第15話 マナ感知

 茜色の空が視界一杯に映る。

 頬に当たる風が火照った体を撫でる感触が心地いい。


「はぁ・・・・はぁ・・・・・・」


 大の字で倒れ伏しながら、酸素を求めて呼吸を繰り返す。


「今日はここまでにするか」


 倒れる俺の横でライラは夜の気配が迫る空を見上げながら、今日の特訓の終了を告げる。


「ま、分かってた事だが・・・・・全然ダメだな」


 容赦のない言葉に思わず顔をしかめる。

 昼過ぎから始めた『マナ感知』の訓練は想像を絶する訓練だった。

 目隠しをした状態でライラからの攻撃を避ける。

 言葉にすればそれだけだが、想像通り、いや、それ以上だった。

 最初の一発目はライラのお仕置き(恨み)で強烈なものを貰ったが、二発目以降は真面目に俺に合わせて威力弱め、速度遅めで攻撃をしてきてくれた。

 しかし、俺はことごとくその攻撃を受けてしまった。

 百発百中。

 文字通り、全ての攻撃を躱すことが出来ず、この身に受けてしまった。


「で?少しは何かつかめたのか?」


「・・・・・・何となくは、な」


「へぇ?そいつはどんなものだ?」


 ライラが攻撃してきた時、ある一定の距離に入ると、微弱だがマナが揺らぐ様な気配を漠然とだが感じた。

 それを説明するとライラは「なるほど・・・・」と言って何事かを考える。


「・・・・・それを感じたのに、どうしてアタシの攻撃を避けなかった?」


「避けなかったって言うか、避けられなかった」


「どうして?」


「避けようと思った時にはもう攻撃が当たってたんだよ」


 漠然とだがマナが揺らいでいるのは感じられた。けれど、感じた時にはライラの攻撃が当たっていて、避けるどころの話ではなかった。


「なるほど・・・・・・お前、どうして揺らぎを感じたのに避けられなかったか、分かるか?」


 そう問われて考えてみるが、思いつかない。

 知覚出来ても、避けようとしても俺の身体が付いていかないのか?とありそうな事を口にしたが、ライラは首を横に振る。


「違う。お前が避けられなかったのは、知覚範囲が狭いせいだ」


「知覚範囲が狭い?」


 そうだ、と言ってライラは歩き出し俺から少し離れたところで立ち止まる。

 何をするのかと疑問に思っていると、ライラは軽く走り出し、拳を振り抜いた。


「ライラ?」


「今のが、アタシがお前に対して今日やっていた攻撃だ。見ての通り、かなり手加減したから速さも力も全然だ」


 ライラが言った通り、恐らく子供でも目で追える程度のスピード、振り抜いた拳の速さも決して速くもなければ力も入っているようには見えない。

 つまり、俺はそんな攻撃も避けることが出来なかったっと言う事だ。


「マナの揺らぎを知覚出来たのに、加減した攻撃を避けることが出来なかった。じゃあ、一体どうしてか?答えは――――――」


 ライラは俺の目の前に拳を突きつける。


「お前はこの距離で、ようやくマナの揺らぎを知覚したんだ」


 目の前に突き出された拳と俺の顔の距離は、およそ五センチ。


「今のお前が知覚出来る揺らぎの範囲はこの距離。加減してるとは言え、この距離まで揺らぎを知覚出来てないのなら、当たって当然だ」


「・・・・・マジかよ」


 愕然とするしかなかった。

 揺らぎを知覚出来てもこんなの避けようがない。


「今日やったみたいな攻撃を避けようと思ったら、最低でもこの距離までには揺らぎを知覚しないと駄目だ」


 突きつけた拳を下ろし、少しだけ俺との距離を取る。

 その距離、約四十センチ。

 およそ一歩。ライラならそこから腕を伸ばせばギリギリ届くか届かないかと言う距離。


「この距離なら、身体を捻ればギリギリ避けられるだろう」


 たった一歩分の距離。

 けれど、俺にはその一歩がとてつもない距離に思えた。




        ♢      ♢      ♢   




 宿に戻ったころには陽が沈んで夜になっていた。


「はあ~・・・・・・疲れたぁ」


 安っぽいベッドの上に仰向けに寝転ぶ。


「一歩か・・・・・・」


 あの後、ライラにどうすれば知覚範囲を広げられるか聞いてみたが、『こればかりは訓練して広げていくしかない』との事だった。

 試しにライラはどれくらいの範囲を知覚出来るのか聞いてみたら大体二メートル範囲だ、と言われた。

 二メートル。丁度ゴブリンと戦った時に、ライラがとっていた距離ぐらいだった。

 まるで後ろにも目がある様に相手の動きに対応していたライラを思い出す。


「二メートル。その距離まで揺らぎを知覚出来れば、確かにライラのアノ動きも納得だ」


 それに比べて俺はたった五センチ。単位からして違う。始めたばかりとは言え、これは泣きたくなる。

 ライラもかなり訓練して今の範囲まで広げたと言っていたが、闘気法初心者とも言える俺の場合は、一体どれだけやればその域までいけるのだろうかと不安になる。


『なんだったらオレが力を貸してやろうか?』


 ボケっと天井を見上げながら考えに耽っていると、急に頭の中に声が聞こえてくる。


「チッ・・・・・オグマか」


 また面倒な奴が出てきやがって。


『いきなり舌打ちとは、失礼な奴だな』


「うるさい黙れ。こっちは疲れてんだよ」


『ハハッ、そう言うな。少しは付き合え』


 こいつ、この前の時から急に絡んできやがって・・・・・


『しかし、マナ感知も碌に出来ないとは・・・・・人間、と言うよりソウジが鈍感なだけか?ククッ」


「お前、喧嘩売ってるのか?」


『冗談だ、そんなに怒るなよ。まあ、実際初めてならそんなもんじゃないか?』


 何だよこいつ?喧嘩売ってきたと思えば、直ぐ引っ込めて。何がしたいんだよこの疫病神は。


『マナ感知はコツがいるからな。人間のお前が覚えるには時間が掛かるだろうよ』


 クソッ、言われなくても時間が掛かるのは分かってるよ!


「・・・・・・お前、人にあれこれ言うが、お前は出来るのかよ?」


『オレか?そんなものは当然できるに決まっているだろうが』


 何故だかドヤ顔を浮かべているようで若干イラっとくる。


「・・・・・・何処までの範囲、知覚出来るんだよ」


 何となく、そう何となく聞いてみると、オグマはあっさりと言った。


『そうだな・・・・・十メートルぐらいじゃないか?』


 十メートル!?


『まあ、本気を出せばもう少し範囲を広げることも出来るがな』


 ま、マジか・・・・・・


「へ、へぇ~結構やるじゃん」


 強がりを言ってみても、若干声が上ずってしまう。


『まあ、それくらいは当然だ』


(く、くそ~・・・・・・こいつ、一体どれだけの力を持ってんだよ)


 内心嫉妬(決して認めないが)に似た感情を持て余していると、オグマが不意に意外な言葉を言ってくる。


『お前なら、これくらいできる様になるだろう。まあ、精進する事だな』


「・・・・・・・」


 からかってきたと思ったら、今度は励ましてくる。いったい何がしたいんだよこいつは。


「・・・・・・オグマお前、一体何が目的なんだ?」


『あぁ?』


「お前は言ったよな?目的があるって。それは一体何なんだ?一体俺に何をさせようとしてるんだ?」


 前から疑問に思っていたことを質問する。するとオグマははぐらかす様に鼻で笑った。


『教えてもいいが、今言ったところでどうにもならん・・・・・まあ、あえて言うなら、決着をつけないとならない相手がいる、とだけ言っておくか』


「決着?誰かと勝負でもしてるのか?」


『そうじゃねぇ、奴は・・・・・いや、これ以上話しても意味はない、か』


「何だよそれ」


『とにかく、お前はもっと力をつけろ。それとオレにマナを寄こせ。差し当たって、あのライラとか言う小娘を抱け』


「またそれかよ・・・・・だから、そんなこと出来る訳ないだろうがっ!」


 思わせぶりな台詞を吐いたと思ったら直ぐこれだ。本当に何考えてんだこいつはッ!

 その後もオグマはくだらない事を言って俺に絡んでくる。眠気が襲ってくるまでそんな感じにオグマに付き合わされた。




        ♢       ♢       ♢   




 家に帰ったアタシはリビングにあるソファーに寝転がる。


「・・・・・・・・」


 ソファーに寝ころんだまま瞼を閉じてさっきまでの事を思い出す。


「あいつ、たった一日で揺らぎを知覚しやがった・・・・」


 通常、漂ってるマナを感じることが出来るまでにある程度の訓練がいる。マナの揺らぎを知覚するに更に時間と訓練が必要になる。それをたった一日で知覚してしまった。


(アタシでも五日は掛かったのに・・・・・・)


 アタシのこの『五日』と言う日数もかなり早い方だと言われたのに、だ。

 生物にはマナを感知する器官が存在する。『パス』と言われている器官だ。

 このパスの活性化でマナと、その揺らぎを感知する。

 だが、このパスは通常閉じていて、稼働していない状態だ。パスを活性化させることでパスは開き、マナを感知できるようになる。

 闘気法を使える時点で、このパスが開いている状態なのはいい。問題は揺らぎを感じることが出来るまでパスが成長しているか?と言う事だ。

 例えば、人間に翼が生えたとしよう。この状態をマナが感知できるようになった状態。そして、翼を動かすことがマナの揺らぎを感知する。

 問題なのがこの『翼を動かす』という部分。

 いきなり出てきた翼を動かしてみろと言われても、普通は出来ない。何故なら今まで動かしたことも無い器官を動かさなければならないからだ。

 生まれたての雛が直ぐに飛ぶことが出来ないのと一緒。翼はあっても、それを動かす為の時間と練習、そして成長の末、大空に飛び立つ。

 それを少しとは言え、アイツは一日で動かした。


「才能がある?・・・・・いや、いくら何でもそれだけで知覚できるものか?」


 もっと他の何かが原因か?

 もしかして、アイツが記憶が無いと偽っている部分に何か関係があるのか?


「・・・・・ああ~~!!わかんねぇ!!」


 考えてみるものの、頭を掻いて音を上げる。

 判断材料が足りなさ過ぎてこれ以上考えても仕方がない。


「それに何でアタシがアイツの事で悩まないといけないんだよ、クソッ!」


 馬鹿らしい、もう寝よう。

 ソファーから立ち上がって寝室がある二階に昇る。

 階段を昇って二階の廊下に足を踏みしめた時、ふと廊下の奥にある部屋の扉に目を向ける。

 その部屋は昼間、アイツがいきなり押し入ってきた部屋。

 その時アタシはあの部屋で―――――


「~~~~~~~っ!!!」


 思い出した途端、顔が熱くなる。


(見られた・・・・・思いっきり見られた・・・・・・アタシが、クロードのシャツで、シしてたとこっ!?)


 よりにもよってあの馬鹿に!いや、アイツ以外にも見られたら駄目なんだが!

 魔が差した、としか言えない。

 組合にアイツがいなかったからレミアここに来るように伝言した後、家にもどっでアイツが来るまで部屋の掃除がてら、クロードの私物の整理をしようと部屋を漁っていた時にクロードのシャツを見つけた。

 そこで何を思ったかアタシはあんなことをしてしまった。その結果が・・・・・・


「ぬおオォォォォォ!!!」


 後悔と羞恥で頭を抱えながら絶叫する。

 らしくない。本当にらしくないことをしてしまった。

 暫くアタシはその場で頭を抱えて悶える羽目になった。




        ♢      ♢       ♢   




 最初の訓練から二日たった。ライラの指導と努力の末、何とかライラが言っていた一歩分の距離、約四十センチまでなら揺らぎを感知できるようになった。

 それでも十発中二発は攻撃を貰ってしまうが、全ての攻撃を貰っていた最初に比べたら大きな成長ではないかと自画自賛したい。

 訓練ばかりでいいのか?とも思うが、残念なことにここ二日の間であった依頼はどれもパッとせず、割に合わない依頼ばかりだった。

 ライラ曰く「たまにこういった日が続く期間がある」らしい。

 まあ、毎日毎日大変な依頼ばかりならそれはそれで問題だからいいのかな?

 そんなこんなでここ二日はライラと共にマナ感知の訓練を続けていたわけだ。

 そして今日もその訓練をしに例の秘密の訓練場にライラと共に訪れていた。


「どうした!?さっきから受けてばかりだぞ!」


「っ!」


 肩に一撃を貰いよろめいた俺にライラから叱責の声が飛ぶ。

 今やっているのは最初と同じ。目隠しをした状態でライラからの攻撃をただひたすら避け続けること。

 ただし、最初と違うのはその攻撃。

 スピードも威力も一段上がった攻撃がライラから繰り出される。

 しかも一発ではない。連続で攻撃を繰り出してくるようになった。

 強化法で身体強化していない身で受ける攻撃は中々の威力で、一発一発はそこまでの脅威ではないが、それでも数をこなせば御覧の通り、体中悲鳴を上げるレベルだ。


「もう一度いくぞ!」


「お、おう!」


 再び距離を取ったライラがまた攻撃を仕掛けてくる。


(来る!)


 感覚を研ぎ澄まし、ライラの攻撃が俺の感知できる範囲に入った瞬間、上体を捻る。が―――――


「っ!」


 頬に鋭い痛みが走る。

 躱すことは出来たが、完全ではなく頬に掠った。その掠った頬がジンジンと痛みを訴える。


「反応が遅い!もっと意識を集中させろ!次は顔面を殴り飛ばすぞ!」


「お、おう!」


 こんなことを朝からもう何度も続けていた。

 初日よりもスパルタになったライラの訓練に悲鳴を上げながら、それでも諦めることなくやり続ける。

 それはひとえに、目的の為。

 大金を稼ぐために依頼を受ける。しかし稼ぎの良い依頼はそれだけ達成難易度も跳ね上がる。

 今の俺ではライラの足を引っ張り、邪魔をしてしまう。それでは駄目だ。


(少しでも強くなって依頼をこなして金を手に入れないと!)


 まだまだ足りない。金も、力も!

 それからしばらく訓練が続き、連続で繰り出されるライラの攻撃をようやく避けられるようになってきた時、ライラは何を思ったのか、今まで拳と蹴りだけの攻撃に加えて、お得意の大剣を使い始めた。


「くっ!」


 拳や蹴りとは違う、重圧な斬撃が織り込まれることで、攻撃パターンが複雑になる。

 拳と蹴りはいい。しかし、大剣での攻撃はハッキリ言って洒落にならん。こちらは強化法を使っていないおかげで、当たれば相当のダメージを覚悟しなければならない。

 恐怖と緊張で身を強張らせながらもなんとか攻撃を避ける。時に一歩引き、時に前に出て、時に転がる様にしながら攻撃を避け続ける。

 何度か大剣の斬撃が当たりそうになる度に冷や汗を流しながら避けていると、不意にライラの攻撃の手が止まった。


「ん?どうした?」


 攻撃を止めたライラに首を傾げる。


「お前、大剣の攻撃が分かるのか?」


「え?いや、分かるって言うか、拳や蹴りに比べて何て言うか・・・・・・そう、揺らぎ方が違うって言うか・・・・・」


 感覚的な話だが、拳や蹴りの時よりも違う揺らぎ方が混じってる。

 その違う揺らぎを避けた時、耳にブオンッ!と斬撃が通り過ぎる風切り音が耳を掠めたのだ。

 だから、この揺らぎ方は大剣での攻撃なのだと思い、その攻撃だけは当たりたくないと必死に避けたのだ。


「なるほど、いい傾向だ」


 一通り説明すると、ライラにしては珍しい、褒めるようなセリフが口から出た。


「お前が感じたように、攻撃の種類、その攻撃に込めるマナの量なんかで揺らぎ方が変わる。簡単に言っちまえば、揺らぎ方が大きいとそれだけヤバい攻撃が来るって事だ」


「なるほどな」


 大雑把な説明だが分かりやすい。

 実際大剣での攻撃はマナの揺らぎ方が大きいように思えた。だから拳や蹴りとは違う揺らぎを感じ取れたのだ。


「そこまで感知できるようになってきたってことは・・・・・・試してみるか」


「試す?」


 ライラの言葉に、何か嫌な予感を感じつつ聞き返すと、ライラはとんでもない事を言い始めた。


「今から裂空斬を使う・・・・・・避けろ」


「はあ!?」


 目隠しをして視界が効かない中、俺の耳にとんでもない台詞が鼓膜を震わす。

 唐突なライラの宣言に狼狽するも、ライラはなんら構うことなく手にした大剣に闘気を纏い始める。


「ち、ちょっと待てッ!いきなり何するんだよッ!!」


 俺の静止の声を無視して大剣に注がれる闘気が増していく。


「いいから避けろ。でないと・・・・・死ぬぞ?」


「ちょっ!?」


「ハァ!!」


 裂帛の気合と共にライラはお得意の裂空斬を放つ。

 放たれた斬撃は容赦なく俺目掛けて空気を裂きながら迫ってくる。


「くっ!」


 ここ最近の訓練のおかげか、反射的に意識を集中させる。すると、目が見えない暗闇の中、迫りくる斬撃がある一定の領域に入るのを知覚した。


「っ!!」


 間に合うかどうかなんて考えている暇はなかった。

 俺は全力で真横に飛ばす。


「おわっ!!」


「「!!」」


 俺やライラの声じゃない。別の誰かの声が聞こえたのはその時だった。

 その直後――――――

 ズドンッ!

 背後から地面が爆発したようなけたたましい音が辺りを包んだ。


「ハァ、ハァ・・・・・」


 何も考えずに避けたせいで、無様に地面に転がり、そのせいか、視界を封じていた目隠しが取れてしまった。

 顔を背後に向けると、開けた視界に木々の一部を薙ぎ倒した跡があった。


「今の声・・・・・・」


 確かに避けた瞬間、俺やライラとは別の誰かの声が聞こえた。


「チッ!やっちまったか?」


 そうこうしていると直ぐ傍に若干焦った顔をしたライラが立っていた。

 俺は地面から立ち上がり、ライラと共に未だ土煙を上げている場所に視線を向ける、と―――――――


「ゲホっ!ゲホっ!」


 土煙を吸い込んでしまったのか、咽た声が土煙の中から聞こえてきた。どうやらそこに居た誰かは無事らしい。

 無事な事にホッと息をつくと、土煙の中からその人物が姿を現せた。


「ゲホッ!・・・・・・あ~くそ、いきなり何だってんだよ」


「ベヤドル?」


 姿を現したのは、咳き込みながら悪態をつくベヤドルだった。


「おお、ソウジ、ライラ。こんなところで何やってんだ?ごほっ」


「何だ、お前かよ」


 出てきたのがベヤドルだと分かると、ライラは安堵の息を吐いた。


「・・・・・お前、人様にあんなもん食らわせておいて酷くないか?」


「お前だったら当たっても死にはしないだろ?」


「そう言う問題じゃねぇよ!!・・・・・それで?お前たちはこんな所で何やってたんだ?」


 ライラの辛辣なコメントにツッコミを入れつつベヤドルは気を取り直して問いかける。


「特訓だよ。マナ感知の」


 俺が答えると、ベヤドルは「ああ、なるほど」と納得した。


「それにしても、いきなり裂空斬とか・・・・・・鬼か?」


「うるせぇ、人の教育方針に口出しするな・・・・・それで?お前こそこんなところで何やってんだよ?」


「俺か?俺は訓練ついでに薬草なんかの採取だ。ちょうどクランで管理してる在庫が底をつきそうだったから」


 そう言って背中に担いでいた麻袋を示す。


「金には困ってないだろ?買えよ」


「言ったろ?訓練のついでだって。それに節約できるならした方が良いだろ?」


「あっそ」


「聞いといてその反応はどうかと思うぞ?」


 ライラの薄いリアクションに肩を落とすも、慣れているのか、直ぐに気を取り直す。


「しかし、ここでソウジに会えたのは手間が省けたな」


「ん?俺?俺に何か用か?」


 首を傾げる俺に、ベヤドルは俺が待っていた言葉を口にする。


「お前から頼まれていた件。色々分かったぜ」

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