幕間 01
フィスタル歴百五十九年。
「はぁ、はぁっ!!」
アタシは街の中を人混みをかき分けながら走っていた。
「待ちやがれ、このクソガキッ!!」
後ろから男の怒声が響く。
「盗んだ物を返せっ!」
(誰が返すかっ!)
両腕に抱えた果物や野菜を落とさない様に強く抱え込み、アタシは人の間を縫うように駆ける。
向かう先に路地を見つけ、そこに飛び込むように入っていく。
路地に入っていくと、薄汚れた道の先にいくつかの枝分かれした道がある。
アタシはそれを出鱈目に走り抜けた。
途中で躓き転び、盗んできた物が薄汚い地面に転がる。泥水が跳ねて服を汚すが、元々ボロ布の様なものだ、今更汚れたところで気にするほどじゃない。
急いで落とした物を拾い上げて再び走り出す。いくつかの通路を通り、階段を上り、物陰に身を潜めてまた走り出す。
やがて、後ろから聞こえていた怒声も聞こえなくなり、辺りはアタシが吐く乱れた呼吸音以外聞こえなくなっていた。
(・・・・・・逃げ切れ、た)
全力で走った疲れか、はたまた逃げ切れたことへの安堵か、アタシはその場に座り込んでいた。
「はぁ、はぁ」
盗んだ物を抱えながら息を整えていると、通路の脇から声が響いた。
「よぉ、ライラじゃねぇか」
「っ!」
その声に反応して見ると、そこにはアタシに負けす劣らず、ボロボロの服を着たガラの悪い人相の二人の男が、ニヤニヤと笑いながら立っていた。
「おっ、いいもん持ってんじゃん」
二人は内の一人、顔に火傷の後は着いた男が、アタシが抱えている物を見て声を上げる。
「!」
反射的に隠すように抱え込むが、意味などない。
近づいてきたもう一人の男がアタシに近づいて髪を鷲掴みにする。
「いっ!」
「そいつを渡せ」
「い、いや・・・・・・だ」
目線を合わせる様にしゃがみこんだ男は、アタシの顔を覗きこむようにその濁った眼を向けてきた。
「・・・・・言う事がきけねぇのかよ?」
「い、嫌だ・・・・・・」
正直、怖い。アタシとこの男では歳も勿論、体格だって違う。拒めばどうなるのかも、想像できる。
それでも、これは渡せない。これを渡せばアタシは、もっと・・・・・・・
「渡せって・・・・・言ってんだよッ!」
ガツンッ!
「あッ!!」
男の振り上げた拳がアタシの頬を殴る。殴られた勢いで薄汚い地面に転がる。それでも抱えた物は離さなかった。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、クソガキがっ!」
ガンッ!
「ごふッ!」
倒れたアタシに男は容赦なく腹部に蹴りを入れる。
「おいッ!こいつの持ってるもん、無理やりにでも奪い取れッ!!」
その言葉を受けてもう一人の男もこっちに来てアタシの腕を掴む。
「おらっ!そいつを離せっ!」
「い、いや・・・・・・・・」
腕を引っ張られようが、アタシは決して離さない。これを持って帰れなかったらアタシは・・・・・
「この、ガキがッ!!」
パンッ!
「いっ!」
今度は殴られた場所の逆の頬を平手で強く叩かれる。
「いい加減大人しくしろっ!」
男二人がアタシを取り囲んで拳や足を振るう。
バキッ!ガンッ!ゴンッ!
「いっ・・・・・あぐっ・・・・・・いぎっ!」
蹴られ、殴られ、踏みつけられ、二人の男は暴威を振るった。
やがて――――――
「ったく、手こずらせんじゃねぇよ。ペッ!」
びちゃ!
体中をボロボロにして倒れるアタシの顔に唾を吐き捨てて男達は去って行った。
その手にアタシが盗んできた物を手に。
「・・・・・・・・・・」
上手く力の入らない身体をなんとか起こす。
「・・・・・・・・・・」
辺りを見れば一つだけ、盗んだリンゴが物陰に転がっているのを見つけた。
「・・・・・・・・・・」
ヨロヨロと覚束ない足取りで物陰まで歩き、落ちていたリンゴを拾う。
「・・・・・・・・・・ちく、しょう」
ボロボロの身体を引きずる様に、アタシは歩き出す。
たった一つのリンゴを手に、アタシの家へ。
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