊シルフよ、舞いて舞いて我が
地面に置かれたボールがフっと浮き上がったかと思うと、マールの指の動きに合わせ、自在に空を舞った。
他の子たちも頑張っているが、マールの操作技術には遠く及ばない。
マールは、森の家の中で常に魔法を発動させていた。
料理を作るときも、部屋を掃除するときも、洗濯物を干すときも、常に精霊を使役していた。
しかも複数だ。
森の中の家は、巨大な木をくり抜いて作られたものだった。
師匠の作業スペースや、薬の収納部屋もあるので、いくら木が大きいとはいえ、居住スペースはかなり狭かった。
二人で住むには、やはり厳しいのだ。
そういう意味で言うと、マールが家を出たのは、いいタイミングだったと言える。
これ以上マールが大きくなると、師匠とマール、二人の動きが阻害され、双方共に、多大なストレスを溜め込んでしまうだろう。
そんなわけで、マールは、狭い家の中で効率的に日々の作業をこなす為に、別の作業をしながら、同時に精霊に幾つか指示を出す、などという、アクロバティックな魔法生活を行っていた。
普通に魔法学校に通って、たった一個の精霊を扱うだけのことで四苦八苦している都会の子たちとは、根本的にレベルが違っていた。
翌朝、アークとリリーナが、マールと待ち合わせた時間に魔法協会前に行くと、マールは既に、自身のピンクのパルフェ『ショコラ』に寄り添うようにして立っていた。
格好も、いつもの黒いローブを被った、旅装束だ。
マールは開口一番、こう言った。
「遅いですよ、二人とも! 一日は短いんですから、とっとと先に進みましょう!」
「どうしたんですか? マールさん。何かトラブルでもあったんですか?」
リリーナが慌ててパルフェから降りて、マールに駆け寄った。
アークもパルフェから降りて近寄る。
マールはそんな二人を前に、黙って首を横に振った。
「トラブルは特に何もありませんでした。学園生活は、とっても快適でしたよ? 優しい先生に、親切な学友。久々に楽しい学校生活を堪能しました」
「なら、どうして?」
マールによる笑顔の報告に、アークは首を
アークは正直、ここでマールと別れることになると覚悟していた。
勉強嫌いな自分はまだしも、真面目なマールは、極力学校に通うべきだと思ったのだ。
「授業を受けてて分かったんですけど、通常の学習科目はともかく、魔法関係の科目に関しては、わたし、思っていた以上に上級者だったみたいなんです」
「まぁ、アルマリアでは、師匠について住み込み修行してたくらいだしなぁ……」
アークの
「学校の先生からは、飛び級を勧められました。でも、だったらもっとレベルの高い、中央の学校で学びたいなって思ったんです。アンバー先生に頂いた紹介状もありますし。ここもとっても素敵な学校だったんですけど、わたしは先に進みます!」
「なーるほどねー。ま、勉強嫌いなオレには縁の無い世界だな」
アークが苦笑いを浮かべる。
「それに……」
「それに?」
マールが、ちょっと目を細くしてアークを見る。
「勇者さまがリリーナ先輩におかしなちょっかいを出したりしないよう、しっかり見張らなきゃならないですしね」
「えぇ?」
慌てるアークをよそに、マールはススっとリリーナのそばに行った。
アークに聞こえないよう顔を寄せる。
「リリーナ先輩、昨日は勇者さまと二人で、大丈夫でした?」
リリーナは、クスっと笑って、マールを抱き締めた。
「大丈夫。それより、マールさんと一緒に旅が続けられることを嬉しく思うわ。よく戻ってきてくれたわね」
「はい!」
マールはリリーナの、とんでもなくふくよかな胸に包まれながら、幸せそうに頷いた。
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