幕間 03
大学に入学して半年、アニ研に入部した天霧美里はこの半年で足らずで、このオタクサークルに完全に馴染んだ。
最初の入部試験(?)でオタク知識を競い合った部長とは直ぐに打ち解けることが出来たが、俺や白石先輩にはどこか遠慮した感じがあった。
しかし、それも一ヶ月もしない間にある程度の話をするようになり、今では部長と話をしている時と変わりなく俺と白石先輩に話しかけるようになった。
白石先輩とは先輩の好きな『魔法少女☆ロジックロジカル』で意気投合、定期的にアニメを視聴したり、今度始まる続編の話で盛り上がっている。
部長にも相変わらずどこで仕入れてきたのか、かなりディープなオタトークで盛り上がっている。
そんな中、俺は――――――
「よし!そこでスペシャルショットを頭に当てるんだ!」
「うん!・・・・・・やった!成功!」
「ナイス!」
お互いのスマホが見える様に隣同士の椅子に座りながら『パラレルストライク』をプレイ中。
俺がメインでやっている『パラスト』を偶然にもハマっていると言うので、こうして一緒に協力プレイをすることが多い。
「これでイベントキャラが極運になったな」
「ありがと。総司のお陰で効率よく極運になったよ」
「いや、俺も美里のおかげで早めに極運になれたし、お互い様だよ」
そのお陰か、お互い最初は苗字でさん付け君付け呼びだったのが、気が付けばお互い自然と名前で呼び合うようになっていた。
女の子を名前で呼ぶなんて、実は人生初めてだったりするのは内緒だ。
ともかく、この半年で随分と仲良くなれたように思う。
それは俺だけではなく、美里もそう思ってくれているようで、サークル活動以外、講義なども一緒に同じものを受ける様になっていた。
「見て見て総司」
隣りに座っている美里が身を寄せてスマホを見せてくる。
「私もついにレベル200までいったよ!これで煉獄の塔に行けるようになったから、一緒に塔の制覇を目指そうよ!」
「お、おう。そうだな・・・・・」
近い近い!
仲良くなったのはいい事だが、距離感が近い!陰キャの俺には女の子、ましてやこんな可愛い子が無警戒で接近するだけで心臓が破裂してしまう!
「うん?どうしたの?」
「い、いや、何でもない」
可愛らしく小首を傾げる姿がまた可愛いのなんのって・・・・・ヤバい、緊張で心臓が・・・・・
「うぃ~す」
部室の扉を開けて白石先輩が入ってくる。
「あ、先輩。お疲れ様で~す」
先輩が来てくれたことで、美里は先輩の方に顔を向けてくれた。
「今日は良い物を持ってきたぞ・・・・・・ジャーン!劇場版『魔法少女☆ロジックロジカル』、そのプレミアムボックスだ!!」
「嘘っ!それ、限定生産で即完売された、あの幻のっ!」
「そうとも!フフ・・・・・苦労したぜ。こいつを手に入れるためにどれほどのものが犠牲になったことか・・・・・ぐすん」
「先輩、見せてください!」
「おう!遠慮なく見てくれたまえ!!」
白石先輩の持ってきたボックスに飛びついて行く美里。
俺はそれを見つつ、胸を撫で下す。
(良かった、あのままあの距離を保っていたら理性が崩壊してしまっていた・・・・・)
俺は美里に、好意を抱いていた。
女の子がちょっと話しかけてくれたら簡単に惚れると言う、悲しきオタクの性と言われてしまえばお終いなのだが・・・・・・
それでも、俺は美里を好きになってしまった。
今までの人生で恋をしたことはある。しかし、ことごとく失敗に終わっている。失敗、と言うより、見送っている。
好きになっても告白することなく、気が付けばその子は誰かと付き合い始めたり、告白する勇気が持てず、そのままでいたら熱が冷める様に興味が無くなっていたりと、とにかく碌な結果にはなっていない。
そんな俺が美里に抱く気持ちは、自分でも驚くくらい今までと違うと感じている。
本気の恋、と言うものがあるのなら、今まさに俺がその恋に落ちているだろう。
それほどに、俺は美里に惚れてしまっている。
ならさっさと告白でも何でもしろよ、と思うのだが・・・・・・
「ハァ・・・・・」
それが出来たら苦労しない陰キャなのです。
「景気が悪そうな顔をしてどうかしたのか?」
「あ、部長・・・・」
来てたのか。呆けていて気付かなかった。
「悩み事か?」
「いえ、別に大したことないんで・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
腕組みをして何やら思案顔になる部長。
チラリと部長の目が美里を見たような気がしたが、気のせいか?
「お前達、この後予定は空いているか?」
やがて考えが纏まったのか、部長は皆に予定を聞いてくる。
「俺は特にないっスね。しいて言うなら積みゲーを消化しようかなって」
「私も特にありません」
「天野は?」
俺も特に予定などない。
「ないです」
「うむ」
部長は皆の予定が空いていることに満足して頷き、宣言する。
「なら、このメンバーで飲み会をする。拒否は許さん。全員参加せよ!!」
「「えぇ~~~!!」」
飲み会!?
「飲み会か・・・・そう言えばこのメンバーではまだやってなかったな」
白石先輩がうんうん頷く。
「そうだろ?せっかくの機会だ、天霧君の歓迎会もしていなかったし、ちょうどいいと思ってな」
確かに美里の歓迎会などはしていなかったが。
そこに美里がおずおずと部長に尋ねる。
「あ、あの・・・・お気持ちは嬉しいんですけど、私、まだ十九歳で・・・・・」
「俺もなんですけど・・・・・」
俺と美里はまだ十九歳、部長と白石先輩は既に二十歳になっている。
「心配するな、何も飲み会だから酒を飲め、と言う訳ではない。酒の出る店で食事をしようと言うだけだ」
その言い方が既に怪しいんだが・・・・・
「んん~・・・・・お酒を飲まなければいいかな?」
待て待て、少しは怪しめ!人が好過ぎるぞ!
「天野、これから先こう言った機会は必ず訪れる。それに備えて今から雰囲気だけでも知っておくことは、今後の事にもつながるぞ?」
俺の肩に手を置き、もっともらしい事を言う部長。
「そうだぞ?今のうちに勉強しておくことは良い事だぞ?」
白石先輩まで・・・・・・
「ハァ・・・・・分かりました。俺も参加します」
「うむ、よろしい!では決まりだ。今宵は盛大に騒ごうではないかっ!!」
「「おぉ~~!!」」
「おぉ~・・・・・」
こうしてアニ研による、初飲み会が開催されることとなった。
嫌な予感しかしな・・・・・・・
♢ ♢ ♢
居酒屋で飲み会が開催されて約六時間、白石先輩に支えられた部長たちを見送り、俺と美里も帰るために駅に向かって歩いていた。
「まさか、誘った本人が酒に弱いなんて・・・・・」
「ね?意外だったね」
結局酔った部長にあれやこれやと美里とのことを聞いてくる部長の質問攻めを何とか回避しながらも、楽しいひと時を満喫できた。
その時の会話で美里の事も色々と聞けて良かった。
(部長には感謝だな・・・・)
俺と美里は住んでいる家が別の駅になるため、駅までになるが、二人でこうして飲み会の余韻に浸りながら駅に向かうのも悪くない。
取り留めのない話をしながら駅に向かっていると、メールが届いた。
見て見ると白石先輩から、『部長がリバースしてヤバい(泣)』ときた。
そのメールに二人して笑っていると、ふと携帯に表示されている時間が目に入った。
「あ、やばい、終電!」
終電を逃してしまうとタクシーで帰るしかなくなる。飲み会後なので財布の中身も心持たない。
間に合うか?
「こっち!ここを抜けた方が近いよ!」
美里に促されて進んだ先は駅近くの自然公園。そこを二人して走る。
この時間帯は人もいず、等間隔で明かりが点いているとは言え、薄暗い。そんな中を二人だ駆ける。
「時間・・・・ハァハァ・・・・・間に、あうかな・・・・」
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・どうかな・・・・・」
俺も美里もインドア派な為、体力はお互い無い。
走りながら美里がスマホを覗く。
「どうだ?」
「大丈夫。ここから歩いても十分間に合うよ」
そうか、良かった。このまま走り続けたら駅に着くころには死んでしまう。
一息ついてから並んで歩きだす。
「はあ~・・・・・久しぶりに走ったわ」
「うん、私も~・・・・・けど、ちょっと楽しかった」
「楽しいか?」
「うん・・・・・・・きっと、総司と―――――」
「お、いい女じゃん!」
美里が何かを言おうとしたその時、別の声がそれを遮った。
見ると暗がりからガラの悪い男三人がニヤニヤと笑いながら姿を見せた。
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