第26話 一線超えて、その先へ

 地下水路に繋がる部屋の中、総司とライラはお互い顔を赤くして向かい合って俯いていた。


「・・・・・オグマ、本当に方法はそれしかないのか?」


 総司が問いかけると、総司にしか聞こえない声でオグマの声が頭に響く。


『ああ、そうだ。これしかマナを補充する方法はない』


「マジかよ・・・・・」


 げんなりしたため息が出る。今現在の二人の悩み、マナ不足。それを補う方法があると言い出したオグマが提案したのが、総司がライラを抱くこと。

 勿論、抱くとはお互いの身体を抱きしめ合う、と言う者ではない。男女が身体を求めあう、いわゆる性行為だ。


「そ、そなことして本当にマナを補充できるのかよ?まさかお前、アタシを抱きたいだけとか言うつもりかじゃないだろうな!?」


「ち、違う!そんなつもりはない!」


「どうだか・・・・・・前にアタシがシテたとこ覗いたくせに」


「アレは誤解だって言ったじゃないか!?」


 総司が声を大に訴えるも、ライラは頬を赤く染めながら体を守る様に抱きながら一歩下がる。


「・・・・・男はそう言って誤魔化そうとする」


「違うって言ってるじゃないかぁ~・・・・・・」


『お前ら、いつまでやってるつもりだ?』


 先程から同じようなやり取りをしている二人に呆れたのか、オグマはため息をつきながら口を挟む。


『このままじゃ埒が明かん。ソウジ、小娘の手を握れ』


「手?何するつもりだ?」


『言っても理解できないなら、見せた方が早いだろう。いいからさっさとしろ』


「わ、分かった」


 オグマの指示に従ってライラの手を握ろうと総司は手を伸ばすが、ライラは肩をビクリと跳ね上げると、まるで猫の様に後ろに飛んで距離を取る。


「な、何するつもりだ!?」


 警戒心剥き出しの瞳が総司を射抜く。総司は慌てて説明すると、ライラは少しだけ警戒心を緩めた。


「・・・・・手なんて握ってどうするんだよ?」


「知らないよ。とにかく手を握るだけだから」


「・・・・・・・それくらいなら」


 そう言ってライラは総司に近づくと、恐る恐る手を差し出す。総司も差し出されたライラの手を取る。


「オグマ、これでいいのか?」


『ああ、そのままジッとしてろ』


 すると、変化が起こった。


「なっ!」


「こ、これはっ!」


 繋いだ二人の手を淡い光が包み込む。


「何だ、この光?」


「これは・・・・・っ!マナが、回復してる?」


 若干だが、ライラのマナが少しだけ回復するのを感じ取った。


「オグマ、これって?」


『ソウジのマナを俺様が操作して、小娘に流し込んでる』


「俺のマナを?」


『そうだ。簡単に説明するなら、今からソウジを介して二人の体内のマナ量の調整をする』


「おい、何言ってるんだ?」


 オグマの声が聞こえないライラは総司に尋ねる。総司はオグマが言ったことをそのまま口にしていく。


『ソウジは闘気法を使う要領で周囲からマナを集めろ。それを俺が操作して二人に均等になる様にマナを定着させる。そうすれば戦うぐらいのマナは補充できるだろう』


「――――――って言ってるが」


「マナを定着?そんな事出来るのかよ?」


 通常、マナが底をついた者がいくら周囲からマナを集めても、体内に止めることが出来ず、マナは霧散してしまう。その原因は体内に保有している自身のマナで取り込んだマナを自身の身体に定着させるからだ。

 生きている者には生まれながらに操ることが出来る最大マナ量と言うものがある。

 訓練や修行によってこの最大量は変化していくが、それを超えるマナを扱うことは通常できない。もし、最大値を超えるマナを扱おうとした場合、負荷に耐えられず自滅してしまうからだ。

 だから総司やライラ、マナを扱うことが出来る者は最大値以上のマナを周囲から集めて取り込むことはない。

 つまり、二人分のマナを総司が集めても、その最大値が邪魔をして集められない。

 しかし、オグマが総司を介してマナを操作し、集めたマナを二人に均等になる様に分配、定着させれば二人の枯渇したマナを補充することが出来る。


「―――――らしい」


「けどな・・・・・・」


 疑いの目を向けるライラに、総司はまたもやオグマの言葉を伝える。


「『今やった事がその証明だ』って言ってるが」


「まあ、確かに・・・・・」


 半信半疑だが、確かにライラのマナは雀の涙程度だが、回復している。


「けどなぁ、それをする方法がなぁ・・・・・」


 ライラが言いたいのは、その手段だった。

 花も恥じらう乙女、とは言わないが、これでもライラは女の子なのだ。しかもまだそう言った経験はライラにない。切羽詰まった状況とは言え、男に抱かれろと言われてもはいそうですかとは言えない。


「・・・・・本当に、だ、抱かれる以外の方法は無いのか?」


「えっと・・・・・・・『今みたいに手を繋いでも出来るが、効率が悪いし時間も掛かる。それでもいいのならやってもいいが、朝になっちまうぞ?』って言ってる」


「・・・・・・時間が掛かり過ぎる、か」


 ライラの頭の中で二つの選択肢が浮かぶ。

 一つはこのままここに留まるか。これを選べばベヤドルを取り逃すことになるが、大事な初めては守れる。

 二つ目は抱かれること。これを選べば先に行ったビジャルの助けになるし、なおかつベヤドルを捕らえることが出来る可能性が上がる。


(ああ、くそっ!どうしたらいいんだよッ!?)


 抱かれるか、抱かれないか。ライラは女として最大の難問に頭がパンクしそうになる。

 それでも考える、考える、考え抜き、そして――――――


「・・・・・・・・・やるぞ」


「え?」


「やるって言ってんだよ!聞こえないのかよ、殺すぞてめえ!!」


「え?いや、だって、その、お前・・・・・い、いいのか?」


 ライラの答えに盛大に狼狽えながら確認すると、ライラは今にも火がでそうなほど顔を真っ赤にさせながら答える。


「や、やるって言ってるだろうが!」


「いいのか?その、俺がライラを―――――」


「い、いいって言ってるだろ!二回も聞くなバカっ!!」


「あ、ああ、すまん」


「それに・・・・・・」


 喚きたてていたライラは俯く。その拳は痛いほど握りしめられていた。


「それに?」


 バッと顔を上げたライラの目に強い光が宿る。


「クロードを見下したアイツをこの手でブチのめさなきゃ、アタシの気が収まらねえ」


「ライラ・・・・・」


「お前は、どうなんだ?」


「俺は・・・・・・」


 ライラの真っ直ぐな瞳が総司を見つめる。


「俺は・・・・・俺も、許せない!」


 クロードの事を見下し、口汚く罵ったベヤドルの顔が脳裏に浮かぶ。


「クロードの夢を馬鹿にした奴を、許せるかよ!!」


 それは総司の本気の怒りだった。

 自分に色々な事を教えてくれて、総司に強くなれると言ってくれたクロードを、恩人で、師で、憧れの男を馬鹿にされて、総司の心に怒りの炎が燃え上がる。


「必ずベヤドルをブチのめす!そして―――――」


 怒り以外の感情が総司の心に灯る。


「かならず、取り戻す!!」


 決意の光が総司の目に宿るのを見たライラは口角を上げる。


「やるぞ。必ずアイツに追いつく」




       ♢       ♢       ♢   




 部屋を照らすランプの淡い光の中、俺とライラは向かい合って座っていた。


「い、いいか?」


 確認するように聞くと、ライラは頬を赤く染めながら目を逸らす。


「だ、だから、何度も聞くなって言ってるだろ?・・・・・・・もう、覚悟はできてるよ」


「分かった。オグマ」


『心配するな、ヘマはしない。それよりさっさと始めろ、時間が無いぞ?』


「ああ・・・・・・・」


 改めてライラを見る。

 華奢な体だが、ハンターとして鍛えた体は程よく締まり、少し日に焼けた肌は、それでも張りがあり瑞々しい。

 頬を染めた顔は淡いランプの光に照らされて、何処か可愛げに、しかし、女としての色香が垣間見える。

 ソワソワと落ち着きなく身体を揺らすライラの姿に、これからする行為を想像して思わずゴクリと喉が鳴る。


「な、何だよ。やるなら、は、早くしろ!」


 ジッと見ていたのが駄目だったのか、ライラは赤い頬を更に赤くして怒鳴る。


「・・・・・・分かった」


「!」


 覚悟を決めてライラの肩を掴むと、ビクリとライラの身体が震える。


「怖いか?」


「は、はあ?こ、怖くねぇし。こ、こんなの、よ、余裕だぜ」


「ぷっ!」


「な、何だよ、何が可笑しいんだよ!?」


 肩を掴まれただけで狼狽えるライラに、思わず笑いが洩れる。だって、顔を赤くしながら狼狽えるライラが余りにも可愛く思えてしまったからだ。


「何でもないよ・・・・・・いいな、始めるぞ?」


 コクリと可愛らしく頷くライラに、俺は我慢できずその口を自らの口で塞ぐ。


「ンッ!?」


 いきなりのキスにライラは驚き、思わず顔を逸らして逃げようとするが、俺はそれをさせまいと逸らした唇を追うように再びキスをする。


「んっ!ちょ、おま、んンッ!」


 もっと深く繋がりたい。そう思って更に激しくライラを求める様にキスをする。それと同時にオグマから言われた通り、いつもの要領で周囲からマナを集めることも忘れず行う。

 本来ならライラの力で俺なんて直ぐに跳ねのけられるが、戸惑いと羞恥で力が入り切っていないのか、されるがままになっていく。

 そうしてキスを重ねていくと、次第に興奮とは別の何かが身体を熱くさせる。


(これは、マナか?)


 俺が集めたマナをオグマが操作しているのか、身体に枯渇したマナが集まっていき、徐々に馴染んでくるのがわかる。

 それは俺を介してマナが流れ込んでいるライラも同じなのか、一度キスを止めて顔を離したライラの瞳は驚きで目が見開いていた。


「本当にマナが回復してる・・・・・・」


「みたいだな。けど、まだ足りないな」


 先程のキスでマナが回復しているのが分かったが、闘うことが出来るまで回復しているのかと問われれば、まだ足りない。

 それはライラも分かっているのか、上目遣いで俺を見上げるライラが小さな声でボソリと言う。


「・・・・・・続き、するか?」


 恥じらいながら聞いてくるライラに愛おしさが込み上げてきて、またもやキスをする。


「んっ、だ、だからいきなり、あンッ!」


 キスを一旦やめて、ライラの耳に顔を寄せるとその小さな耳に甘噛みをする。


「ちょ、ま、ンンッ!」


 ライラの口から荒い吐息と、甘い声が洩れる。

 その声が余りにも普段のライラからは想像の出来ない声だったものだから、俺はその声が聴きたくて別の所も積極的に攻める。

 耳、頬、首筋と徐々に下へ下へと下げていく。


「こ、こんな事まで、する、んっ、しつよう、あるの、か?」


 ハアハアと息を荒げながら言うライラの顔には、先程自分で言った余裕とは違う顔をしている。


「何て言うか、準備みたいなもの、かな?」


「準備って・・・・・・あンっ!」


 徐々にヒートアップしていく気持ちを表す様に、俺はライラの身体を隅々まで愛でていく。

 やがて体と心の準備が出来たのか、ライラは切なげな眼で俺を見つめてコクリと小さく頷く。俺もそれに頷き返すと、ライラのホットパンツに手を掛ける。


「いいな?」


 最後の一線を越えるための確認をする。それに対しライラは小さく頷くと、おずおずと両足を開く。


「きて、くれ・・・・・・」


 ライラの声に導かれるように、俺は最後の一線を越えた。




       ♢       ♢       ♢   




 ハアハアと、二人の息切れした吐息が部屋の中に響く。


「・・・・・・本当に、シちゃったな」


「一々言うな、バカ」


 総司の腕に抱かれたライラが弱弱しい声で文句を言う。

 そのライラの肌には玉の様な汗が浮かび、先程の行為によって体が火照っていた。


「・・・・・・後悔、してるのか?」


 総司に抱かれながら、自分の下半身に視線を向ける。そこには初めての行為を終えた証があった。


「そんなわけないだろ?こんな状況で言っていいのか分からないけど、その、嬉しかったよ・・・・・・・ライラは?」


「アタシ?アタシは・・・・・・・・・」


「おい、そこで黙るなよ!」


 焦る総司をよそに、ライラはフッと笑う。


「冗談だ・・・・・・・後悔は、してない」


「そっか・・・・・」


 それからしばし二人の間に沈黙が流れるが、決して嫌なものではなかった。


「昔・・・・・・」


「ん?」


 何処か暖かな空気に身を委ねていると、ライラは小さな声でぽつぽつと言葉を発した。

 それは、ライラとクロードが出会った話。

 ぽつりぽつりと語る声に、総司は黙って耳を傾ける。

 スラムで暮らしていた時の事、妹がいる事、妹の生活を守るために汚い事をしていた事、その最中でクロードと出会った事・・・・・・ライラの妹が、実の父親の手によって売られたこと。

 そんな昔話がライラから語られていく。




         ♢       ♢        ♢  




 他の街に移送する準備をしていると言う連中の下に向かうため、街の外までクロードと共に走った。

 クロードよりもこの街に詳しいアタシは、クロードの様な大柄な男では通れないような場所を通り抜けながら走った。

 当然、クロードは通れない場所も平気で通り抜けるアタシにはついてこれず、アタシはクロードを置いて先に向かう。

 本当はクロードと一緒の方が良いのだろうが、今のアタシにはその余裕はなかった。


(アミリィ、アミリィ!!)


 心の中で何度も妹の無事を祈りながら走りつつ続けると、アタシは街の外まで出ていた。


「あれかッ!」


 見つけたのは何処かに行く為か、移送の準備をしている数十人の姿。

 アタシはそいつらの目の前に飛び出すと、大きな声で言った。


「アミリィを、アミリィを返せっ!!」


「ああ?何だこのガキは?」


 急に現れて大声を出すアタシに面食らうが、現れたのが子供だと分かると、連中は鬱陶しそうに手をシッシッと振る。


「何の用か知らんがな、邪魔だ。あっちに行ってな」


 アミリィの事で頭が一杯だったアタシは、その連中の態度に怒りを覚えて殴りかかる。


「アミリィを、返せっ!!」


「おわっ!何しやがるこのガキっ!!」


 振り上げた拳は虚しく空振り、逆に男の蹴りがアタシの腹に食い込む。


「ぐふっ!」


 そのまま地面を転げるアタシを、連中はイラついた目で見下す。


「何なんだテメェは?仕事の邪魔するんじゃねえよ、ぶっ殺すぞ!」


「・・・・・・あ、あみ」


「ああ?」


「あみ、りぃ・・・・・・かえ、せ・・・・・ぐっ!」


 地面を這うように体を動かすアタシの頭に、男の足が踏みつける。


「さっきからうるせえガキだなぁ」


「待てよ?アミリィって確か・・・・・・」


「ああ?どうした?」


「・・・・・・そうだっ!さっき酔っ払いが連れてきたあの赤髪のガキ、確かアミリィって呼ばれてたな」


「っ!」


「ああ、あのガキか。ってことは、このガキはその家族か何かってところか?」


「か、かえ、せっ!アミリィをっ!」


 頭に乗せられた足を退けようと藻掻くアタシを、連中は大声で笑う。


「ハハッ!!残念だったな?そのガキならもういないぜ?」


「なっ!」


「お前の探しているガキなら、ワイバーンで運ばれていったぜ?残念だっだたな、ハハハハハっ!!!」


 ワイバーン。ドラゴン等の竜種に近い種族で、空を飛べる魔物の一種だ。

 ワイバーンの移動速度は速く、とてもではないが人間の足では追いつけない。


「そ、そんな・・・・・・」


 その現実に、アタシは絶望した。

 実の親に裏切られ、守ると言った妹を守ることも出来ず、アタシの心は次第に黒く染まっていくのを感じた。


「てなわけで、ここに居られても邪魔だからよぉ・・・・・・」


 そう言って剣を振り上げる姿を、アタシはただ見ていることしかできなかった。


(もう、いいや・・・・・もう、疲れた・・・・・・)


 もう、心の支えなんて無い。

 生きている意味なんて、無い。

 だからもう、どうでもいいや・・・・・・


「死ねや」


 迫りくる刃を、死が訪れるのを、目を瞑って待った。

 が――――――


「ギャアァアアアアアア!!!」


 突然の悲鳴。それと同時に頭を踏みつけていた足が退く。


「う、腕っ!俺の腕がああぁあああ!!」


 鮮血をまき散らしながら肘から先を失った腕を押さえてのたうち回る。


「な、にが・・・・・?」


 倒れたまま、アタシはその光景を呆然と見つめる。すると、まるでアタシを守るかのように、大きな背中がアタシと連中の間に立ちふさがった。


「な、何だテメエっ!!」


「くろー・・・・・ど・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


 一斉に得物を向けられるクロードは、しかし、微動だにしない。


「何とか言っ――――――」


「黙れ」


『っ!!』


 一言。たった一言で、その場を全員が動きを止めた。


「俺は今、相当頭にキテる。だから、俺の質問に素直に答えろ」


 ひっ!と誰かの短い悲鳴が洩れる。


「アミリィをどこにやった?」


「し、知らないっ!」


 一人の男が震えながら悲鳴に近い声で答える。


「そうか」


 そう言ってくるりと連中に背を向けると、アタシの方に歩み始める。


「待ちやがれッ!!」


 その声にクロードの足が止まる。


「・・・・・何の用だ?」


「何の用だと?ふざけるなっ!!」


 失った腕に止血代わりの紐をきつく結んだ男は唾を飛ばしながら怒声を上げる。


「こんなことして・・・・・・てめぇ、生きて帰れると思うなよっ!!」


 その声に触発されるように、先程まで固まって動けなくなっていた連中が得物を取り出しクロードに向ける。


「・・・・・・・・そうか」


 クロードは連中に振り返ると、背中に背負った大剣を引き抜く。


「都合がいい・・・・・俺も、お前達を生かしておくか悩んでいたからな」


 その言葉を切っ掛けに、連中は雄叫びを上げながらクロードに襲い掛かる。


「ライラ、よく見ておけ。そして、目に焼き付けろ」


 迫りくる暴威など意に介さず、クロードは静かにアタシに言葉を投げかける。


「俺のとっておきだ」


 そう言って大剣を構えたクロードから、赤い闘気が爆発的に立ち上る。そして、その闘気に呼応するかのように刀身から炎が噴き出す。


『ッ!!』


 その光景に威勢を見せていた連中が足を止める。止めてしまう。それは恐怖からか、それとも畏怖か。

 燃え盛る大剣を大上段に構えたクロードは真っ直ぐ前を見据える。


「豪炎―――――――」


 そして、そして―――――――




           ♢      ♢       ♢




「連中は纏めてあの世いき。残ったアタシはクロードに連れられて、この街に移ることになった」


「・・・・・妹さんは?」


「分からない。どこに行ったのか、生きているのかも、な」


「そうか・・・・・・」


 どうしてこんな話を聞かせてくれるのか、総司には分からない。それでもこの時総司の胸に、不思議と嬉しいと言う感情があった。

 それは普段自分の事を余り話そうとはしないライラが、こうして総司に過去を話してくれたからだろう。

 ライラは総司の腕から抜け出すと、上体を起こして自分の身体を見下ろす。汗は引いてきたが、まだ体は熱を帯び、先程の行為の名残が体に付着したままになっていた。


「お前とこんなことするなんてな」


「やっぱり、後悔してるのか?」


 総司も上体を起こして、窺うようにライラに聞く。するとライラは鼻で笑った。


「ハッ、言ったろ?後悔はしてない。そにれ・・・・・」


「それに?」


 ライラは握った手に闘気を籠めると、その手に赤い闘気が宿る。


「ベヤドルの馬鹿野郎をぶっ飛ばすことが出来る」


 ニヤリと獰猛に笑うライラに、先程の様な可愛らしい顔などもはやなかった。

 それを総司は寂しいと思うも、口には出さず、あえて自分もライラと同じように笑った。


「ああ、これで戦える」


「行くぞ。ベヤドルと決着をつけに」


 その声に総司は拳を握って応える。


「おうっ!」

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