幕間 04
「それで、お姉ちゃんはその人の手伝いをするの?」
妹のアミリィが可愛らしく小首を傾ける。
「ああ、報酬もいいからな」
あの後、アタシはクロードと名乗るハンターの提案に乗り、依頼の手伝う事を決めた。
手伝いの内容は情報収集。
クロードの目的はこの街にいる奴隷商の調査だと言う。この街の奴隷商は組織だって違法な取引をしているらしく、クロードはその調査を依頼されたらしい。
クロード曰く、奴らはスラムで隠れて取引などをしているらしい、と言う事まではつかめたが、肝心のどこで、どんな取引をしているのかまではまだ判明していないと言う。
「直接スラムに行って調査をしたいところだが、よそ者の俺がスラムをうろついてたら直ぐに奴らに俺の存在がバレる」
そこで、普段からスラムで生活するアタシの出番となったわけだ。アタシならスラムの地理も把握してるし、そこに住む人間もある程度把握している。
そう言う訳で、アタシはクロードに協力してスラムで情報を集めることにした。その間クロードは別方向から情報を集めることになった。
そうしてクロードと協力する事数日、情報は集まるが、有益な情報はいまいち集まらない。そんな状態がここ数日お互い続いていた。
「まあ、直ぐに情報を集められるとは思ってないからな。こう言うのは根気強くやっていくしかない」
そう言って笑いながらアタシの頭を撫でる。
「勝手に触るな!」
最近クロードは事あるごとにこうしてアタシの頭を撫でてくる。
「別に減るもんじゃねぇだろ?」
そう言って笑いながら一向に止める気配が無い。
アタシの頭なんて撫でて何が面白いんだか。こんなボサボサで手入れもしていない、何だったら数日まともに洗ってもいない薄汚い頭なんて触っても何の得にもならないのに。
それでもクロードはアタシの頭を撫でることを止めなかった。
ある時、アタシは何となく聞いてみた。アタシの頭なんて撫でて何が面白いんだ、と。そうしたらクロードは僅かに微笑みながらこう言った。
「お前のその赤い髪、結構気に入ってるんだよ」
何を言ってるんだこいつは?アタシはこの時そう思った。
こんな汚い髪を気に入るなんて、とんでもないバカか、とんでもない変態のどちらかだ。
アタシがそう言って罵ると、クロードは苦笑しながらこう言った。
「綺麗な髪なんだから、触りたくなるのは当然だろ?」
「ッ!!」
アタシの髪が綺麗?本当に何を言ってるんだこいつ。
けど――――――
(何か、胸が・・・・・・)
ギュッと締め付けられる。
「・・・・・・・勝手にしろ」
最初は鬱陶しくて振り払っていたが、それでも止めないもんだから、アタシも次第に諦めて今ではされるがままだ。
それからも色々あった。
一緒に飯を食った。一緒に街の中を調査で走り回った。一緒に他愛のない話をしながら河を眺めた。
時には意見をぶつけあったり、時には助けて助けられたり。本当に色々あった。
そんな日々を過ごしていると、一ヶ月の時間が過ぎていた。
調査の方は大分進展して、後一歩で明白な証拠が揃う段階まで来た。
「証拠が揃った後はどうすんだ?」
「逮捕する」
「逮捕、か。連中、大人しく捕まってくれるのか?」
「その時は実力行使だ。なにせ連中、相当裏で汚い事をしているみたいだからな。例え殺すことになったとしても、咎められたりはしないだろうよ」
そうして情報を集めると同時に連中の捕縛も考慮して準備を進めていたある日のこと。
その日、アタシはここ最近クロードの手伝いで手に入れた金で食料を調達した後、家に帰るために裏路地を一人歩いていた。
「こうしてまともに金を稼いで物を買うなんて、今までの生活から考えたら驚きだな」
そんな事を手に持った袋を覗き込んで呟く。袋の中は店で買った食料が詰められている。節約して食えば一週間は持つはずだ。
「ま、クソ親父にはパンの一つでもくれてやれば充分だろ」
あのクソ親父にはアタシが今何をしているのかは話していない。だからこうしてクロードから渡された金は親父に渡さずこっそり隠している。どうせ渡したところで賭け事か酒代に消えてしまうのがオチだ。
いつも通りを装ってクソ親父には最低限の金と食料以外渡していない。妹のアミリィにだけ話して、得られた金でアミリィと甘いお菓子を二人でこっそり食べてたりする。
今抱えている食料だってそうだ。あのクソ親父に渡してやるつもりなど毛頭ない。これはアタシとアミリィのための物だ。
「あと少しで約束の報酬も手に入るし、そしたらもう少しアミリィに贅沢な思いをさせてやるな」
そう考えると自然と口元が緩んでくる。この前買ってきたお菓子よりももっと美味い物を持ってきたら、アミリィはどんな顔をするだろうか?
想像するだけで何だか胸の奥が暖かくなる。
「報酬を手に入れた後はなるべく節約して冬を乗り越えて・・・・・その前にもう少し金を稼ぎたいな。今度クロードに・・・・・あ」
また何か手伝って金を稼ごうかと考えたところで思い出した。
クロードはこの依頼が終わればこの街を出ると言う事を。
「・・・・・・ハッ!アイツがいなくたって、別に今まで通りの稼ぎ方をすればいいだけだ」
そうだ、いつも通りに戻るだけ。戻るだけ、なのに・・・・・
「・・・・・・・・・チッ!」
何故だか無性にムカついてきた。
イライラの衝動のまま、アタシは道端に転がっていた小石を蹴飛ばしていた。
「痛っ!」
「!」
アタシが蹴飛ばした小石は勢いよく飛んで壁に当たり、壁に当たった小石はそのままわき道に飛んで行って誰かに当たってしまった。
「イてえ~・・・・何だよ畜生」
わき道から出てきたのは二人組の男。前にアタシから盗ってきた食料を強引に奪って行った連中だ。
二人の男の内一人が額をさすりながらしかめっ面でアタシに目を向ける。
「テメェ・・・・・ライラ、いい度胸してんじゃねぇか」
「何だ、前の仕返しでもするつもりか?」
「だったら返り討ちに・・・・・・ああ?お前が持ってるその袋」
「っ!」
アタシが持つ袋に目を向ける。咄嗟に袋を抱えて隠すが意味はない。案の定二人はクソみたいな笑い声を上げながらこっちに近づいて来る。
「おいおい、また俺達に食料を持ってきてくれたのか?可愛いとこあるじゃねえか」
「丁度いい、俺達腹減ってたんだよ。ついでだ、持ってきてくれた礼に、俺達が遊んでやるからよ、ヘヘッ」
「お、いいね~最近女を捕まえられないから溜まってるんだよなぁ。ガキだが一応こいつも女だし、穴に突っ込めば少しはストレス解消になるだろ。ギャハハ!」
下卑た笑みを浮かべながら近づく二人に踵を返して走り出すが、大人と子供では勝負にならない。直ぐに捕まって汚い地面に引き倒される。
「は、離せ!!」
「いいから大人しくしろ!」
後ろから体を押さえられて身動きが取れない。
「自分が女だってことを嫌ってほど教えてやるよ!ハハハッ!!」
前にいる男がそう言いながら自らのズボンに手を掛ける。
(クソ・・・・クソ、クソクソクソッ!!!!)
悔しい。こんなクソみたいな連中に好き勝手されることが、何も出来ない自分が、悔しくて悔しくてたまらない。
悔し涙で視界が歪む中、その声がアタシの耳に届いた。
「お前ら・・・・・ライラに何してやがる」
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