あの日からの『普通じゃない』日々
翔平が財前に告白した夜から2ヶ月、この2人は怒涛な日々を過ごした。
というのも、財前尚子が就活を辞める選択をしたからだ。
尚子は大学院に進んで、日本語教育について深く学びたいと本心では思っていた。
だが、あの当時の『普通』の人達は就活をしていたから、尚子もそうしなければと思い、『普通』の選択肢を選んだ。
どうりで就活が上手くいかないわけだ。
翔平みたいな『普通じゃない』けど、やりたいことも分からない人達にとって、大学時代の最終的なゴールはいい会社から内定をゲットすることになる場合が多い。
だから、とにかく内定を獲得する為にとモチベーションが出てくる。
まあ、『普通じゃない』翔平にとっても『普通』の就活は凄い苦労したが……
だが、尚子の場合は翔平のそれとは違い、やりたいことがあったのにそれを諦めて、やりたくなくない『普通』に合わせようとしたのだ。
それでは、どうしてもモチベーションも上がらない上に、自分自身の形を強引に『普通』に当てはめるから上手くいくはずがない。
でも、世の中、世間は何としてでも『普通』を求めてる。口で言わなくても求めてくる。それが尚子を苦しめていた。
だが、その『普通』を壊したのが『普通じゃない』翔平だったのだ。
「デート1回もしてないのに告白って、山田君はやっぱり『普通』じゃないね」
「はいはい。『普通』じゃなくて悪かったよ」
翔平と財前は雲一つない晴天の青空の下、遊園地で初めての外でのデートをしていた。
翔平と尚子は決してデートをしたことがなかったというわけではない。
だが、お家デートしかしていなかった。
理由としては、尚子が自身の歩くペースが遅いことを気にしているのを翔平は知っていた為、無理に彼から誘うのはやめようと自制していたのだ。
加えて、尚子には大学院進学へ向けた勉強が必要だったから、気を遣っていたのもある。
反対に尚子も勉強等に加えて、自分の歩くペースでは、翔平の時間を多く奪ってしまうと考え、同じように外出デートの誘いを控えていた。
まあ、翔平としてもやっと手にした大学4年生の最後の夏を存分に楽しんでいた。
バイトがない日はダラダラ家で過ごしていた。
久々に感じる何にも追われていないこの時間。翔平には至極だった。
……ピコン……
そんないつも通りの日を過ごしていた8月前半のある日、ラインが入った。
『茂か正人かな……? 後で、返信しよう』
翔平は冷房がガンガンに効いた部屋で布団にもう一回包まった。
……ピコン……ピコン…ピコンピコン……
ラインの音が止まらない。
『バイトもない至福の時間に誰だよー』
翔平は包まっていた布団を右手で払いのけ、重い腰をあげて、スマホを手に取る。
『遊園地行こう』
『ねえ』
『遊園地』
『行きたい』
『んだけど』
『君と2人で』
翔平も勿論、尚子が気を遣って外出デートを誘わなかったことを知っていた。
だから、翔平は驚いた。
これが電話じゃなくてよかった。
なぜなら、電話だったら、『え……? なんで?』とヒンシュクを買いそうな答えしかできなかったから、ラインでこの連絡が来て翔平はホッとしていた。
一回深呼吸して、翔平は尚子に返信する。
『いいよ。行こう。でも、いつ行く?』
すぐに既読がついた。だが、返信は返ってこない。
…………ピコン……
5分くらい経ってから、ラインの通知音がなった。
翔平は横になっていたベットから起き上がって急いでスマホに駆け寄り、内容を確認した。
『明日、行きたい』
まさかの明日。まあ、明日もバイトは無いから予定としては問題ないが、『普通』はこんな回答はしないよなと翔平は心で思った。
でも、反対に嬉しくも感じていた。
なぜなら、やっと尚子が翔平に気を遣わなくなったから。
翔平と尚子がいくら同じ『普通じゃない』同士でもやはり、気を遣うのが人間というもの。
だが、やっとその気を遣うという呪縛からお互いが解放されてきて、より素の財前尚子を感じることができて翔平は喜びを感じていた。
『り。じゃあ、9時に舞○駅で待ち合わせでどうかな?』
『分かった。遅れちゃダメよ』
『遅れないよ』
465え
『楽しみにしてるんだから』
尚子からの『楽しみにしてるんだから』は思いの外翔平をドキドキさせた。
女性経験の乏しい翔平にとって、異性からこんなに嬉しい言葉をもらったのは初めてだった。
ーーー
次の日、翔平は待ち合わせ時間の10分前に到着できるように舞○駅に向かった。
「舞○駅〜舞○駅〜。お出口は右側です」
人身事故とかトラブルなく時間通りに到着。
尚子と翔平は同じ最寄り駅だからその最寄り駅で会えるのかもしれないと思ったが、その駅にはいなかった。
とりあえず、いつも通り階段を降り、手元のスマホを改札機にタッチして、え
「山田君。こっち」
改札を左側に立て付けてある丸い棒のところに尚子がいた。
今まで私服の尚子を見たことはあったが、青の長ズボンに、白色のブラウスの服装でとても可愛らしかった。
普段はもっと地味な格好をしているから目立っていないが、整っている顔立ちを尚子はしている。
だからか、周りの人も尚子を見てるのもあって、すぐに尚子を見つけることができた。
「尚子、早いね。待った?」
「10分くらい前だから、全然大丈夫。……ってか、やっぱり私がお願いしたとはいえ尚子読みはまだ慣れないね」
尚子は恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「俺も翔平読みにいつかしてほしいな」
「……分かってる。でも、ちょっとだけ待ってほしい。……頑張るから」
尚子は顔を伏せ続けながら、翔平にそう答えた。
……俺の彼女は何て可愛いんだ……
翔平は心の底からそう思った。
こうして、『普通じゃない』2人の初の遊園地デートが始まった。
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