エピローグ

「げっ」


 飯屋を探して数分後、上京したての田舎者よろしく、街をきょろきょろしながら歩いていると、ライラと遭遇してしまった。


「・・・・・会って早々『げっ』てのは、失礼じゃないか?」


「うるさい黙れ喋るな空気が汚れる」


 うわぁ~・・・・・いきなりの罵倒のラッシュかよ。どんだけ嫌われてるんだ俺。

 流石にそこまで言われると凹むぞ。泣いちゃうぞ。


「・・・・・・お前はこんなとこで何してんだよ?確か登録票を受け取りに行くはずだろ?」


 出会いがしらの罵倒に意気消沈しているとライラからお声が掛かった。

 なんだ、ツンデレか?ツン百パーセントにしか見えないけど。


「登録票はもう受け取った。今は飯がまだだから、散策ついでに飯屋を探してる最中だ」


「ふ~ん、そうか・・・・・・」


「何だよ?」


「別に・・・・・・・飯屋を探してんなら、案内してやるよ」


「え?」


 やっぱりツンデレ?俺に惚れた?


「アタシも今から飯にするとこだし、ついでだ・・・・・・・その代わり、クロードの話を聞かせろ」


 あぁ、なるほど。クロードの事が聞きたいのね。


「分かった。それでいいなら案内してくれ」


「いいぜ、付いてきな」


 そう言って踵を返して歩き始めるライラ。その後に続いて俺も後を追うように歩き出す。

 歩き出して数分―――――


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


 無言。ひたすら無言。

 お互いどこかギクシャクした感じが何とも言えない空気を作り出している。

 まあ、昨日の今日でいきなり仲良くなれるとは思ってはいないが、もう少し何とかしたいと考える今日この頃。

 なので、こちらからアクションを仕掛けてみたり。


「この街って結構にぎわってるよな」


 などと、街をキョロキョロしながら話題提供。


「どこの街も似たようなもんだ」


「あ、そう・・・・・」


 話題終了。

 実はこんな感じのやり取りが先程から続いていたりする。

 何を言っても「そうだな」とか「ああ」で終わってしまう。

 私はお前と慣れ合う気はサラサラないと全身でアピールしてる感じ。

 クロードの話を聞くと言う目的が無ければ店に案内などしないと容易に想像がつく。


(ハァ・・・・・ライラに認めてもらうって無理ゲーなんじゃないか?)


 心の中でため息を吐いていると、ライラの足は通りから外れ、脇道へと入っていった。

 それに続いて入ると、通りの賑やかな声が急に遠く感じるような錯覚に襲われた。

 原因は脇道の汚さだ。陽の光が入ってこないからジメジメとした空気が漂い、なおかつそこら辺にゴミなどが散乱している。

 何処かアウトローな雰囲気が漂う道をライラはスタスタと歩いて行く。

 その背中に俺は言葉を投げる。


「なぁ、こんなところを通った先にあるのか?」


 するとライラは歩みを止めないままこれに応える。


「店はさっきの通りの二つ向かい側の大通りにある。こっちから行った方が近いんだよ」


「なるほど」


 しかし、近道でこんなところを通るとは。しかも目つきの悪い人もチラホラ見えるんですけど・・・・・・

 暫くそんな道を歩いていると、足が進む先に少し広めの広場のような場所が見えてきた。

 その広場に足を踏み入れると、目の前にはテントの群れ。そして、そのテントに出入りする人、人、人。


「ここは・・・・・・」


 なんだ?とライラに尋ねようとしたその時―――――




「止めてっ!離してっ!!」




 女の悲鳴が耳に届いた。

 そちらを見ると幾つかの馬車があり、その荷台からボロボロの服を着た人達が、強面な男達に引き立てられて荷台から降ろされていた。

 ボロボロの服を着た人達は、皆死んだような昏い目をしており、その手首には拘束具によって自由を奪われている。

 声が聞こえたのはその中の一人、屈強な男に拘束具から延びる鎖を引っ張られてよろめく女から上がった声の様だ。


「いいからこっちに来いっ!!」


「キャッ!」


 バタッ!と男に強く鎖を引かれてその場に倒れこむ。


「な、なんで・・・・どうして・・・・うっ・・・うぅぅ」


 倒れながら嗚咽を漏らしながら顔を涙でくしゃくしゃにする。


「ちっ・・・・・・・今日は奴隷市だったか」


 ライラが舌打ちと共に吐き捨てる。

 奴隷市。

 つまりは、あそこにいるボロボロの服を着せられた人達は、全員奴隷と言う事。

 だが、俺の意識は別の所に向いていた。


「・・・・・・・・・な・・・・で・・・・・」


 向けられた先は、倒れた奴隷の女。


「ん?おい、どうした?」


 俺に向かって呼びかけるライラの声が聞こえるが、俺はそれに応えられない。


「なん、で・・・・・・・・」


 見た。

 見てしまった。


「どうして・・・・・・」


「おい!返事ぐらいしろ!」


 身体が熱い。頭が痛くて爆発しそうだ。

 ドクンッ!ドクンッ!と心臓が早鐘のように暴れ回って息苦しい。

 信じられなかった。


「・・・・・・こんな、ところに・・・・・・・」


 信じたくなかった。

 だって、今も倒れて泣いている奴隷の顔は、忘れたくても、忘れることのできない、俺が愛した―――――



「みさ・・・・と・・・・・」



 この世界に居るはずのない人間がそこにいた。

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