第17話 先が見えない道
ベヤドルと一緒にバヤール亭を訪れて三時間。気が付けば訪れた当初はまだ窓から差し込んでいた日差しで明るかった店内は、日暮れと共にランプの明かりで照らされていた。
それだけの時間を使っても、俺達はいい案がでなかった。
考え付く限りを検証してみても、どれも現実味のない話ばかりで、これだっと言える案が出ない。
次第に考えも浮かばなくなり、俺達はどちらともなく無言のまま温くなった酒を飲んでいた。
周りは仕事上がりか、店に来た客たちで賑わっている。その中で俺達が居る席だけが、まるで沼の中に沈んだような昏い空気に包まれている。
「あれ?兄さん?」
「ん?」
「やっぱり。ソウジさんも一緒なんですね。二人で飲んでたんですか?」
沈んだ空気の中、声を掛けてきた人物はファムだった。
「ああ、ファムか。今ソウジと例の件の話をしていたんだ」
例の?と小首を傾げたファムは少し考えて俺がベヤドルに頼んだ調査の事だと思い至り、納得顔になる。
ベヤドルに空いてる椅子を薦められ、ファムも腰を下ろす。
「お前はこんな時間にどうしたんだ?」
ベヤドルの質問に若干頬を染めながらここに来た理由を説明してくれる。
「えっと、実は買ったばかりの本を読んでたらこんな時間に・・・・・夕食の準備もしてなかったから、外で食べようかなって。兄さんは遅くなるって言ってたから」
「本、好きなんだ」
「はい。物語が好きで、よく読んでるんです・・・・・子供っぽい、ですよね?」
染めていた頬を更に染めて上目遣いにもじもじとするファムは、何処か小動物の様な愛くるしさがあって思わず笑みが自然と零れる。
「いや、そんなことないさ。俺も本や物語は好きだし」
「そ、そうなんですか?あの、ソウジさんはどんな話が好きなんですか?」
「俺?そうだな~・・・・・」
バトル漫画とか、異能系ラノベとか、って言ったところで判らないよな。でもやっぱり好きなのは・・・・
「冒険譚、かな」
剣や魔法のファンタジー世界。仲間たちと一緒に広い世界を飛び回り、数々の冒険を繰り広げる。そんな冒険ファンタジーが俺の好みのジャンルだ。
(まあ、今まさにそのファンタジーな世界に居るんだけどね)
「・・・・・・冒険譚、ね」
俺の答えにファムではなくベヤドル反応を示した。
「変、かな?」
「ん?ああ、いや、違う違う、別に変じゃない。ただ、俺は本を読まないから冒険譚ってのはどういった話があるんだろうなって思っただけだ。気を悪くしたなら謝る、すまん」
ベヤドルは律儀に頭を下げる。
「別に謝る事じゃないよ」
前世ではオタクだ何だと馬鹿にされることもあったからな。こんなことぐらいで傷ついたり落ち込んだりしない・・・・・・何だか無性に悲しくなってきた。
「それで、二人は報告会議って感じですか?」
話がひと段落したのを見計らってファムから俺達がここに居る理由を聞く。
「ああ、それなんだがな。実は―――――」
どうやらファムはまだ調査結果を聞かされていなかったらしく、ベヤドルが今どういった状況かを聞いて驚いていた。
「金貨百枚なんて・・・・・・その、ソウジさんどうするんですか?」
「・・・・・・ベヤドルと一緒に色々考えてみてるんだが、いい案は浮かばない」
折角ファムが居るのだから、ファムにも何かいい案がないか尋ねるために、ファムが来るまでの間に二人で話し合った事を説明する。
「・・・・・・難しい、ですね」
「まあ、だよな」
今まで出した案は既にベヤルドに検証してもらって実行不可能と言われている。俺が求めたのはファムにこの案以外に何かないかと言う希望に縋り付きたかったからだ。
しかし、ファムにもいい案は考え付かないと言う結果だった。
まあ、直ぐに思い浮かぶぐらいなら、こんなにも頭を悩ますことなど無い訳で・・・・・
「すみません、力になれなくて・・・・・」
本来ならファムが悩む必要もないはずなのに、俺が話しを振ったせいで雰囲気を悪くしてしまった。
「あ、いや、そんなことないっ!俺の事情に付き合わせてるこっちが悪いんだ、ゴメン」
俺はファムに頭を下げると、ファムは慌てて「か、顔を上げてください!」言うので素直に従う。
「私がしたいからしているだけですから、ソウジさんは気にしないでください」
「そう言って貰えるだけで嬉しいよ。ありがとう」
「とは言え、だ」
俺がお礼を言うタイミングでベヤドルが話を戻す様に話始める。
「こうやって話し合ってみても、現状取れる手段は・・・・残念ながら、無い」
『・・・・・・・・』
ベヤドルの言葉に、俺とファムは黙らざるおえない。これだけ時間を掛けて、更にファムまで参加して話し合っても答えが出なかったのだから。
ファムが来る前の重苦しい沈黙が再び流れる中、ベヤドルがため息をついて席を立つ。
「時間も遅い、今日はここまでにしよう」
「・・・・・そうだな」
いつまでも二人を俺の事情に付き合わせるわけにもいかない。そう思って俺も席を立った。
ファムは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずに俺達に続いて席を立った。
会計を済ませて店を出た俺達は、そのまま店の前で別れることにした。
別れ際に「何か思いついたら教える」と言って去って行った二人に感謝しながら、俺も宿へと歩き出した。
この先どうするか、結局答えを出せぬまま。
♢ ♢ ♢
日が昇り、奴隷市が開催される日まで、残り二日。
宿に戻った後、あれこれと考えてみたが、結局いい案は出ず、気付けば眠っていた。
「はあ~・・・・・・」
重いため息と共にベッドから起き上がり身支度を済ませ宿を出る。このまま宿であれこれ考えていても意味わないだろうから、少し外の空気を吸いに行こうと思ったからだ。
当てもなく街を歩いていると、気付けば組合の前まで来ていた。
「・・・・・・依頼でも見てみるか」
今更依頼を見てところで何かあるわけでもないとは思うが、それでも何もしないよりかはいいかと思い、俺は組合の扉を開く。
朝の早い時間だからか、依頼を求めてやってきたハンター達で組合の中は込み合っていた。
「・・・・・・これじゃ時間が掛かるな」
受付に並ぶ人の数から、結構な時間が掛かると判断した俺は、どうしたものかとその場で考えていると、不意に声を掛けられた。
「おや?ソウジ君じゃないか。朝早くから熱心だね」
声を掛けられて振り向くと、そこにはオベールさんが書類を片手にこちらに歩いてきた。
「依頼を探しに来たのかい?この時間は他のハンター達が一斉に来るものだからいつも忙しくてね、依頼を受けるのならもうしばらく時間が掛かると思うよ」
「あ、いえ。依頼を受けに来たって言うか、何と言うか・・・・」
言葉に詰まっていると、そんな挙動不審な俺の態度にオベールさんが首を傾げる。
「依頼を受けに来たんじゃないのかい?」
「え~と・・・・・・・」
ただ何となくとは言えないし、かといって・・・・・
「ソウジ君、時間があるのなら少しお茶でもどうだい?」
とあれこれ悩んでいると、何かを察したのか、オベールさんが誘ってきた。
「え?」
「仕事を始める前に一服しようと思っていたところなんだ。よかったら付き合ってくれないか?」
微笑を浮かべるオベールさんに促されて、俺はオベールさんの執務室に行くことになった。
執務室に通された俺はオベールさんに勧められるままソファーに腰掛け、オベールさんは俺の分も合わせてお茶を用意してくれた。
二人で向かい合わせにソファーに座ってお茶を飲んで一息つくと、オベールさんが何気なく訊ねてきた。
「それで、ソウジ君は一体何を悩んでいるのかな?」
「え?何で・・・・・・」
言い当てられた俺は、飲みかけたカップを片手にオベールさんをまじまじと見つめる。その顔がおかしかったのか、オベールさんは笑いながら種明かしをした。
「そんな暗い顔をしていたら、誰だって何かあったんじゃないかと思うよ」
「・・・・・俺、そんなひどい顔してましたか?」
「ああ、それもうお気に入りの玩具を取り上げられた子供の様な顔をしていたよ?」
冗談めかした口調のオベールさんに、自然と笑みがこぼれる。
「何ですかそれ?俺は子供じゃないですよ」
「ははっ、すまんすまん、冗談だよ・・・・・それで、どうしたんだい?」
からかい交じりの顔から一変、笑顔で、それでも真剣な目で俺を見る。
「・・・・・・・・・実は――――――」
俺はこの人になら話してもいいかと思い、俺自身の事や美里の事、奴隷を購入するのに金貨百枚いる事を話した。勿論異世界から来たと言う事は伏せてだが。
「なるほど、金貨百枚か・・・・・」
「ええ」
一通り説明し終えると、オベールさんは何かを考えるかのように黙り込む。
「・・・・・・奴隷商ハイデルの事は私も知ってる。この街では有名人っと言ってもいいぐらいだからね」
「そんなに有名なんですか?」
「ああ。品質のいい奴隷を扱っていると評判だからね。そのおかげで値段も高いが、それに見合う奴隷を購入できると、一部の貴族なんかには贔屓にされているよ。ただ・・・・」
「ただ?」
そこでオベールさんは表情を曇らす。
「どうにも引っかかる・・・・・確認だが、ソウジ君の探しているその彼女は、闘気法や魔術、もしくは特殊な技術を持っていたりする訳じゃないんだね?」
「はい。俺の知る限り、極々一般的な人、ですね」
もしもあの奴隷が美里本人なら、の話だが。
「なら、容姿の方は?ソウジ君から見てどうだい?」
「えっと、身内贔屓に聞こえるかもしれませんが、かなり、何て言うか、いい女、ですね」
実際大学時代の時もそうだったが、美里はかなりモテた。俺と付き合って以降も、デート中に俺がトイレなんかで離れた僅かな間にナンパされていたことも何度かあるぐらいだ。
「ふむ、そうか・・・・・」
「あの、それが一体どうしたんですか?」
オベールさんの意図が分からない。どうしてそんなことを確認するのだろう?
すると、オベールさんは考えが纏まったのか、その答えを教えてくれる。
「奴隷の相場は、通常金貨十枚前後。これに性別、種族、容姿、奴隷の持つ技能などでその値段が変わってくる。例えば、人間の男の奴隷なら金貨六枚、対して女は金貨十枚と言った感じだ。ここまでは分かるね?」
「はい」
前にライラが言っていた。奴隷の価値は種族や性別などで値段が上下すると。
「問題なのは、ソウジ君が探しているその彼女の値段、金貨百枚と言う高額の値段だ。いくらいい女、それに加えて異国出身と言う珍しい追加付与があるからと言って、その値段はおかしい」
ベヤドルとライラは上等な女の奴隷、それに異国出身だからだろう、みたいな事を言っていたが、どうやらオベールさんはそうだとは思っていないらしい。
「普通ならいっても金貨三、四十枚ほど。元貴族の令嬢なんかの出なら金貨五十枚前後。しかし、ソウジ君の話を聞く限り、その彼女は一般的な平民。それなのにこの価格・・・・・それはつまり、今挙げた要素以外の何かをハイデルは見出したと言う事になる」
「それは・・・・・・」
美里の価値。今挙げたもの以外で価値があるとすれば・・・・
(異世界人だと知られた?)
もしもハイデルが美里を異世界人だと見抜いたら、色々と利用価値が出てくる。この世界よりも文明が発達した世界から来ている俺達は、当然この世界にない知識を持っている。
(その知識に目をつけた?)
それなら金貨百枚と言う価値も分からなくもない。
「何か心当たりがあるのかい?」
「いえ、これと言って特に・・・・・」
流石に異世界人と言う事は言えないのではぐらかす。
「そうか・・・・しかし、そうなると・・・・・」
何やら難しい顔をしてオベールさんは考え込み始める。
暫くぶつぶつと何事かを呟いていたオベールさんは考えが纏まったのか、再び口を開いた。
「・・・・・ソウジ君、この件、少し私に預けてくれないか?もしかしたら力になれるかもしれない」
「ほ、本当ですかッ!?」
オベールさんの言葉に思わず身を乗り出してしまう。
「確実、と言う訳ではないが、一日だけ私に時間をくれ。上手くいけば、その彼女と再会できるかもしれない」
現状打つ手のない俺には、このオベールさんの申し出はまさに地獄に仏だった。俺は勢いよく頭を下げる。
「お願いしますっ!!」
そんな俺にオベールさんは任せろと頷いてくれる。
このまま何もできずに美里が売られていくのを指を咥えて見ているしかないのかと思っていた矢先、オベールさんのおかげで希望が見えてきた。
♢ ♢ ♢
時間は少し上り、総司がマナ感知の訓練を開始した日の晩に遡る。
月が中天に昇るころ、ハイデルの下に一人の男が訪れていた。
場所はハイデルの奴隷店。美里が檻の入れられているテント、丁度アルディスがハイデルと偽の商談を話し合った小屋の中だ。
テーブルを挟んでソファーに腰掛けるハイデルと男は酒の入ったグラスを片手に話をしていた。
「それで、そちらの調整は済んだのですかな?」
酒臭い息を吐きながらハイデルは対面に座る男に話を振る。
「問題ない、いつも通りだ」
「それは良い事ですな」
男の返答にハイデルは気を良くして笑みを浮かべる。
対して男の方も、ソファーに寛ぐ様に腰掛け酒の入った杯を傾ける。その時、男がその腕に付けていた腕章を見てハイデルは思い出したように口を開く。
「そう言えば、ラクメル様の言っていた数はそろったのですかな?」
「いや、まだだ。他の者達にも集めさせているが、なかなか集まらん。宰相の目もある、派手に動くことも出来んからな」
ラクメルと呼ばれた男は愚痴交じりにため息を零す。
「宮使いも大変ですな」
「当たり前だ。お前の所の審査審問を通すのもそれなりに苦労があるのだぞ?」
嫌みの様にハイデルに言うと、ハイデルは殊勝な態度で頭を下げる。
「分かっておりますとも。審査官長であらせられるラクメル様にはいつも感謝の念が絶えません」
そう、このラクメルと言う人物は国に仕える役人、その中で各地の商人から上がってくる商会登録、売買する品の安全性、違法な取引をしていないかなどを調査、申告をする審査官、その長である審査官長を務めている男なのだ。ラクメルが腕に付けている腕章はその証。
ハイデルとラクメルは数年前からの付き合いで、ラクメルの役職を利用して自身が経営している奴隷販売の許可を国に通してもらっていた。
商売をするにはそれなりの手順が要る。その地で店を開くのなら国に申請して商会登録をしなくてはならない。それに加えて年に一度、申請した通りのままなのかどうか、それとも変わっているか、変わっているのならその申請、とそう言った諸々の手続きなどをラクメルの地位を利用して融通を利かせているのだ。
国にバレればどうなるかは一目瞭然。それでも二人が手を組んだのは見返りがあるからだ。
ハイデルは例え違法な商品を取引していようと、国はこの事実に気付かず、ハイデルは真っ当な商人として大手を振って商売が出来る。
ラクメルはそんなハイデルから見返りとして金や品を受け取る。
この話を持ち掛けたのはラクメルからだった。ハイデルの商品を見たラクメルはその上等な商品を気に入り、自身に気に入った商品を渡すなら、融通を効かせてやると。
つまるところ、ラクメルもハイデルと同じ趣味嗜好を持っているのだ。
ハイデルはその提案に乗り、こうして定期審査で審査官長自らが出向いてくるようになったのだ。
しかし、ここ最近はそれとは別に、ラクメルはあるものを集めるために奴隷を集めていた。今回はそう言ったことも含めて訪れたのだ。
「しかし、今回お前が手に入れた奴隷は中々だ。あれならばあの方もお喜びになるだろう」
「そう言っていただけたなら幸いです」
「あの奴隷、どこで手に入れたのだ?」
「借金の返済が出来ない村人夫婦がいましてな、どこから手に入れたのか、その夫婦があの娘を差し出してきたのですよ。その時少しトラブルがあったみたいですが、きちんと処理しておきました」
「そうか、あれほどのモノは滅多に居ない。どこで手に入れたのか分かれば、他にも手に入るかもしれんのだが」
「申し訳ありません、その夫婦は既にこの世にはいませんので、足取りを追うのは難しいでしょう。あの奴隷本人に聞くのもいいですが、手荒な真似をして傷をつけては本末転倒ですからな」
「・・・・・・まあいい。あの奴隷だけでも十分価値がある」
そう言ってラクメルは残った酒を飲んで立ち上がる。
「俺はそろそろ行くが、期日までに準備を済ませておくように」
「分かっていますとも」
「うむ。そうだ、帰る前に一度様子を見ておきたい、案内しろ」
「畏まりました」
ハイデルも残った酒を一口で飲み干して席を立つ。ラクメルはハイデルに案内されながら一つの檻の前まで来た。
「こちらです」
突然やってきたハイデル達に、檻の中にいた奴隷たちが一体何をしに来たのかと身体を震わす。
「・・・・・ふむ、アレだな」
ハイデルの持つランタンの光で照らされた檻の中、その奥にいる奴隷に目を向ける。
その眼には嗜虐的な光が宿っていた。
♢ ♢ ♢
薄暗かった檻の中に唐突に光が差し込まれたことで驚いた美里は、咄嗟に傍にいたミレーヌを引き寄せて抱きかかえた。
姿を現したのがハイデル達だと分かると、殊更にミレーヌを抱きしめる腕に力がこもる。
数日前、ハイデル達は今と同じようにこの檻に来た。その時ラクメルが懐から取り出した水晶を手に、檻の中にいる奴隷を順番に見ていた。
その水晶が何であるのか、どうしてそんなことをするのか理解できないでいると、奥にいた美里に水晶が向けられた瞬間、ラクメルの表情が驚愕に変わった。
驚愕の顔を浮かべたラクメルはハイデルに「あの奴隷が良い」と言う言葉を聞いた時、美里は恐怖で震えた。
この檻の中であの監視役の男がやってきた行為を遂に自分もされてしまうのか?それとも、ラクメルに売られてしまうのか?売られたらその先は?そう言った想像が津波の様に浮かんできて、美里は恐怖した。
しかし、「諸々の準備がありますので、後日」とハイデルが言ったことで、その時は何事もなく二人は去って行った。
だが、再び姿を現したと言う事は、その時が来たのかと身を震わす。そんな様子の美里の事など意に介さず二人は話をしている。
「しかし、勿体ないな」
「と、言いますと?」
「よく見ればあの奴隷、女として中々上物だ」
そう言ってラクメルは下卑た笑みを浮かべる。
「異国の顔立ちの様だが、それを差し引いても良い。身体つきも俺好みだ。俺のモノにして可愛がってやりたいぐらいだ」
「っ!」
その言葉に美里の顔が真っ青になる。その反応が気に入ったのか、ラクメルの笑みが嗜虐的に歪む。
「ですが、そんなことをしたらあの方のお怒りに触れますよ?」
「チッ・・・・・分かっている。だから勿体ないと言ったのだ」
美里を自身のモノにしたらどうなるのか理解しているのか、ラクメルは舌打ちをして引き下がる。
それに少し安堵した美里だが、次のラクメル言葉で再び身を強張らせる。
「なら、そいつが抱えているモノを頂戴しよう」
「!!」
抱えているモノ、それは今美里の腕の中で震えているミレーヌを指して言ったのだ。
「あちらをご所望で?」
「ああ、よく見ればあれも中々のモノだ。あの怯えた姿が実にそそる。フフっ」
「ラクメル様もお好きですなぁ。まあ、私もあのぐらいの歳の娘も好みですからな。ハハッ」
「では、そろそろ行くとしよう。準備の方は任せたぞ?」
「ええ、勿論ですとも」
そう言って二人は耳障りな笑い声を響かせながら檻の前から去って行った。
「お、お姉ちゃん・・・・・」
二人が去ったことで再び周囲が薄暗くなった中、ミレーヌが震える声で美里に強く抱き着いた。
「ミレーヌちゃん・・・・・」
押し付けられた胸元が湿り気を帯びる。それはミレーヌの瞳から溢れてきた涙だ。
そんなミレーヌの震える背中を美里は優しく摩る。
「大丈夫、大丈夫だから」
「~~~~~~~!!」
無力な今の自分が何を言っているんだと思っていても、目の前で声を殺して泣く少女を放っておけず、美里は何度も大丈夫と言いながら背中を撫で続けた。
今の美里には、そうすることしかできなかった。
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