第5話 ペア

 ライラとの勝負を終えて翌日の朝、俺は組合の二階にある宿泊施設として利用されている一室で目を覚ます。


「・・・・・・よし、問題ないな」


 ベッドから起き上がって昨日受けた傷の具合などを確認する為、身体を軽く動かしてみる。


「回復魔術ってのも凄いもんだな」


 昨日ここに運ばれた時に回復魔法なるもので傷をある程度癒してもらい、以降も組合所属の魔術師に何度かお世話になった。

 おかげで少し筋肉が引きつる様な違和感が残っているものの、身体を動かすには支障はない。

 粗方確認を終えた俺は着替えを済ませて、オベールさんの執務室に向かう。

 執務室を訪れると、すでにオベールさんは執務机で書類と格闘している最中だった。


「おお、ソウジ君。もういいのかい?」


 書類から顔を上げてこちらに気遣いの言葉をくれる。


「はい、お陰様でこの通りです」


 軽く腕を回してみて問題ない事をアピール。


「そうか、それは良かった。それで、今日はどうするんだい?」


「とりあえず、一度なにか依頼を受けてみようかと」


 目的は勿論資金集め。それと一連の依頼のやり取りなども実際に経験しておきたいと言う思惑もある。


「なるほど。なら、受付に行ってレミア君に相談してみるといい。彼女なら君に適した依頼を紹介してくれるはずだ」


「はい」


 オベールさんに言われるがまま、執務室を後にした俺は、その足で一階にある受付に足を向ける。


「凄い人だな~」


 一階に降り降りると、組合には既に大勢のハンターが受付に押し寄せ、組合員がその対応に追われている姿が目に入る。

 どうやら、朝の早い時間から依頼を求めて組合にハンター達が押し寄せてきているみたいだ。


「これじゃ、当分は受付に辿り着けないな」


 幾つかある受付には列が成され、それを組合員が捌いている状態だ。その中にはレミアさんの姿も見える。大変にあわただしい状況の様だ。


「・・・・・・少し間を置いた方が良いな」


 別に急いでいるわけでもないし、落ち着くまで少し待たせてもらおう。

 組合内には待機所になっているスペースがあり、そこには長椅子が設置されている。俺はその一つに腰かけて受付に群がるハンターをボケっと眺めながら待つことに。


「こうしてみると、皆凄い装備だな」


 剣は勿論、槍や弓、果ては大槌なんかを持ったハンター達がひっきりなしに組合の出入り口を行きかう。

 その中には武器だけでなく防具を立派なもので身を固めたハンターの姿もチラホラ。全身鋼の鎧で身を固める人もいれば、どこぞの映画に出てくるような魔法使いの様なローブを着込んだ人もいる。

 その中には変わり種もいて、本当にそれで大丈夫なのか?と尋ねたくなるような装備の人もいる。例えば某ゲームに登場する踊り子の様な衣装を身に着けた女性とか、もう色々と危ない感じだ。主に肌面積な意味で。

 そんな際どい衣装でこれから依頼をこなすとか、中々の強者である。もし戦闘となったら一体どうなってしまうのか、ちょっと見て見たい男心。


(もしかして、ビキニアーマーも存在しているのだろうか?)


 そう思ったら自然と視線は行きかうハンター達の姿を追ってしまう・・・・・・・・別に邪な意味ではない。ただ、オタクとして本当にビキニアーマーが実在するのか気になっただけだ。

 そうして視線をあっちに行ったりこっちに行ったりしていると、不意にある集団の中にいる一人、白いローブを身に纏った女の子を発見する。

 その女の子はこちらの存在に気付いたのか、俺が座っている長椅子のとこまで歩いてくると、俺の前でお辞儀をする。お辞儀をする際に長い緑色の髪がさらさらと動きに合わさて流れる。


「どうも、ソウジさん。もう大丈夫なんですね?よかったです」


 そう言ってにこりと笑る女の子は、昨日俺の怪我を治療してくれた魔術師の女の子だ。名前はファム。今年で十七になるそうだ。


「ファムのおかげで、この通り。ありがとな」


「いえ、困った時はお互い様ですよ」


 ファムは回復魔術、支援魔術が得意らしく、昨日たまたま組合を訪れていたところに、オベールさんに担がれた俺が組合に担ぎ込まれた。

 傷を負った俺を見て自分にできることがあれば手伝うと言って治療を買って出てくれた、心根の優しい女の子だ。

 治療を終えた後も、ファムはちょくちょく様子を見に部屋を訪れてくれた。そう言った経緯も手伝い、色々と会話をする機会に恵まれた。


「それにしても、ファムは凄いな。あんな魔術が使えるなんて」


「い、いえ!そんな、大したことないですよ!」


 俺が褒めると、ファムは顔を赤くして持っている長杖をもじもじとさせながら照れる。その姿がどうにも可愛くて、思わず笑ってしまう。

 そうこうしていると、ファムがいた集団から一人の男性がこちらにやってきて声を掛ける。


「ファム、そろそろ出発するぞ」


「あ、兄さん」


 声を掛けてきたのはどうやらファムの兄らしい。背は俺と同じぐらいでファムと同じ緑の髪を後ろに撫でつけており、顔立ちと合って男らしさがある。

 軽鎧の隙間から覗く肉体を見る限り中々鍛え上げられているのではなかろうか。そして一際目立つのが彼が持つ武器。

 槍と斧を組み合わせたような武器。確かこれは、ハルバードって武器だったか?

 ノザル村で武器選びをしたときに一度触ったことがある。長さが二メートルはあり、重さもそこそこある。特徴的なのがその穂先。

 槍の様に先端は尖っているが、その下辺りが斧の様な形状の刃がある。しかも片側が斧、もう片側は鉤爪のようになっている。

 突いてよし、切ってよし、引っかけてよし、と用途に合わせた使い方が出来、それだけで取れる戦術も増えていく武器だ。

 俺が使った時はその長さと重さに振り回されて無様を晒したが、彼はそれを軽々と担いでいる。立ち振る舞いから見ても、相当使い込んでいる様に窺える。


「ん?もしかして、そいつが昨日言っていた奴か?」


「そうだよ。こちらはソウジさん。つい最近組合に登録したばかりみたいだよ」


「そうか。どうりで見ない顔だと思ったよ」


 そう言えば、ファムが言っていたな。何でも依頼でここ最近街を離れていたと。戻ったのもつい昨日の事だとか。


「俺はファムの兄で、ベヤドルと言う。よろしくなソウジ」


 ベヤドルからスッと手を差し伸べられる。これを俺は握り返して応える。


「こちらこそ」


「ところで・・・・・」


「ん?」


 一歩、ベヤドルが足を踏み出し近づく。


「・・・・・・妹に、手を出したりしていないよな?」


「え?」


 あ、あの・・・・・・目が怖いんスけど。


「治療の為とはいえ、男の泊まる部屋に何度も訊ねたそうじゃないか?」


 いや、何度もって、その言い方だと頻繁に出入りしてたみたいじゃないか。ファムが出入りしたのはせいぜい二、三回だ。


「ファムも良い年ごろの女だ。兄の俺から見てもそこいらの女に負けない容姿を持っていると思っている。加えて性格も良い。そんな出来た妹が見ず知らずの男の部屋に行っていたと言うじゃないか。兄として心配するのは当然だと思わないか?」


「そ、そうだな。俺もそう思うよ。それよりも、手が痛いからそろそろ離しイダダダダダッ!!」


 グリグリされてる!握りながら更にグリグリされてる!潰れる、潰れるから!


「もう一度聞くが、本当に妹に手を出していないよな?」


 ギュッ!


「ちょっ、おまっ!マジで潰れる!してない!何もしてないからっ!!」


「ちょ、ちょっと兄さんっ!」


 ファムが俺の叫びに反応して、慌てて俺達の間に割って入る。


「兄さん、いい加減にして!私だっていつもまで子供じゃないんだよっ!」


「あ、いや・・・・・その、すまん、つい」


 妹の怒りにお兄ちゃん、即敗北。


「すみませんすみませんっ!本当にすみません!!」


 くるりと身体を俺の方に向けてファムはペコペコ謝る。


「い、いや大丈夫だから」


「本当にすみません。うちの兄は少し過保護で」


 少しか?何か妹の為なら魔王も倒しかねない凄さが滲み出ていたぞ。


「ソウジ、悪かったな。その、妹の事になるとつい熱くなっちまって」


「いいよ。兄が妹の事を大切に思うのは当然の事だし」


「ソウジ・・・・・・」


 俺もこんな可愛い妹が居たら溺愛すること間違いなしだからな。

 と、そんなやり取りをしていると・・・・・・


「何だ、もう起き上がってきたのか」


 声を掛けられた方に顔を向けると、そこにはライラの姿があった。


「よお、ライラじゃないか」


「何だベヤドル、戻ってたのか」


 ライラはこちらに歩み寄りながらベヤドルと親しそうに話す。


「つい昨日戻ってきた・・・・・・・それより、聞いたぜ?クロード、逝っちまったみたいだな」


「ああ・・・・・」


 クロードの名を出した途端、ファムの表情が歪む。それはベヤドルも一緒だった。


「アイツには、もっと色々な事を教わりたかったのにな・・・・・・残念だ」


「はい、本当に残念です」


 ここに初めて来たときにも思ったが、クロードは本当にみんなから慕われていたのだと、この二人を見ていると実感してくる。それほどに二人の表情はとてもつらそうな顔をしているのだ。


「・・・・・こんな仕事してんだ、何時かはどっかでくたばってたさ。遅いか早いかの違いでな。アタシらだって例外じゃねぇんだ」


「・・・・・・そうだな、その通りだ」


 ライラの奴、昨日とどこか雰囲気が違うような・・・・・・昨日の姿を見ているだけにその違和感が謙虚に映る。


「しかし、何時までも悲しんでいられないな。クロードがいない分、俺達が組合を盛り上げていかないとな!」


 先程の悲し気な表情から一変、笑顔で拳を握る。


「相変わらず暑苦しい奴だな」


「何言ってんだ。クロードが居ないってことは、その分依頼がこっちにも回ってくるってことだ。気持ちを盛り上げていかないとやってられないだろ?」


「あ~はいはい、分かった分かった」


 ライラは鬱陶しそうに応える。


「まあ、暇があったらアイツの墓にでも顔を出してやってくれ。詳しい場所はそいつが知ってる」


 そう言って視線で俺を示す。それに釣られて二人も俺に目を向ける。


「ソウジが?」


「ああ、クロードの事をここまで伝えに来たのはこいつだからな」


「ってこと、オベールの旦那が言ってたクロードの紹介で組合入りしたって言う新人はソウジの事だったのか?」


「まあ、そう言う事だ」


「そうか!クロードの奴、指導官の仕事をやってる姿何て滅多に見なかったが、そうかそうか、こりゃあ期待の新人だな!」


「いや、そこまで持ち上げられても・・・・・・」


 他所から声が上がったのはそんな時だった。


「いつまでやってるの?そろそろ向か合わないと先方を待たせることになるわよ?」


 ベヤドル達がいた集団から、槍を片手に携えた騎士然とした女性がこちらに声を掛けてきた。


「ああ、そうだな。ファム行くぞ」


「はい」


 集団の手や背には荷物があり、今から仕事に向かうらしい。

 女騎士に促されるままベヤドルはファムを伴い、待っている集団に向けて歩いて行く。と、その途中でベヤドルは立ち止まり、こちらに振り返る。


「ソウジ、もし何か分からない事、困った事があれば言いな。その時は少しだが、力になってやるよ」


「ああ、その時はよろしく」


「おう!」


 そう言ってベヤドル達は組合から出て行った。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 後に残されたのは、昨日のあれこれで気まずい空気になっている俺とライラだけとなった。

 気まずい空気の中、さて、この状況をどうしたものかと悩んでいると、先に声を上げたのはライラからだった。


「・・・・・・お前はこれからどうするんだ?」


「俺はこれから何か依頼でも受けてみようかって思ってる。レミアさんと相談して、初心者でもできそうな依頼を探そうかって」

 ライラに問われるまま、これに素直に答えると、ライラは「そうか・・・・・」と呟いて何やら思案し始める。

 しばらくすると、ライラは何か意を決したような眼で口を開く。


「付いてこい」


「え?」


「いいから来いッ!」


「ちょっ、おいっ!」


 腕を掴まれて強引に引っ張られる。

 ベヤドル達と話していた間に人は大分捌けて、疎らに人がチラホラといる限り。

 そんな中を一直線に俺の腕を引っ張りながら受付へとズンズン歩いて行く。

 丁度レミアさんが対応していたハンターが退いたタイミングでライラと俺は受付に辿り着く。


「次の方・・・・・ってライラちゃんにソウジさん?」


 事務的に次の人間を処理していこうと声を上げかけたレミアさんの口上は疑問へと変わる。

 それはそうだ。昨日のアレコレを見聞きしていたら、この組み合わせがどれだけ不自然に映っているのか想像に難くない。

 しかし、そんなレミアさんの反応にもなんら気にすることなく、ライラは口を開く。


「レミア、依頼はあるか?アタシとこいつ、二人で出来そうなやつだ」


「「え?」」


 ライラの言葉に俺とレミアさんは同時に固まって、思わずライラを凝視する・・・・・・今、何て言った?


「・・・・・・なんだよ?」


 俺達の視線を受けて、ライラは不満顔。


「え?二人でって・・・・・・・」


「だから、依頼をこいつと受けるって言ってんだよ」


「「・・・・・・・・」」


 こいつ、一体どうしたんだ?昨日の事から考えたら、この変化はおかしい。たった一晩で一体どういった心境の変化があったんだ?

 チラリとレミアさんを窺うと、同じことを考えているのか、ライラのこの言動に混乱しているようだ。


「な、なんだよ、何かおかしいかッ!?」


「え?いや、そんなことありませんよっ!ちょっと待ってください、直ぐに用意しますっ!」


 二人揃ってライラを凝視していたものだから、ついにライラがキレた。それに対して慌てた様子でレイラさんが奥に駆け足で引っ込んでいった。


「ったく、なんだよ」


 レイラさんの駆け出していく後姿を見送りながら仏頂面で愚痴る。その姿を俺はまじまじと見てしまう。

 すると、その視線に気づいた仏頂面のライラと目が合う。


「・・・・・・なんだよ、文句があるのか?」


「い、いや、無いけど・・・・・・」


 目が怖い。町のチンピラも裸足で逃げ出すぞ。


「ないけど、何だよ?」


 どうしよう・・・・・・ライラが何を考えてるのかわからん。

 返事を出しそびれていると、ライラの方から口を開いた。


「アタシが昨日と真逆の事を言い始めてるのが気色悪いんだろ?」


 その通りです。


「・・・・・・・あれから色々考えた。オベールのオッサンに言われたこと、お前の事・・・・・・クロードの事」


「・・・・・・・」


「オッサンの言ってたことは正しいよ。アタシは子供だ・・・・・けど、何時までも子供でいるつもりなんてねぇ」


「ライラ・・・・・・」


「クロードに、情けない姿なんて見せられないからな・・・・・・」


「そっか・・・・・」


 何か切っ掛けがあったのだろう。そうでなくても、ライラはきっと、本当に色々考えたんだろう。考えて自分なりの答えを出したんだろう。

 それが良い事か悪い事なのかは、俺には分からない。けれどライラの瞳には、決意の光が灯っているように見えた。


「けど・・・・・・・」


「ん?」


「アタシはまだ、お前を認めてないからな?そこんとこ勘違いすんなよ?」


 ライラの吊り目がちな目が、殊更に吊り上がって睨まれる。


「こ、こいつ・・・・・・」


 ・・・・・・・・せっかくいい話ぽかったのに、これじゃ台無しだよ。




         ♢         ♢         ♢       




「ライラちゃんが一緒なら、D+の依頼も出来ますから・・・・・・これに、後こちらもいかがですか?」


「そうだな・・・・・・」


 しばらくして、いくつかの依頼内容が書かれた書類を持ってカウンターに戻ってきたレイラさんを交え、三人でどの依頼を受けるのかで相談が始まった。

 レイラさんが持ってきてくれた依頼内容は色々。何とかと言う薬草の採取だとか、どこそこの村からこの街までの護衛任務だとか、変わり種なんかだと、飲食店の手伝いなど、バイトの様なものまである。


「結構色々あるんですね」


「この街もそれなりの規模がありますからね。近隣にはこの規模程の街は無いので、自然とこちらに依頼が回ってくるんですよ。加えて、この街は都に通じる道の只中にあるので、その影響もあります」


 なるほど。都に通じている都合上、商人や旅人なんかも自然とここを行き来する。この街がこれだけの規模を誇っているのはそう言った背景もあるのだろう。

 人や物が集まればそれだけトラブルの数も増える。この依頼の数も納得がいく。


「けど、どれを選べばいいか・・・・・」


「これはどうですか?この街から比較的近い別の街までの護衛依頼なんですが」


 レイラさんから手渡せれた書類に目を通してみると、この街から商談を終えた商人の護衛、荷物の輸送と言った内容が書かれていた。


「この依頼は他にも参加されるハンターの方がいます。ソウジさんとライラちゃんを含めれば六人。人数が多ければ、それだけ安全性も上がります。移動ルートも比較的安全な街道になりますから、危険性もそれほど高くありません」


「他のハンターもいれば、確かに楽できそうだな」


 移動ルートも安全って言ってるし、それに人数もいる。この世界の危険がどのレベルを指しているのか未だに曖昧の時分、それでも練達者がいてくれるのなら大丈夫なのではないのか?

 まあ、油断していると痛い目を見るのは、ここに来る途中に遭遇したあの狼モドキの魔物で理解したし、余り楽観するのも良くないか。


「そいつはダメだ」


 何はともあれ、まずは相方にも相談してから決めないとな。そう思ってライラにお伺いを立てようと思ったら、先にライラから却下された。


「どうしてだ?」


「よく見ろ」


 そう言ってライラが指さしたのは依頼が書かれた書面のある一部、依頼の達成報酬について書かれた箇所。

 そこには成功した暁には、銀貨二枚と銅貨五枚と書かれている。


「これがどうしたんだ?」


「馬鹿かお前は?・・・・・・レイラ、この依頼にかかる推定日数はどれぐらいだ?」


「この街からだと片道四日ぐらいは掛かるかな?現地で積み荷の受け渡し作業とかも入れたら・・・・・帰ってこれるのは十日ぐらいは見ておいた方がいいかな?」


 え?そんなにかかるの?


「で、お前が金を稼ぐ目的は?」


 奴隷を買う事。推定額、金貨三枚。

 銀貨百枚で金貨一枚、銅貨十枚で銀貨一枚に交換できると、以前教会で教わった。

 提示された依頼の達成報酬、銀貨二枚と銅貨五枚。加えて依頼期間、約十日。

 これを総合して考えると・・・・・・・・・


「・・・・・割に合わんな」


「そう言う事だ」


 そうか、車や電車なんてないのだから、当然移動時間数日何て当たり前。更に言うなら目的地までにかかる費用諸々も計算すると結構な出費にもなる。

 何度もやればいずれは目標金額まで行くかもしれないが、余りにも時間が掛かる。それでは意味がない。

 何せいつ買われていくかも分からない状況の中、それは悪手だ。

 ・・・・・ああ、ダメだな。未だに前世の考えや習慣がこびり付いているおかげで、そう言ったことに気が回らなかった。

 しかし、それならどう言った依頼が正解なのか皆目見当もつかない。

 そんな感じで一人悩んでいると、ライラが一枚の紙を拾い上げる。


「・・・・・・・これが良さそうだな」


「ん?」


「ほら」


 ライラが差し出した書類を手に取り、内容に目を通す。


「・・・・・・・・ゴブリン討伐?」


 書面には、この街から近い村に出没したゴブリンの群れを討伐してほしいとの旨が書かれていた。

 達成報酬を確認すると、銀貨六枚と書かれている。先程の護衛依頼の倍近い額だ。


「この村ならアタシも知ってる。ここからならそう遠くない。二、三日あれば帰ってこれる」


 それでこの額なら上等だ。


「いいじゃないか!これにしよう!!」


「え?ゴブリン退治ですよ?初めての依頼でいきなり魔物討伐関連の依頼は、流石に早すぎるかと・・・・・・仕事の流れを覚えると言う意味なら別の依頼の方が・・・・・」


「そこら辺の問題はアタシが面倒見てやる。その為に一緒に依頼を受けるんだからな」


「んん~・・・・・・・ライラちゃんが一緒なら、滅多なことは起きないだろうし・・・・・・・分かりまし。依頼を受理します」


 しばらくあれこれと悩んだレイラさんは、最終的にGOサインを出してくれた。

 どうやらライラが一緒、と言う部分が決定打になったみたいだ。

 つまりは、俺一人なら認めてくれなかったと言う事でもあるので、そこは若干悔しくもあるが、今は贅沢は言ってられない。


「よし、決まりだな。じゃあ、アタシは準備してくるから、一刻ほど後に街の西門に集合だ。いいな?」


「ああ、分かった」


 これで俺がハンターになって初めての依頼が決まった。

 初の依頼は、その手のファンタジー世界での定番、ゴブリン退治だ。

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