第7話 パーティ編成とは
【登場人物】
アーク=クリュー……十五歳。勇者。
マール=ララルゥ……十二歳。魔法使い。
エルナ=アンバー……七十三歳。魔法使い。
シナモン……全高一メートルの白ヒヨコ。パルフェという乗り物。アークの愛鳥。
「よし、じゃ、おさらいだ。一の型!」
ザッザッ。
「次、二の型」
ザッザッ。
高虎の指示の元、アークは刀を複雑に振り、十個の指示された型を取った。
「ふむ。動きに迷いは無しと。基本、十の型、全て覚えられたようだな」
「そりゃこの一週間、呼吸法と体力作り、それと、この十の型しかやってないからね」
「いいんだ、それで。あとは
「繋がる? よく分かんねぇなぁ。全然強くなった気しないんだけど」
アークがタオルで汗を拭きながらボヤいた。
それを見た高虎が笑う。
「強くなったさ。その時が来れば分かる。だが、毎日の
「そんなもんかな」
「そんなもんさ。さ、そろそろ支度しろ。行くんだろ?」
「うん」
アークはその場で汗をかいた服を着替えた。
荷物をパルフェに積み、包丁ダガーを腰に差す。
「おいおい、肝心なモノ、忘れていくなよ」
高虎がアークに向かって『
アークがキョトンとした顔を返す。
「え? だってそれ、稽古用だろ? 貰っちゃっていいの?」
「いいんだよ。何のために刀の型を覚えてたと思ってるんだ。さ、コイツを腰に差せ」
「……あんがと。でもそうすると、この包丁ダガー、どうしようかなぁ」
アークが青嵐と包丁ダガーを入れ替える。
「とりあえずリュックの中にでも入れておけ。刀鍛冶に出会えたら打ち直して貰うんだな」
「へいへい」
高虎がアークの旅装を上から下までマジマジと見て、満足そうに
「よし。これで『
「天覇一刀流?」
「そうさ。自分の流派くらい覚えておけ。俺が若かりし頃、お前の爺さんが師範代だった。今回俺のやったことは、その恩返しとして、お前を入り口に立たせたってだけだ。ここからお前は旅を通して、自分を高めるんだ。あ、そうそう……」
高虎が懐から何か本を出す。
表紙に『天覇一刀流』と書かれている。
高虎が自作したものなのか、
表紙の字も、心なしか、歪んでいるような気がする。
高虎は左手に本を持ち、右手をアークに向かって出した。
「一万リン」
「はぁ? 金取んのかよ!」
「一万リンだ。剣術指南書だぞ? 安いもんだ」
「一万で安いのかよ。どうなってんだ、相場は。しゃあねぇなぁ」
アークは財布から渋々一万リンを出して、高虎に渡した。
アークは表紙の歪んだ字に苦笑いしながら、剣術指南書を受け取ると、立ったまま、高虎に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとうございました、師匠!」
「おぅ。行ってこい」
アークはパルフェに乗り、その場を後にした。
アークはエリオ河に沿って、町の外れを目指した。
道が途中から森に入る。
行き先は、フラン沼だ。
アークは早速、エリオの町の冒険者ギルドで、依頼を受けてきた。
自分が一人でどれだけできるものか、試してみたくなったのだ。
依頼内容は、ここに現れる『サムヒギン』退治。
サムヒギンは、
コイツらは、好んで人を食べる。
アークはパルフェの上で、高虎から買った指南書を開いた。
『
『
「……なんだこりゃ」
何のことやらさっぱり分からない。
アークは解読を早々に放り出し、指南書をパルフェのバッグに突っ込んだ。
アークは腰に差した刀をそっと触った。
「親父のようなパン屋になりたくて家を出たものの、爺ちゃんのようなサムライになるのもいいかもって思い始めてる……。さて、どうしたもんだろうな……」
アークはパルフェを歩ませつつ、空を眺めた。
三時間ほどパルフェで走ると、アークは沼に行き着いた。
沼の上を、
沼にはモヤが濃く漂っており、視界は十メートル程度しか無い。
当然、木橋の先も見えない。
さぁ進むかとなったとき、アークは、沼のほとりに、誰か人がいるのに気付いた。
紫色のパルフェの隣で、うろうろしている。
と、向こうもアークの存在に気付いたようで、走って近寄ってきた。
それは、白い僧衣を着た若い僧侶の女性、シスターだった。
その瞬間。
「あの、そこのお方……ふにゃ!」
シスターが地面に顔面から突っ込んで転んだ。
アークが慌てて駆け寄る。
「あうぅ、ごめんなさいーー」
シスターが転んだまま、修道服のホコリを叩いて落とす。
その度に、たわわな胸が、ぶるんぶるん揺れる。
「あれ? メガネ、メガネ……」
「あ、これ?」
メガネを拾って渡そうとしたアークの手が止まる。
さっきまでメガネがあって分からなかったが、こうしてメガネを外した状態で見ると、このシスターがとんでもない美人だと分かった。
その美しさに、アークはしばらく目が離せなかった。
見た目、アークとさほど年齢に違いは無いようだ。
ウィンプルを被っているが、ウェーブが掛かった金髪がしっかり見えている。
修道服に深いスリットが入り、そこから黒のレース付きのタイツが覗く。
よりにもよって、ガーターベルト付きだ。
シスターなのに、何だってそんなにセクシーなんだ?
意外と純情なアークは、メガネを渡しつつ、目を反らした。
「助かりますーー」
シスターがメガネを掛ける。
「わたくし、『リリーナ=ホーリーライト』と申します。バレッタの町でシスターをやっている者です」
「オレはアーク。アルマリアから来た冒険者だ。えっと、バレッタって大陸への入り口、カルティナ王国にあるアレかい? 何だってそんなとこの人がこんな所に?」
「研修旅行で来たんですけど、ハグれちゃいまして。とりあえずみんな先に行っちゃってるみたいなので追いつこうとここまで来たんですけど、魔物の気配にパルフェが怯えちゃって……」
アークの目がリリーナと沼とを行ったり来たりする。
一人で行動するならまだしも、こんな状況で他人を守れるかどうか。
「アークさん、この沼を抜けて行くんですよね? ご一緒していいですか?」
リリーナがアークの両手を自身の両手で包む。
柔らかい。
アークの顔が、見る見る内に赤くなる。
アークは慌てて手を離した。
「と、とりあえず行きましょう」
「はい!」
「リリーナさんは、お幾つなんですか?」
アークが周囲に目を配りながら、木橋を渡る。
視界は
何かが襲い掛かってきたらすぐ対応出来るよう、身体から力を抜く。
「十七歳です」
「オレが十五だから、二歳、年上なんですね」
「でも、敬語は無しですよ? アークさん」
リリーナが隣でパルフェに乗るアークに向かって微笑む。
いちいちセクシーな言動に、アークはドギマギした。
どうやらリリーナは、セクシーな
余計、タチが悪い。
と、そのとき、アークは沼に異変が起きていることに気が付いた。
沼の表面が何箇所か泡立っている。
アークはパルフェから飛び降りざま、刀を抜いて構えた。
泡立ったところから何かが飛び出して、橋の上に着地した。
泥妖『サムヒギン』だ。
頭が魚の形をした生き物が、どこを見ているのか分からない
思わず二人の背中がゾワっとする。
「下がって!」
橋に上がってきた敵は今のところ、五体。
アークは感情を消し、刀を構えた。
泥妖が一気に突っ込んでくる。
アークは、向かってきた先頭の泥妖を
返す刀で、次の泥妖をも真っ二つにする。
ヒュー。
思わず、口笛が出る。
成果が出ている。
一週間とはいえ、
アークの口元が知らず
アークはダッシュで三体目の泥妖に接近し、一刀で
影に隠れて逃げようとした四体目を突きで倒す。
「しまった!」
五匹目が逃げるべく沼に飛び込んだそのとき、巨大な
泥妖が一気に上空に持ち上げられる。
キィィィィィィィィ!!
泥妖の甲高い鳴き声が長く響き……突然消えた。
アークは目の前の光景に仰天した。
アークの目の前に巨大な長い胴体があり、その中を人型をした何かが、上からゆっくり降りてくる。
サムヒギンが丸呑みにされている!
胴体の主の頭部がゆっくり降りてきた。
差し渡し、二メートルはありそうな、巨大な水蛇の頭だ。
アークは慌てて刀で防御体勢を取った。
次の瞬間、刀に強烈な衝撃が加わり、足がズズっと後ろに滑る。
続けて何回も衝撃が来る。
水蛇は長い歯をむき出しにして、アークを丸呑みにしようと打撃を加えてきているのだ。
アークは必死に
そのとき、後ろからリリーナの声が聞こえた。
「聖アンナリーアよ、我らに力の加護を
アークとリリーナが光に包まれる。
攻撃力や防御力が一気に上昇する。
だが、攻撃力や防御力が多少上がったところで、こんな巨大な生き物をどうやって倒せというのか。
水蛇による打撃を刀で受けながら、このまま迎撃が出来れば、とアークは考えた。
その瞬間、アークの頭の中を、
アークは高虎に習った、一の型で水蛇の攻撃を防御した。
水蛇の顔が上方に戻るとき、身体が勝手に、流れるように四の型へと移行した。
そのままアークは飛び上がった。
アークは飛び上がりつつ、その身体に龍気を
ガガガガガガガッ!!
アークから放たれた龍気が水蛇の顎に当たる。
衝撃で水蛇が仰向けにぶっ倒れる。
「そうか、これが昇龍裂空刃か! こうして型を繋げろってことなんだな? 師匠!」
着地したアークは、すぐ呼吸を整え、気を溜め始めた。
今度は水蛇は、真正面からアークに突っ込んでくる。
次は、二、八の型だ。
アークは流れるように型を作り、最後に、体内に溜めた気を一気に放った。
「龍激真空刃!」
アークが横薙ぎにした刀から、巨大な気の刃が飛んだ。
それは水蛇の頭に当たると、そのまま水蛇の頭部を真っ二つにして何十メートルか飛び、空に消えた。
「今のうちだ、先に進もう」
「はい」
アークとリリーナは、パルフェに乗って、先を急いだ。
「ここももう、何日か前に発っちゃってるそうですーー」
次の町、フーリエに着いたアークは、冒険者ギルドでサムヒギン退治の賞金を獲得した後、待ち合わせ場所に指定していた食堂で待っていたリリーナの所に戻ってきた。
「え? じゃ、どうするんだい?」
「どうしましょう。仲間を追っていくしかないんですけど、一人は厳しいですーー」
リリーナが
ゴクン。
思わず飲み込んだ生ツバによって、知らず知らず、アークの
「そ、そっか。じゃ、仲間に追いつくまで、一緒に……」
「一緒に……何ですって? 勇者さま」
後ろから
アークの正面に座るリリーナは、キョトンとした顔をしている。
聞き覚えのある声にアークはゆっくり振り返る。
そこには、鬼の形相をしたマールが立っていた。
「や、やぁマール……。久しぶり……」
「わたしを置いていったと思ったら、こんなところで女性とデートですか?」
「違う、そうじゃない。説明が難しいんだが、そういうんじゃないんだ」
「詳しく説明してもらいましょうか、勇者さま」
マールが空いたイスにドスンと座る。
マールの額に、青筋が立っている。
なんでこんなことになってるんだ? とアークは空を仰ぎ見た。
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