第28話 共に肩を並べて
ベヤドル達を追って夜の道をレヤックに乗って走る事一時間、その間にミタリーさんと情報のすり合わせをしていた。
「ベヤドルは奴隷達を使って何をしようとしてるんだ?」
最初はミタリーさんの疑問から始まった。
「さあな。ベヤドルが言ってたのは奴隷を手土産に王宮に潜り込むって言ってたが、実際どうするのかはサッパリだ」
その疑問にライラが地下でベヤドル自身が言っていたことを話す。
「王宮か・・・・・ベヤドルは、本当に変わってしまったんだな・・・・・・いや、最初からそうだったのか」
何処か寂しそうな声音に、俺は心配になって声を掛ける。
「ベヤドルは言ってました、『ファムの為だ』って」
ベヤドルが話したデムローデに来てからの事をミタリーさんに教えると、ミタリーさんは「そうか・・・・」と悲しそうにつぶやいた。
「なんで、言ってくれなかったんだベヤドル。言ってくれれば、一緒に支えたのに・・・・・・・」
「ミタリーさん・・・・・・」
その一言で何となく察した。きっとミタリーさんは、ベヤドルの事が好きだったのだろうと。
「気にしないでくれ、過ぎた事だ。今はベヤドルを止めないと」
ミタリーさんは気丈にもそう言って更にスピードを上げる。
「そういえば、ファムはどうしてるんだ?」
「それが、ファムがいないんだ」
「いない?」
「ああ、二人の話を聞く限り、おそらくベヤドルが連れ去ったんだろう」
まあ、そうなるか。あれほどファムに執着していたんだ。自分の傍に置きたがるはず。
つまり美里に加え、ファムの安全も確保しなければならない状況というわけだ。
「ホント、シスコン馬鹿が。気色悪い」
ライラはまるで汚物を見るような眼で吐き捨てる。
「・・・・・・・愛には色々な形がある、か」
「ん?なんだそれ?」
「デムローデに来る前、ノザル村でモーガン神父に言われたんだ、『人にはそれぞれ『愛』の形がある』って。正直、俺にも意味まで分からない。ただ、何て言えばいいんだ?ちょっと言葉にしずらいんだけど、ベヤドルは真剣なんじゃないのかって。真剣にファムの事を愛してるんじゃないのかって」
「何だよそれ」
いまいち要領のえない言い方にライラは眉をひそめる。
「俺も何言ってんだか・・・・・すまん、忘れてくれ」
言っていて恥ずかしくなってきたので、適当にこの話を終わらせておくことにした。
「・・・・・・・色々な形、か」
ライラが何やらポツリと小さく呟いたようだが、風を切る音で俺の耳にまで届くことはなかった。
♢ ♢ ♢
ベヤドル達が乗る馬車は森を通る街道から外れた場所にいた。そこは丁度広場の様に広い空間が出来上がっていた。ベヤドル達はそこで馬車から降りて話をしていた。
「ベヤドルさん、レヤック達が息切れしている。少し休ませないと」
「とばし過ぎたな、しょうがない一息入れよう」
馬とは違い、レヤックの足は速い。その代わり持久力は馬よりも劣る。馬の様に扱ってしまえばレヤックは疲弊してしまう。
ベヤドル達は追っ手に追いつかれることを恐れた余り、レヤックに無理をさせてしまった代償がここにきて現れる。
「あと少しだ。あと少しで合流地点に着く。連中が追いつくまでにそこまでいけば・・・・・・」
合流場所には既にラクメルが待機している。後はラクメルを連れて王都へ行き、奴隷達を引き渡せばそれで終わり。その際にベヤドル達が王宮に入れるようにラクメルに交渉するだけ。
「交渉の方は既に裏を取ってある。後は王宮で地位を手に入れれば、俺とファムは―――――――」
「そう上手くいくとでも思ってるのか?」
「っ!!」
仲間と今後の事を話していると、それを遮る様に声が聞こえた。
「見つけたぜ、バカ弟子」
「ビジャルっ」
ベヤドル達の前に現れたのは、レヤックに跨ったビジャルだった。
「良く追いついたな・・・・・・・・そのレヤックはどうした?」
「こいつか?お前らの所から一匹借りたんだよ」
「盗人が」
「おいおい、師匠に向かって盗人とはなんだ、相変わらず口の利き方がなってねえな」
「ほざけ・・・・・・・俺達を止めるつもりか?」
「当たり前だ」
「フッ、その体でか?」
ビジャルのボロボロの身体を見て鼻で笑う。
「・・・・・やってみないと分からないさ」
ビジャルはレヤックから降りると、腰に下げた剣の柄を握る。
「お前達、先に行け」
「いいんですか?俺達で一斉に仕掛ければ・・・・・・」
「時間がない。余り先方を待たせるわけにはいかないからな。それに・・・・・・・」
ビジャルに向けて歩き出す。その手に漆黒に染まった槍を携えて。
「ここで引導を渡してやるのが、弟子としてのせめてもの手向けだ」
「分かりました。おいっ!」
少ない時間だが、レヤックを休ませることが出来た。おかげでまだ少しは走らせることが出来る。
ベヤドルをその場に残して馬車に飛び乗り走り出す。ビジャルはそれを見て剣を引き抜く。
「フンッ!」
引き抜いた剣をそのまま離れようとする馬車に向けて振り抜くと、剣先から闘気を纏った斬撃が空を裂く。裂空斬だ。
ビジャルが放った裂空斬はそのまま馬車の車輪を切り裂き、馬車は横転して地面を滑るようにして止まる。
「逃がすかよ」
再び裂空斬を放とうとするも、ベヤドルが射線上に飛び出して阻む。
「やらせるかよ」
「フン」
ベヤドルに阻まれたビジャルは構えていた剣を下ろす。その間に残りの馬車は好機と見て走り出す。
ビジャルは横目に馬車が走り去るのをそのまま見送った。
「追わなくていいのか?」
「追うさ・・・・・・お前をぶちのめした後で、な」
先程受けた傷がまだ痛むはずのビジャルは不敵に笑う。その態度にベヤドルは不機嫌そうに顔を歪める。
「・・・・・・やってみろよ」
「言われなくても、やってやるよっ!!」
宣言と同時にビジャルは鞘から剣を引き抜き走り出す。怪我をしているとは思えないほどの速度で一気にベヤドルに接近すると、横薙ぎに剣を一閃させる。
「なめるなっ!」
ベヤドルは迫りくる刃をバックステップで回避。そのままペネトレイターをビジャルの胸に目掛けて突きこむ。
その行動をあらかじめ予想していたビジャルは軽く身を捻って回避、ペネトレイターをすり抜けベヤドルに接近すると、今度は逆にビジャルが剣を突き出す。
「ちっ!」
強引に槍を引き戻して払うように剣先にペネトレイターをぶつける。しかし、ビジャルは突きを躱されたことなど意に介さず、逆にその勢いを利用するかのように体を回転させて切りつける。それを咄嗟に身を屈めることで躱す。
「がっ!」
が、その行動も読んでいたのか、ビジャルの放った蹴りがベヤドルの腹部を直撃する。
蹴りの勢いで吹き飛ばされたベヤドルはゴロゴロと地面を転がる。そこにすぐさま追撃の刃が放たれる。
「裂空斬っ!!」
空気を裂いて飛んでくる斬撃に、起き上がることを諦めたビジャルはそのまま地面を転がる様に飛んできた裂空斬を躱す。
ベヤドルから外れた裂空斬は地面を裂き土煙を上げる。その隙に起き上がり、距離を取るために後ろに下がろうとするベヤドルの前に、土煙を突破してビジャルが切り込んでくる。
「逃がすかよっ!」
「くっ!」
ペネトレイターを盾にするように掲げて防ぐが、勢いのある斬撃に思わず足が下がる。
「オラオラッ!」
縦、横、切り上げ、突き、あらゆる角度から容赦なくベヤドルに向けて刃が幾度となく迫る。
まるでベヤドルから距離をとることを恐れているかのように、ビジャルは剣を振るう。
(こいつを使い前にケリをつけるっ!!)
そう、恐れているのだ。ベヤドルではない、ベヤドルの持つ漆黒の槍を。
地下での戦闘でその脅威を理解しているビジャルは焦っていた。負傷している今の身体ではそう長くは戦闘は出来ないと。だからこその短期決戦。距離をあけることなくしがみ付くつもりで近接戦闘に無理矢理引き込み倒す。今のビジャルにはそれ以外の方法が無い。
(距離を置かれたらベヤドルはペネトレイターの力を使ってくるだろう。そうなる前に決着をつけるっ!)
ビジャルの焦りが現れる様に一閃二閃と刃が煌めくたびにその速度が増していく。
「ぐっ!」
そのビジャルの猛攻にベヤドルは徐々に押され始める。ベヤドル自身も総司から受けた傷が疼いて上手く体を動かせないのだ。
そして、遂にベヤドルの態勢が崩れる。
「っ!もらったっ!!」
その隙を逃すまいとビジャルは渾身の力を刃に乗せて放つ。が――――――
「フッ」
「!!」
態勢が崩れたはずのベヤドルは、ビジャルの放った斬撃に合わせる様に槍を突き放っていた。
「な・・・・・・・」
「油断したか?それとも、焦りか?」
ベヤドルはペネトレイターの柄を、先端の刃に近い部分まで手をスライドさせてリーチを短くしていた。その短くなったリーチを利用してビジャルの脇を貫いたのだ。
「普段のアンタならこんなミスはしなかった。怖いのか?こいつが」
素早く槍を引き抜くと、ベヤドルは傷口に向けて強烈な拳を放つ。
「ぐおっ!」
傷口を抉る様に放たれた拳を受けてビジャルは吹き飛ばされる。それでも気力を振り絞って剣を杖代わりに起き上がるのは流石のベテランハンターと言える。
だが、それだけだ。
抉られた脇腹から血を流しながら立ち上がったものの、ビジャルに戦闘を継続できるだけの力はもうない。
「ち・・・・くしょう・・・・・・・・」
ベヤドルは気付いていた。ビジャルがペネトレイターを恐れて短期決戦を仕掛けようと考えているビジャルに。
だからギリギリまで追い詰められたフリをして油断を誘った。ビジャルはベヤドルの罠にまんまとハマってしまったのだ。
普段のビジャルならこうはいかない。しかし、地下での戦闘による負傷、ベヤドルの持つアーティファクトの力、それらがビジャルから冷静な判断を奪った。その結果、ビジャルは失敗してしまったのだ。
「無様だなビジャル。やっぱアンタでもアーティファクトの力は怖いか?」
「ふざ・・・・・けるなよ・・・・・・・ガキ・・・・が・・・・・」
もはや満身創痍なビジャルだが、気丈にもベヤドルに負けじと睨み返す。
「フンッ、強がるなよ、怖いんだろ?いや、羨ましんだろ?知ってるぜ、アンタがクロードの持っていたティソーナを欲しがっていたのは」
「っ!」
「前に聞いたんだ。昔、クロードと一緒に受けた依頼でティソーナを見つけたってな。だが、アンタはティソーナを手に入れられなかった」
ベヤドルの語る過去に、ビジャルは歯噛みする。
♢ ♢ ♢
当時まだCランクになったばかりのクロードとビジャルは二人で組んで依頼を受けることが多かった。
その依頼もそんな時に受けた依頼だった。ある遺跡を調査してほしい、そんな依頼内容だった。
大規模な依頼だった為、二人以外にも数名のハンター達と協力して向かうことになった。
向かった遺跡、そこで発見したのが炎のアーティファクト、ティソーナだった。
しかし、それを手にしようとした時、予期せぬ事態が発生した。大型の魔物に襲われたのだ。
その魔物はハンターランクで換算してBランク相当に分類される魔物で、当時のクロード達では歯が立たなかった。
一人、また一人と仲間を失っていき、遂にクロードとビジャルだけが残された。
「・・・・・・逃げろ」
「なに?」
「俺はこのザマだ。もう戦うことも出来そうにない」
そう言うビジャルの左目は抉られ、全身が傷つき血を流している。傍から見ても、もう戦闘など出来るようには見えない。
「最後の意地だ、せめて時間ぐらい稼いでやる・・・・・・その間に、逃げろ」
「馬鹿を言うなっ!!」
ビジャルの身体を支えると、じりじりと迫る魔物から逃げるように後ずさる。
「なに、やってんだ。いいから俺を置いて逃げろっ!」
「お前を見捨てられるかっ!」
「お前・・・・・この馬鹿がっ!」
協力して依頼を受けているとはいえ、当時からビジャルはクロードの事が気に入らなかった。
ハンターとしての腕はたつのにいつまでも子供みたいに夢を追ってる馬鹿な奴。ビジャルはクロードをそう評価していた。
ハンターはそんな夢なんかよりも地位と名誉のための職業だと考えているビジャルにとって、クロードは異端に映った。
そんな相手にこうして守られている。それがビジャルには屈辱だった。
それと同時に、認めていた。クロードの強さを。
だからこそ、ここでクロードを殺させるのは惜しいと思ったのに、当の本人はそれを拒絶した。
グオオオオオオオ!!という方向と共に魔物の振るった腕が二人を吹き飛ばす。
盛大に吹き飛ばされた二人は地面を転がり、アーティファクトが収められている祭壇まで吹き飛ばされた。
クロードは何とか起き上がれたが、重傷を負ったビジャルは立つことが出来ず、地面に倒れたままとなる。そこに魔物がゆっくりとビジャルに迫る。
「ビジャルっ!」
「にげ・・・・・ろ・・・・・・」
「くそ!何か、何かないのか!?」
見殺しになど出来ない。クロードの優しさがビジャルを見殺しにすることを拒絶する。しかし、クロード自身ももう戦う術はない。体はボロボロで武器も失っている。もはやなす術はない。
それでも諦めることが出来ないクロードは何かないかと辺りを見る。
「っ!」
そこで目に映ったソレに手を伸ばす。
「馬鹿・・・・・そいつは・・・・・・」
この遺跡にきて、ティソーナを全員が手にした。しかし、ティソーナは誰にも反応を示さなかった。クロードもそれは例外ではない。
誰にもその力を示さない物言わぬアーティファクト。その柄をクロードは握った。
「頼む!一度だけでもいい、俺に力を貸してくれっ!俺に、仲間を守る力をっ!!」
その瞬間だった。
「っ!!」
クロードの願いにこたえる様に、刀身から眩い光と共に炎が立ち上ったのは。
「アーティファクトが、反応した・・・・・」
「凄い・・・・・・」
その炎を見て、クロードは笑った。
「これならっ!」
クロードは猛然と駆け出し、魔物に向けて切りかかる。そして――――――
♢ ♢ ♢
「ティソーナに選ばれたクロードは、そのままティソーナの所有者として認められた。アンタはそれ以降、クロードから距離をとった。どうしてだ?」
何処か馬鹿にしたような笑みを浮かべながらビジャルに問う。
「アンタは劣等感に苛まれた、違うか?」
「・・・・・・・・・」
俯くビジャルにベヤドルは更に言葉を紡ぐ。
「どうして俺じゃなくてクロードを選んだ?あんな甘ちゃんではなく俺を選ぶのが自然だ、なのにどうして俺じゃないってな」
「・・・・・・・・」
「気持ちは分かるぜ?実際アーティファクトの力を目にしたら手に入れたい気持ちも分かる。そのアーティファクトに選ばれなかった気持ちも、な」
「・・・・・・・・・」
「アーティファクトを手にして以降、クロードはハンターランクを順調に上げていき、気付けば『炎剣のクロード』なんて呼ばれるようになっていた。アンタも同じBランクに上り詰めたのに、クロードだけが注目を浴びる・・・・・・・悔しいよなぁ、アーティファクトを持っているかいないかでこんなにも差をつけられるなんて」
「・・・・・・・れ」
「そして今度はアンタが欲しがっていたアーティファクトで殺されるんだ。悔しくてしょうがないだろ?」
「黙れっ!!」
ビジャルの手は、震えていた。
それは悔しさからか、それとも――――――
「羨ましい?悔しい?確かに、な・・・・・・・・俺はティソーナに選ばれたクロードを羨ましいと思ったさ、悔しいと思ったさ・・・・・・けどな―――――」
顔を上げたビジャルの目には、衰えぬ闘志が宿っていた。
「ガキみたいな夢を追いかけて、綺麗ごとを吐き続けて、周りから馬鹿にされようと、それでも自分の信念を貫こうとしていた奴を、俺は、認めていたのさ」
「・・・・・・・・・理解できないな」
「そうだな。少なくとも、今のお前には到底理解できない事だろうよ」
未だ震える手で、ビジャルは剣を構える。
まだ戦う姿勢を見せるビジャルのその姿に、ベヤドルは不機嫌そうに顔を歪ませる。
「もういい、戯言は聞き飽きた・・・・・・・終わりだ、ビジャル。最後に言い残すことはあるか?」
これで終わりだと告げながら、手にした漆黒の槍の穂先をビジャルに向ける。
「・・・・・・・・くたばれクソガキ」
ビジャルは震える体で、笑った。
「――――――――死ねっ!」
ペネトレイターから黒い闘気が漏れ出し、ベヤドルの突き出す動作に合わせて黒い闘気が一直線にビジャルの心臓目掛けて伸びる。
「ぐっ!」
最後の意地を見せるかのように、ビジャルは剣を振り上げようとするが、致命傷を負った体では思うようにいかず、腕が持ち上がらない。
「クソ、がっ!」
迫りくる黒い刃にもはやこれまでかと思った次の瞬間―――――
「なっ!!」
ビジャルの身体が横から飛び出した影が押し倒す。
倒れたビジャルの身体の上を黒い刃が通り過ぎる。
「お、お前・・・・・・・」
「チッ!・・・・・・・ソウジ」
横からビジャルを押し倒したのは、身体をボロボロにした総司だった。
♢ ♢ ♢
その馬車に辿り着くと、真っ先に目に入ったのはベヤドルと今にも倒れそうなビジャルの姿。
ミタリーさんはその姿を見てレヤックを急行させ、俺はその背から飛び降りると同時に両足に闘気を集中させて縮地を発動。ベヤドルの放つ伸びる刺突から間一髪ビジャルを救い出せた。
「ソウジお前、どうやって・・・・・・そうか、ミタリーか」
俺の登場に驚くベヤドルは、しかしこちらに近づく一団を見て納得する。
「ベヤドルっ!」
「ベヤドルさんっ!」
次々とベヤドルの前に現れたハンター達、特にミタリーさんが悲痛な声でベヤドルの名を呼ぶ。
そう、ここまで運んでくれたハンターの大半は何も知らされていなかったベヤドルが率いていた疾風のメンバーだ。
ベヤドルは自分の名を呼ぶ元メンバー達の顔を一巡り見やると、地下で見せたあの醜悪な笑みを浮かべる。
「何だ、お前たちも来たのか」
「ベヤドル、一体どうしてっ」
ベヤドルの浮かべる笑みに、一瞬怯むもミタリーさんは気丈にもベヤドルに問いただす。
「どうして、か・・・・・・・・ソウジ達に聞いたんじゃないか?」
「ああ、聞いたさ。けど、到底納得できるわけがないだろうっ!お前に一体何があったんだ?何かあるのなら私達に言ってくれれば――――――」
「お前達に話したところで、どうにかなるとでも思っているのか?」
ミタリーさんの手を差し伸べる様な言葉を遮るように、拒絶の言葉を放つ。
「ベヤドル・・・・・・」
「面倒だからハッキリ言っておいてやる・・・・・・仲間ごっこは終わりだ。邪魔をするようなら殺す」
「仲間・・・・・ごっこ、だとっ!」
歯をギリッっと噛んでベヤドルに鋭い視線を向けるミタリーさん。その視線を意にかえさず、ベヤドルは俺に目を向ける。
「お前もだソウジ。これ以上邪魔をするな」
「そういう訳にはいかねえなぁ」
「ライラ、お前も来ていたか」
レヤックから降りたライラがティソーナを肩に担ぎながら歩いてくる。ライラはミタリーさんの前で立ち止まると、視線をベヤドルに向けたままミタリーさんに話しかける。
「ここは任せて、お前らは馬車を追え」
「け、けど・・・・・・・」
ライラの指示にミタリーさんはベヤドルを見て判断を渋る。
おそらく葛藤しているのだろう。ベヤドルと戦うか。それとも連れ去られた奴隷達を追うか。
本心はベヤドルを止めたいと思っているだろう。だからミタリーさんはこの場に残りたいと考えているはずだ。だが――――――
「悪いがアイツとのケリは、この手でつけないといけないんだ」
ベヤドルに向けていた目をミタリーさんに向ける。その眼には譲れないという強い意志が宿っていた。
「・・・・・・・・分かった」
その意志に、ミタリーさんは折れた。
「行くぞ、お前達」
「いいんですか?ミタリーさん」
「ああ、私たちは馬車を追うぞ・・・・・・・ライラ」
ライラに背を向けたミタリーさんは、レヤックを走り出す前に、ライラの背に呼びかける。
「ああ?」
「ベヤドルを・・・・・・頼む」
どこか縋る様な、願うようなその声に、ライラは一言だけ返す。
「頼まれた」
その言葉を受け、ミタリーさんは仲間を連れてまだ地面に着いたばかりの車輪と馬蹄の跡を頼りに走り出す。
残されたのは俺とライラ、そして傷ついたビジャルだけとなった。
「お前はいかなくてよかったのか?向こうにはお前の探し人がいるんじゃなかったか?」
「まあ、そうなんだけど、今は・・・・・・・」
油断なくペネトレイターを構えるベヤドルを鋭く見据える。
「決着をつけるのが先だ」
♢ ♢ ♢
動くことの出来ないビジャルから離れて総司とライラは横にゆっくりと移動する。上から見たら三角形を描いたような形で総司達は足を止める。
ベヤドルは倒すべき敵を総司達と認識してか、倒れたままのビジャルには目を向けず、二人に穂先を向ける。
「その体で俺を倒そうって?」
「それはお互い様だ」
気丈に言ってのけるライラの状態も酷いものだ。地下でマナを補給したと言っても、テントでの戦闘と地下での戦闘で体中ボロボロ、総司も同じような状態だ。
「二人掛かりなら俺に勝てると思ってるのか?残念だがお前たち程度じゃあ俺は倒せないぜ?」
「言ってろボケ」
お互いニヤリと不敵に笑いながら睨み合う。
「・・・・・・もう、後戻りできないんだな?」
総司が最後の確認をするように問う。すると、ベヤドルは一瞬顔を歪ませたように総司には見えた。
「・・・・・・ああ」
「そうか・・・・・・」
「もう言葉に意味はない。後は―――――」
ベヤドルは腰だめに漆黒の槍を構える。
「戦うだけだ」
鋭く睨み据えるベヤドルの瞳に、総司はコクリと頷く。
「ああ」
総司もベヤドルを睨み据える。その総司の隣りにティソーナを肩に担いだライラが歩み寄る。
総司の隣りに立ったライラは、視線をベヤドルに向けたまま、総司に告げる。
「ここでケリをつける・・・・・・・行くぜ、ソウジっ!!」
「っ!?ライラ・・・・・」
その言葉に総司は思わずライラに目を向けるが、ライラはただ真っ直ぐ前を見据えるだけだった。
(初めて・・・・・俺の名前を・・・・・・)
いつもはこいつやお前としか呼ばなかったライラが、初めて総司の名前を呼んだ。
それはどう言った心境の変化なのか、総司には分からない。分からないが――――――
「フッ」
総司は笑った。
笑って、答える。
「おうっ!!」
総司は拳を強く握り、ライラは総司と肩を並べてティソーナを構えた。
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