幕間 05
一瞬だった。
あと一歩でロクでもない奴らに襲われる直前に現れたクロードによって、一瞬の内に二人の男は殴り飛ばされる。
「く、クロード・・・・・」
「な、何者だ、てめぇ・・・・・」
殴られ地面を這いずる男に歩み寄ると、クロードはその男の胸倉を掴むと勢いよく壁に叩きつける。
「がっ!」
体格差で足が浮いた状態で壁に押し付けられる男は抵抗するように藻掻くが、クロードの腕力に勝てず虚しくジタバタと藻掻く。
男に顔を寄せ、クロードは小さく呟く。
「俺は今機嫌が悪い。口の利き方には注意しろ」
「ひっ!」
クロードから放たれる本物の殺意に、男は震えあがる。
アタシもこんなに怒っているクロードを見たことが無く、戸惑ってしまう。
「今日はこれくらいで勘弁してやる。だが、次はない。もし同じことをしたら、その時は・・・・・・分かるな?」
「は、はいっ、分かりましたっ!」
クロードの脅しに男は何度もコクコクと頷く。それを確認したクロードは男を掴む手を離すと、男は地面に尻餅を付く。
「消えろ」
「は、はいっ!!」
クロードの言葉に背中を押されるように気絶したもう一人の男を抱えて慌てて逃げていく。その背中をため息を吐きながら見送ったクロードは、アタシの下に歩み寄る。
「大丈夫か?」
「あ、ああ・・・・・」
体に痛みが走るが、立ち上がれないほどではない。
アタシは立ち上がると、服に着いた汚れを払いながらクロードに顔を向ける。
「その・・・・・ありがと」
「別に大したことじゃないさ」
そう言って笑うクロードの顔は、先程見せた険しさが消えていた。
だが、それも直ぐに先程も見た険しい顔つきになる。アタシはそれを見て何処か不安な気持ちを抱いた。
「・・・・・何か、あったのか?」
アタシの問いに数舜黙ると、重々しく口を開く。
「・・・・・・一緒に来い」
「どこに?」
「・・・・・・・・」
聞き返すが、クロードは無言のまま歩き出す。アタシは訳も分からずクロードを追いかけて行くと、辿り着いた先はアタシの家だった。
「どうしてここに?」
聞いてもクロードは何も答えず、アタシの家の扉を開けて中に入る。
「おいっ!」
慌ててアタシも中に入ると、クロードは何かを探す様に辺りを見渡す。
「・・・・・・・ライラ、お前の親父は何処にいる?」
「親父?えっと、親父なら、多分奥のリビングに・・・・・」
「そうか」
「って、おい待てよっ!」
突然親父の居所を聞かれて戸惑うも、素直に答えると、クロードはアタシが教えた場所にアタシの声を無視して足を向ける。
「ああ?何だお前?」
遅れてリビングに入ったアタシが見たのは、突然現れたクロードに訝し気な目を向ける親父の姿。その手には相変わらず酒が握られて顔も赤らんでいた。
(あれ?)
朝見たリビングよりも、今のリビングに違和感を覚えた。それが何かと考えるよりも早く、クロードは無言で親父に近づいていく。
親父の座る椅子まで歩み寄ると、クロードは親父を何処か蔑んだ目で見下ろす。
「な、何だお前、ここは俺の家だぞ?勝手に入ってくるんじゃねっ!ライラっ!何だこいつはっ!」
大柄なクロードに一瞬気圧されるが、酒が入っているお陰か、直ぐに怒鳴り散らかす。
しかし、そんな親父の態度を受けてもクロードは平然としていた。いや、むしろ怒っている?
「・・・・・・自分が何をしたのか、理解しているか?」
「な、何の事だ?変な言いがかりは――――――」
クロードの怒気に当てられて怒鳴り声が鳴りを潜め、クロードに問われたことに、何処か言い訳がましい台詞を吐こうとしたその時、続くクロードの言葉にアタシは衝撃を受ける。
「娘を売ったな?」
「っ!」
・・・・・・・娘を売った?
けど、アタシはこうしてここにいる。
じゃあ、誰を?
決まっている、アタシの妹、アミリィの事だ。
「そ、それがどうしたっ!」
そして、それが正しい事の様に親父が喚き出す。
「あれは俺のモノだ!俺がどうしようが赤の他人のお前に文句を言われる筋合いはないっ!!」
唾を飛ばしながら喚く親父に対し、何処か冷めた目を向けるクロードはその眼をリビングの中に目を向ける。
呆然としているアタシもクロードに釣られてリビング内に目を向けると、そこで違和感の正体に気付く。
「あ」
リビングに入った時の違和感。そう、今朝見た時よりもリビングにある酒の量が増えていることを。
こんなに酒を買うだけの金なんて、当然ない。なら、どこから金が出てきたのか?その答えが先程クロードが言った事だ。
「・・・・・・娘を売った金で飲む酒は、美味いか?」
何処までも見下げ果てたと言わんばかりな目を向けるクロードに、親父は何処か開き直ったように口を開く。
「ああ、美味いね。それがどうした?お前に何か関係があるのか?ハッ、使い物にならないモノを処分して何が悪い?まあ、案外いい金になったぜ。あんなガキでも抱きたい奴がいてくれたおかげで、こうして美味い酒が飲めるんだからな、ハハッ!」
リビングに親父のクソみたいな笑い声が響く。その笑い声にアタシの頭の血管が切れる音がした。
「ふざけるなっ!!」
リビングに転がる酒瓶を蹴り飛ばしながら親父に向かって走り、握りしめた拳をそのアホ面に叩きこもうとした時、アタシの拳が当たるよりも早く、クロードの強烈な拳が親父の顔面を殴り飛ばしていた。
「ふざけるなよ・・・・・・・このゲスがっ!」
クロードの顔に先程見せた怒りよりも更に濃い怒りが顔を歪ませる。
「自分の娘を売って、ヘラヘラ笑ってるんじゃねえっ!!」
それは本気の怒りだった。クロードは今心底怒っていた。
「ライラ達はお前の様なゲスの玩具じゃないんだぞ!!」
クロードに殴られ、顔を腫らして鼻血を垂らす父親は気を失って、クロードの放つ言葉に耳を傾けることはない。
「クロード・・・・・・」
肩で息をしながら立ちすくむクロードの背中を、アタシはその背中がなぜか眩しく見えた。
やがて落ち着いたのか、クロードが大きく息を一つ吐くと、アタシに振り返る。
「行くぞ」
「え?」
振り返ったクロードの眼には先程の様な怒りの色はない。あるのは何かを決意した強い光だけだった。
「今ならまだ間に合うかもしれない。助けに行くぞ。お前の妹を」
「あ、ああ!」
そう言ってクロードはリビングを出て行く。その背を追いかける様にアタシも後に続く。
(待ってろアミリィ・・・・・・・必ず助けるからなっ!!)
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