第7話

「…ろ……しろ…!…ましろ!」

あれ? お父さん泣いてる?

大丈夫。僕は痛くもなんともないよ。

「ごめんな…ごめんな…ましろ…」

僕はお父さんににっこり笑って見せて眠る様に意識を飛ばした。

これでこの世界ともお別れか。

ありがとう。お父さん。さよなら。



「マシロ。戻って来たようだな。」

「僕は…父に愛されてないと思ってました。でも、違ったみたいです。」

お父さんも、僕を愛してくれてた。

「手紙は自宅に届けた。さぁ、行こうか。向こうで新しい家族が待ってる。」

浮遊感の後に視界が真っ白になった。


ーーーーーーー


〜夕方のニュース〜

本日、昼過ぎ頃、都内で小規模な竜巻が発生しました。

竜巻の影響で、都内の陸上公共交通機関は一時運転を見合わせるなどの影響がありました。

この竜巻により飛んだ樹木の一部が近くを走行中だったバスに直撃。○○学院高校に通う女子生徒が重症を負い、搬送先の病院で死亡が確認されました。その他の乗客や運転手は打撲や割れた窓ガラスで手や顔を切るなどの軽症だったとのことです。

○○学院高校の理事長がインタビューに応じました。

『我が校の生徒が被害合ったと言うことで、…えー、誠に残念に思います。彼女は全国模試で上位に名を連ねるなど成績優秀で、真面目で大人しい性格でした。ご冥福をお祈り申し上げます。』


竜巻の発生が頻発しており、気象庁では警戒を呼びかけています。竜巻が発生した際は、地下に速やかに避難をしてください。



※自宅にてーー

仏壇前

「なぁ、真白まで死んでしまったな…

お前が死んでから、若い頃のお前に似ている真白を見るのが辛かった…仕事に逃げていたんだ…すまん…許してくれ…」

父は母の遺影と真白からの手紙を手に呆然としていた。

事故が起きた日、真白から学用品と参考書と服がほしいと、メールが来ていたので早朝の出勤前に3万程封筒に入れてメモと共に置いていた。

職場に警察から娘が事故にあって重体だと電話が入り急いで駆けつけた。一旦意識を取り戻し父の顔を見るとホッとしたように微笑んで、息を引き取った。

諸々の手続きを終え、帰宅すると空っぽになった封筒の上に可愛らしいシールで貼ってある手紙を見つけた。

『お父さん、いつも有難う。身体に気をつけてね。大好きだよ。ーーー真白』

胸がいっぱいになった。娘にこんな扱いをしてきたのに、娘は父を嫌いになってはいなかった。父の心には後悔だけが残ってしまった。


ススッと襖が開き真白の祖母がとても嬉しそうな顔で立っていた。

「お前はいつまでそんな辛気臭い顔をしているの? あの女の産んだあの女そっくりの娘なんて居なくなって良かったじゃないの。何があるかわからないからってかけてた生命保険と事故の慰謝料でもう遊んで暮らせるわ! 喪が開けるまでは外聞が悪いから、49日の法要が終わったら旅行にでも行こうかしら。それから、老人ホームの部屋をワンランク上の部屋にする手続きを…「母さん。」…なに? あなたも旅行に行きたいの?」

「違う。母さん、出ていってくれないか? 妻も、娘も亡くしたんだ。いくら母さんが彼女のことが嫌いで、彼女に似ている真白が嫌いでもいいけど、俺には大切な家族だったんだ。それに、保険金の受け取り人は俺だ。母さんには渡さない。49日が過ぎたら、2人の遺骨と最低限の荷物を持って何処かに引っ越す。もう、関わらないでくれ。」


最愛の妻と娘を失った父は、妻と娘との思い出の詰まった街を出た。

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