生まれ落ちたるは春。故に、咲き変わりたるは冬

@orca05

序章-1

 大前提として、私の命が「創られた」時点では、望まれたものであったとして話を進めて行こうと思う。

 初めて胎内で身動きを取った時の事とか、初めて母の声を内側から聞いた時とか、そういう幻想的で実際体感したのかすら憶えていない時代の話は勿論省くとして、私の幼少期は割と恵まれたものであると確信していた。幼い頃は恐らく皆そうであり、そうでなければならないと。我々にはそう言う先入観があるのではないだろうか。

 そんな幸せな脳内(正しくは幼い)の私の両親のスペックを先ずは簡易的に紹介すべきだろう。彼らは、この話を進めて行く上で欠かせない最重要人物であることは、誰でも分かる。


 父は昔は栄えた会社の管理職で、割と冴えない方の層にいた人物だと思う。酷い言い方をすれば、捻くれ者のマザコンで、母親の敷いたレールを黙って歩んできたタイプである。私とは全く身体、顔の似た部分は無く、それは実は私は母の連れ子であるが故に当然の事である。彼は純日本人顔の童顔な男だった。私が生まれた頃には既に30代も後半であったが、実年齢よりもかなり下に見られる方で、子供である私から見ても友達の父親と見比べて鮮明に若かった顔立ちは、「かっこいい」とは言えずとも私はそれが不思議と誇らしかった。


 母は接客業の裏方のマネージャーをしていた所謂「キャリアウーマン」の部類に入る仕事人間で、当時の男と変わらぬ収入を得ていたというプライドの高い性格で、それは実の親(私からすると母方の祖父母にあたる)も扱いづらい程のものだった。私を24の若さで産み抱え、私の生後間もない内に離婚し、現在の父と出会い、波乱万丈ながらも仕事を熟す自分が好きな人間だった。然し、当然そのプライドの高さはまだ古い昭和志向の蔓延る社会では受け入れられ難く、なかなかの衝突を繰り返すも折れない雑草の精神(恐らく本人にこう例え言うと激怒すると思われる)で生き抜いて来た「強い女」だ。


 正直、ここに書いただけでも私であれば「もう少し詳しく書け」と言いたくなるような濃厚さを披露している気がする。だが、両親の生い立ちや馴れ初めなどをここで書く必要は無いと思う。私の人生をフィクションを交えながら綴るこの作品で自然と滲み出てくるはずなので、彼らの奥深くあくどく、毳しい部分はそこで語ろうと思う。


 恐らく、毎章毎に序章というページを用いて主な登場人物の紹介をして行くことになる。そうしなければ、たった22年の人生ではあるが、関わってきた人間達の情報を読者へ提示する術は他に無い。

 今回の章で主に出てくるのは、この両親と母方の祖父母で、それは幼少期の私の全てが彼らであった事を示すことにもなる。決して明るくはないが、まだ確かに愛されている自覚を持ち、しあわせだからと手を叩いた私の話を始める。






「ママ、パパ、きょうさ、ねたままおきれないかもしれないからさ、


_________________…さいごに、だいすきのタッチとおやすみのギューをして?」

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