真田幸村の恋

海石榴

第1話 元服式―1

 天正11年の晩秋。

 真田幸村の元服式が、普請なったばかりの上田城本丸櫓で執り行われようとしていた。


 上田城は幸村の父、真田安房守昌幸あわのかみまさゆきが、東信濃小県ちいさがた一円の支配をめざすにあたり、その知謀をめぐらせて縄張りした平城である。


 この城が完成するまで、昌幸の主な拠点は真田郷の屋敷や、東太郎山の砥石といし城などであったが、それらの位置は北にかたよりすぎるという地理的な不便さがあった。


 加えて、この頃、上杉謙信の跡目を継いだ景勝かげかつが、北信濃に勢力を伸ばし、さらなる領土拡大の野心を燃やしていた。これを阻むためにも、昌幸は交通の要衝である上田の地に、新たな城を必要としていたのである。


 本丸は千曲川分流の尼ヶ淵の切り立った崖上に築かれ、そのため築城当時は尼ヶ淵城と呼ばれることもあった。


北に太郎山、南に千曲川をのぞみ、城の北側と西側には矢出沢川の流れを引き込んで、広大な堀をめぐらせている。唯一の攻め口である東側には蛭沢ひるさわ川が流れ、湿地帯がひろがる。まさに要害堅固な城といよう。


 晩秋とはいえ、信濃は山国である。早い冬の訪れを告げるかのような淡雪がちらつく夜、幸村は前髪を落とした。17歳であった。

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