第16話 調査報告

 ベヤドルが率いるクラン『疾風』の中に、何人かのサポーターが居る。その中の一人、アルディスは前線での戦力は期待されていないものの、情報収集を行う際の能力が高いことから、クランの中でも重宝されている男だ。

 数日前に疾風のリーダーであるベヤドルから、総司から頼まれた奴隷商ハイデル、その周辺の調査を頼まれた。

 特に近く開催されるであろう奴隷市の開催日、およびハイデルが出品する奴隷の価格を調査してほしいと言われた。

 突然の頼まれごとに内心首を傾げつつも、アルディスは頷き了承した。

 調査は頼まれた次の日からアルディスは動き出した。最初にハイデルの性格、趣味嗜好を信頼できる情報屋などから集める。

 ある程度ハイデルの情報を集めると、アルディスは別の日に出品物の調査に乗り出す。

 まず最初にアルディスは身なりを整えた。出来る限り高級な服に袖を通し、髪形も整え、首元や腕に同じく高価な貴金属などを着けていく。

 殆どの物が依頼や遺跡などの探索で手に入れた物で、売ればかなりの額にはなるが、クラン内で相談した結果、アルディスの諜報活動に役立てようとそれらを売らず、アルディスに与えた。

 即ち変装道具として。

 ただの平民出のアルディスの外見は顔も平凡、体格も平凡と、言ってしまえば『どこにでもいる普通の人』なのだ。そこら辺で歩いてる通行人に紛れると、誰が誰だか判別できないと、昔からよく言われていた。

 前髪が長いせいで目元がよく見えず、何処か陰鬱な空気があるおかげで、その印象に拍車がかかる。

 しかし、アルディスはその『どこにでもいる普通の人』と言われた外見を使い、仲間内でも真似が出来ない事をやってきた。それが諜報活動だ。

 今回もそれを使っての諜報活動を、と考えたが、アルディスはあえて派手な格好をして、いかにも自分は身分の高い人間だ、と装った。

 目的はハイデル、もしくはその部下に取り入る為。

 ハイデルの顧客は金を持つ者が多い。貴族や商人などだ。だから『普通の人』では近づくのは難しい。

 そこでこの格好だ。これならば誰もが思い描く『金を持っていそうな人』を装える。

 加えてアルディスは演技派だ。自称『一流の役者顔負け』の演技だと自負している。

 だから周辺をコソコソと嗅ぎまわるより、あえて正面から情報を手に入れようと考えたわけだ。

 これはこれでリスクがあるが、ベヤドルから聞いた話だとあまり時間を掛けられる内容ではないと判断したためでもある。

 そうこうして、アルディスは身支度を整えると奴隷市が開かれることで知られている広場へと足を運んだ。

 広場にはいくつかのテントがあり、その内にある他のテントとは大きさの違う、まるでサーカスでもするかのような大きなテントへ足を向けた。

 テント入り口には見張りであろうか、体格のいい強面の男が二人、暇そうに談笑しながら立っていた。

 アルディスは普段の猫背を意識して伸ばし、足取りもしっかり、胸を張る様に意識しながら男達に近づく。


「やあ、少しいいかい?」


「あぁ?」


「ここはハイデル殿が経営している奴隷店であっているかい?」


「え?えぇ、まあ・・・・・」


 いきなり声を掛けてきたのが身なりの良い男だったために、思わず見張りの男はたじろぐ。


「私はゴルメル。『イガルガ商会』でガルーザアルの支店で副支店長をしている者です」


「イガルガ商会って言えば・・・・・」


「あのイガルガ商会?」


 アルディスが名乗った名はもちろん偽名。イガルガ商会とはハンター向けに商品を開発、販売をしている商会で、界隈ではそれなりに名が知られている商会だ。


「良ければハイデル殿、もしくは話の分かる方に『商談がしたい』と連絡していただけないでしょうか?」


 そう言いながらアルディスは二人の男に銀貨を数枚握らせる。


「わ、分かりました。少しお待ちください」


 男の一人が渡された銀貨をポケットにしまい、そそくさとテント内に入っていく。

 しばらくすると先程テントに入って行った男が戻ってきた。


「ハイデル様がお会いになるそうです。こちらに」


 入り口を開けて中へ入る様に促す。


「ありがとう」


 アルディスは堂々とした足取りでテントの中に入る。


(ここまでは予定通り。ここからが本番だ)


 ランプの光で淡く照らされたテント内にはいくつもの檻が並べられていた。その檻から時折呻き声やすすり泣く声が聞こえてくる。


(噂に違わず凄い数の檻だ。他の奴隷商よりも抱えている奴隷の数が半端ない)


 チラリチラリと檻の中を気付かれない様に盗み見ながら男に案内されて奥へと進む。

 案内されたのはテント内に作られた木製の小屋。その扉を男がノックする。


「お連れしました」


「お入りください」


 中からの声に従い男が扉を開ける。


「どうぞ」


 中にいたのは自分よりも豪華な装いをした恰幅の良い中年男性がソファーに座っていた。その後ろには案内をした男よりも筋肉質な大男が護衛として控えている。


(ハイデル・・・・・相変わらずのデブ野郎だ)


 アルディスは以前一度、ハイデルの姿を見たことがある。その時と変わらない姿に内心ため息をつく。

 アルディスが中に入るとここまで案内した男が頭を下げて部屋の扉を閉めて離れていく。


「お掛けください」


 案内の男が消えたタイミングを見計らってハイデルが自身の対面にあるソファーを薦める。


「ありがとうございます」


 アルディスは素直にソファーに座る。


「ガルーザアルから来られたとか?長旅だったでしょう。こちらにはいつ?」


「つい昨日です」


 ガルーザアルは城塞都市とも呼ばれる都市で、ここレヴィア大陸の北東、『未開の地』と呼ばれる場所のほど近いところにある都市だ。

 デムローデからガルーザアルまでの距離は馬車でも二十日は掛かる。


「ほう。昨日到着して直ぐにうち来ていただけるとは、ありがたい事ですね。それで、商談とは?」


 余計な話はあまり好かないのか、ハイデルは本題へと話を進める。


「奴隷を購入したいと思いまして。ハイデル殿が扱う奴隷は上等なものが揃っていると、うちで契約している商人から聞きましてね。それでぜひハイデル殿の奴隷をと」


「ふむ、なるほど・・・・・しかし、イガルガ商会と言えばハンター向けの商品が売りだったと記憶していますが、なぜ奴隷を?もしや奴隷も販売するのですかな?」


 冗談めかした口調で言ってはいるが、その眼は笑っていない。むしろアルディスに対して疑いの目を向けている。


(やっぱりそこを突いてくるよな・・・・・)


 ハイデルも言っていたがイガルガ商会は主にハンター向けの商品を扱っている。その商会が奴隷を欲しがっている、それも上質な奴隷を。何かあるのではないかと疑うのは最もな話である。

 しかし、そこはアルディスも考えている。だから出来るだけ自然体を演じながら口を開いた。


「ガルーザアルが城塞都市、と呼ばれているのはご存じですね?では、その先に『未開の地』があるのも当然ご存じのはず」


「ええ、存じていますよ」


「未開の地からたまに魔物が降りてくる時があります。そうでなくてもガルーザアルの近辺は魔獣も出現件数が他の都市などに比べてずっと多い。なのでその魔獣や魔物相手に開発をした商品で実験しているのですよ」


「なるほど・・・・・つまり、その実験に奴隷を使うと?」


「別に奴隷で人体実験するつもりはありませんよ?ただ、ハンターを雇って商品を試してもらうよりも、奴隷を使った方がコストは安く済むんですよ」


「ふむ・・・・・・ハンターを使っての実験でもし失敗、もしくは使用者が死んでしまったら評価はガタ落ち。そこで奴隷を使えば、たとえ死んでも誰も文句は言わない、と」


「そう言う事です」


 ガルーザアルは土地柄、多くの魔獣や魔物が居る。その魔獣や魔物が万が一他の街や村を襲わないとも限らない。

 実際ガルーザアルが無かった時代、魔獣や魔物が攻めてくることが実際あった。その為に防波堤としてガルーザアルは立てられたのだ。そう言った経緯をハイデルも当然知っている。

 だからか、ハイデルの警戒が少しだけ緩んだように見えた。


「では、求めている奴隷は頑丈な者がいいと言うことですかな?」


 アルディスはハイデルからの信頼を得るために、更に言葉を紡ぐ。


「ええ・・・・・ああ、それと――――」


「何か?」


「個人的な事になるのですが・・・・・良ければ、商会とは関係なく私個人にも二、三人ほど奴隷を売っていただければと」


 ここで自称演技派のアルディスはその実力をいかんなく発揮した。ニヤァっと如何にも品のない、下卑た笑みを浮かべたのだ。

 その笑みで察したのか、ハイデルも似通った笑みをこぼす。


「なるほど・・・・・ゴルメル殿もお好きなようで、フフッ」


「いえいえ、男に生まれたのならば、誰しもが思う事でしょう?」


「確かに、そうですな」


 この話を振った途端、ハイデルの警戒が一気に薄れたようにアルディスは感じた。


(情報通り。ハイデルもただのゲス野郎だな)


 アルディスが最初にハイデルの性格、趣味趣向を調べたのはこの為だ。

 そもそもハイデルが奴隷商になったのは、単にその欲望、特に女に対しての欲望ゆえに始まった。

 ハイデルは欲に素直な男だった。だから自分がこう言う人間だと言う事も十分理解している。

 だからか、同じ様な趣味嗜好を持つ者に変な仲間意識が出る時がある。

 特に、自分と同じ欲に素直な人間にはその傾向が強い。そのことをアルディスは調査で知り、これを利用した。


「いいでしょう。イガルガ商会さんにうちの商品をお売りしましょう」


(良し!)


 アルディスの思惑通り、ハイデルが乗ったことに内心拳を握る。


「それでは、詳しい内容を詰めていきましょうか」


「ええ、よろしくお願いします」


 こうしてアルディスお得意の演技と今までの情報を駆使してハイデルの懐に潜り込むことに成功した。


(後は――――――)


 必要な情報をハイデルから引き出すだけ。

 アルディスはハイデルと偽の商談の話をしながら、この後どうやって情報を引き出すかを検証する。

 しばらくハイデルとの商談は続き、ある程度の話が纏まると、アルディスはこのタイミングを逃さず、頭の中で考えていたプランを実行に移す。


「――――――では、その様にいたしましょう。これで大方の取り決めは出来ましたね?」


「ええ。実に有意義でしたよ」


「こちらこそ。それでは私はこれで、と言いたいのですが・・・・・」


「何か?」


「折角ここに足を運んでいるので、もしハイデルさんがよろしければ、商品を見させてもらえませんか?勿論今すぐ買いたいと言う訳ではないのですが」


「ハハッ、ゴルメル殿は本当にお好きな様だ。いいですよ、まだ売るわけにはいきませんが、商品を見るだけなら案内しましょう」


「ありがとうございます」


 ニヤニヤと作り笑いを浮かべながらアルディスは頭を下げる。


「それでは参りましょう」


 ハイデルがソファーから立ち上がり、護衛の男と共に部屋を出る。アルディスもそれに続き、立ち上がって二人の後に続く。

 淡いランプの光で照らされた薄暗いテント内を三人は歩く。


「ゴルメル殿はどういった商品をお探しですかな?」


 同じ趣味を持つ仲間とでも思っているのか、ハイデルの口調は何処か弾んで聞こえる。


「今私の所にはドワーフと獣人の奴隷が二人います。二人共中々のモノを持っていましてね、購入した当初はそれはもう可愛がったものです。ですが、可愛がり過ぎたと言いますか、少し飽きてしまいましてね」


「ははっ!分かりますよ、私も似たようなことが何度もありますよ」


(あるのかよ・・・・・・)


 話を合わせるための演技とは言え、ハイデルと話しているとどんどんアルディスの心が冷めていく。


「では、今手持ちの奴隷とはタイプの違う奴隷をお探しと言う事ですかな?」


「ええ」


「ふむ・・・・お探しの種族はありますか?」


「そうですね・・・・・・」


 アルディスは素早く頭の中でベヤドルから聞いた総司の探し人の特徴を思い出して口を開く。


「今回は人族にしようかと。特別な技能などは求めていないので、見た目を優先したいと」


「分かりました。では、こちらに」


 求めている条件を提示すると、ハイデルはいくつか種族別に檻を区分けしているのか、奥まった場所にある檻まで案内する。


「こちらに入っているのが人族になります。おい」


「はっ」


 檻の中の様子が分かる様に、護衛の男に命じて手に持つランプを檻に向けさせる。


『!!』


 急にランプの光に照らされた為か、檻の中にいる奴隷たちが驚いて身を強張らせるのが分かった。


「どうですかな?ゴルメル殿のお探しの商品はありますかな?」


「そうですね・・・・・」


 檻の中に居る奴隷たちの顔をアルディスは一人一人確認していく。


(いない、か・・・・・)


「・・・・・・他にも人族は居ますか?」


「ええ、勿論いますとも。この隣りの檻もそうですよ」


「では、そちらも見させてもらいます」


 すぐ隣にある檻へと移動して同じように確認するが、それらしい特徴の奴隷は見受けられない。

 ハイデルに聞くと、他にも人族を入れた檻があると言うので、そちらにも案内してもらう。

 最初に案内された檻から数えて四つ目。


(・・・・・あれか?)


 その檻の中は他の檻と同様、数人の奴隷が入っていた。アルディスが見つけたのは出入り口とは反対の奥に座っている、蒼い髪の女の子を胸に抱きかかえた黒髪の奴隷。

 檻の外からでは見えずらいが、確認できる限り、その黒髪の奴隷の顔はここら辺では見かけない顔の作りをしていた。

 一度だけアルディスはこの大陸よりも東にあると言われている大陸の民族にあったことがある。その時に見た顔つきと何処か似ている。


(ベヤドルから聞いた話だと、異国の出だと聞いている。顔の特徴から考えて、あの奴隷で間違いないだろう)


 遂に見つけたと思い、早速ハイデルにあの奴隷が気に入ったと言う。


「あれですか?ああ~・・・・・残念ですが、あれはお売りできません」


「売れない?」


「気を悪くしないでください。あちらの商品は既に買い手がついているのですよ」


(もう買い手がいる?)


 これはどうしたものかと考えていると、ハイデルは意外な提案をしてきた。


「しかし、あちらを気に入ったのでしたら、お支払いいただける額でゴルメル殿にお譲りしましょう」


「その額は?」


「金貨百枚ほどで」


(金貨百枚!?)


 奴隷の平均的な相場から考えたらその値段はあまりにも高額。その高額な値段に流石にアルディスも度肝を抜く。驚愕を顔に出さない様に内心必死になる。


「ご用意していただければお売りします。ですが、先方との話が優先しますので、期日は四日後に開催される奴隷市が終わるまでにご用意でしていただければ」




         ♢        ♢        ♢ 




「金貨百枚を、四日?」


 訓練場で訓練をしていた総司とライラは、そこに訪れたベヤドルから頼んでいたハイデルの調査の報告を受けていた。

 三人は木陰に座りながらベヤドルの話は続く。


「この報告を聞いたのが昨日の夜。つまり、実質後三日で金を用意しないと、ソウジの探し人は他の誰かに売られることになる」


「金貨百枚か・・・・また無茶苦茶な額だな。そいつ、そんなに価値があるのか?」


「さあな。俺も話を聞いただけで実際見たわけじゃないが、調査をした奴から聞いた話だと、異国人ではあるがかなりいい女に見えたって言っていたからな。それと合わせて異国出身っていう物珍しさも値段に反映されてるんじゃないか?」


「ホント、男はロクでもない奴ばっかりだな」


「俺の顔を見て言うのは止めろよ」


 ライラとベヤドルがそんな話をしている中、総司は会話に加わることなく黙って考えていた。


(金貨百枚・・・・・今の所持金を考えても到底出せる額じゃない。今から稼ぐにしたって、後三日しかない中でそんな大金を稼ごうなんて・・・・・)


 無理、と二文字が頭に浮かんだが頭を振って追い払う。


(いや、諦めるな。まだ、何か方法があるか考えるんだ)


「ソウジ、大丈夫か?」


 悩む総司に気付いたベヤドルが声を掛けて、総司はハッ!と意識を戻す。


「あ、ああ。大丈夫だ」


「・・・・そうか」


 大丈夫と言っているうちは大丈夫だろうとベヤドルは頭を切り替える。


「それで?これからどうするつもりだ?」


「どうするも、もう無理じゃねか?たった三日で金貨百枚とか無理だろ」


 総司が何かを言う前にライラが事も無げに言ってのける。その言い様に総司が反発する。


「そんなの、無理かどうかなんて――――」


「じゃあお前は何か考えがあるのかよ?」


 反論の言葉を言い終わる前にライラに指摘される。


「そ、それは・・・・・・」


 口ごもる総司を見てライラは盛大にため息を吐いた。


「はあ~・・・・・・今日の訓練は終わりだ。街に帰るぞ」


「え?でも・・・・」


「でもじゃねぇ、今にも死にそうな面のお前に訓練したって意味ねぇだろ」


「・・・・・・・」


 総司は言い返せなかった。

 大丈夫だとベヤドルには言ったが、内心そんなことはない。心が砕けそうな思いをただ必死に隠しているだけだ。

 ライラは立ち上がって有無を言わさず歩き出す。ベヤドルも立ち上がる。


「行こうぜ?」


「・・・・・・」


 総司は無言のまま立ち上がり、ベヤドルと共にライラの後を追った。




          ♢        ♢         ♢  




「・・・・・・・」


 三人が立ち去って行く姿を、その男は木陰に身を隠して窺っていた。


 三人の姿が見えなくなると、男は身を寄せていた木陰から離れる。


 姿を見せたのは、ビジャルだった。


「なるほど、ね」


 誰もいなくなった訓練場でビジャルは三人の向かった先に目を向けながら独り言ちる。


「コソコソ嗅ぎまわってると思ったら、そう言う事か・・・・・・さて、どうしたものか」


 何事かを考え始めたビジャルはしばらく思案に耽る。


 やがて考えが纏まったのか、ビジャルは三人を追うように同じ方向に向けて歩き出した。




         ♢        ♢         ♢  




 街に戻った俺は、ベヤドルに連れられてバヤール亭に来ていた。「飯でも食って、気分を変えよう」とベヤドルが言い出したからだ。

 多少強引に連れられて訪れたバヤール亭で俺とベヤドルは向かい合っていた。

 ライラは街について早々「アタシは家に戻る」と言って別れた。なので現在俺とベヤドルの二人だけだ。

 酒とつまみを適当に頼んで席に着いた俺達は、注文した品を摘まみながら話し合っていた。内容は勿論、金の事。


「なあ、金貨百枚ってやっぱり集めるのは難しいか?」


 内心答えは分かっているのに、縋り付くように聞いてしまう。


「・・・・・難しいな。出来ないわけじゃないが、如何せん時間が掛かる。短期間で金貨百枚を稼ぐには時間が足りなさすぎる」


「だよな」


「BランクやAランクのハンターなら出来るかもしれないが、こればっかりは、な」


 分かっていた事だが、状況はあまりに絶望的すぎる。


「どうにか、ならないのかな・・・・・・」


 ベヤドルが言った様に、高ランクのハンターなら高額の依頼を受ければそれも出来るだろうが、残念ながら今の俺では高ランクの依頼を受けることは出来ない。

 ん?待てよ・・・・・確かレミアさんが低ランクが高ランクの依頼を受けるには条件がいるって・・・・・


「なあ、俺みたいな低ランクのハンターが高ランクの依頼を受けようとしたら、依頼に見合ったランクのハンターと一緒なら受けられるんだよな?」


「え?ああ、そうだが」


「なら、誰か高ランクの人に頼んで依頼を一緒にさせてもらうって言うのはどうだ?」


 レミアさんが言っていたことを思い出し、これならいけるのでは?と思ってベヤドルに話すが、ベヤドルの表情はあまり良くない。


「確かに、その方法なら依頼を受けること出来るが、残念なことにこの街にいるハンターで高ランクのハンターは、今一人しかいない」


「一人?じゃあその人に・・・・」


「ソウジは知ってるか?ビジャルって言うハンターなんだが」


「ビジャルって」


 あの人かぁ~・・・・・・

 俺は前にバヤール亭で嫌みを言っていた熟練ハンターの姿を思い出す。とても頼み込んでも了承してくれる雰囲気には見えない。


「頼もうにもビジャルは気まぐれでな、依頼だって気まぐれで受けるような奴だし、それに加えてあっちをフラフラこっちをフラフラとしているおかげで、今何をしているのか、どこにいるのかもよく分からないんだ」


「そうか・・・・・」


「他にもBランクのハンターは居るが、生憎出払っていて今はこの街にいない。戻ってくるのも早い奴で十日は掛かるはずだ」


 十日、それでは意味がない。情報通りなら、三日後の奴隷市が終わるころに買い手がついてしまう。十日では遅すぎる。


「仮に高ランクの依頼を受けることが出来たとしても、三日で金貨百枚は難しいと思うぞ?高ランクのハンターを求める依頼ってことはそれだけ難易度が高い上に時間も掛かるだろうからな」


 ベヤドルに指摘されて思い至る。確かに受けたとしてもそんな簡単に大金を手に入れられるわけもない。


「じゃ、じゃあ―――――――」


 俺は諦め悪く考え付いた案を出し、ベヤドルがそれに応えていくが、いい案は出ることはなく、時間だけが過ぎていった。

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