第16話 託された思い
クロードが泊まっていた部屋の中で、俺は呆然としていた。
今しがた、コークさんが読んでくれた羊皮紙の内容の原因だ。
そこに書かれていた内容、クロードが書いたハンター組合に入るための推薦状。そこに記載されているのは俺の名前。
すなわち、クロードは前に言っていた通り、俺をハンターにしたいと言う思いが綴られている。
「クロードに頼んだのかい?」
「いえ、前にクロードが『その気があるなら、ハンターにならないか?』って誘いを受けて・・・・・・」
「それで、なると言ったのかい?」
「・・・・・・その時は、突然だったので、考えさせてくれっと」
「なるほど・・・・・」
コークさんが推薦状を差し出し、それを受け取る。
改めて中身を見ると、そこにはこの世界の文字で、俺の名前が確かに書かれていた。
「これは推測なんだが―――――」
コンッコンッ!
唐突に部屋の扉をノックする音が響き、コークさんの話が中断された。
ガチャリと扉が開き、姿を現したのはガヤルさんだった。
「ガヤルさんじゃないか。どうかしたのかい?」
「頼まれものをソウジに届けに来た」
見ればガヤルさんは木箱を抱えている。
ガヤルさんは室内に入り俺の前に来て、手に持っていた箱を差し出す。
「ほれ」
「え?あの・・・・これは・・・・・」
「いいから、受け取れ」
「わわっ!」
半ば無理矢理押し付ける様にして箱を受け取る。
「クロードとテムロから頼まれた物だ」
「クロードと、テムロ?」
二人が何かガヤルさんに頼んだのか?けど、それをどうして俺に・・・・・・
「開けてみたらどうだい?」
困惑する俺に、コークさんが開けるよう促す。
床に置いて木箱の蓋を開けると、そこには真新しい服が収められていた。
箱から出してみると、それは前の世界でも触ったことのない様な滑らかな肌触りの革の服だった。
その服の下には金属で出来た手甲があった木箱に収められていた。
「これって・・・・・・」
「クロードとテムロ、二人がワシに作ってくれと頼みこんできた」
「クロードとテムロが?」
♢ ♢ ♢
時間を少し戻して、クロードが総司にハンターの勧誘をした後に戻る。
総司に話した翌日、訓練が始まる前にクロードはガヤルの店を訪れていた。
「ガヤル、いるか?」
「クロードか、何の用だ?お前さんの装備ならこの前整備したばかりだが?」
クロードはいつになく真剣な目をしてガヤルと向き合う。
「ガヤルに、頼みたいことがある」
「頼み?」
ガヤルは肩眉を上げて訝しんだ。
それなりに付き合いが長い二人だが、クロードのこんな真剣な目は今まで数えるほどしか見たことが無い。
よほどの事なのだろうと、作業の手を止めてクロードと向き合う。され、一体何を言われるのかと内心身構えながら耳を傾ける。
「ガヤルに、装備一式を作ってほしい」
「・・・・・・・何?」
装備一式。つまり武器と防具をガヤルに作ってくれと言っている。
仕事の依頼であれば金さえ払えば依頼を受けるだろう。
しかし、ガヤルは違う。
理由は過去の出来事によるところに起源する。
まだ帝都で槌を振るっていた時、ある男からの依頼を受けて剣を一振り打った。
その剣を受け取った依頼人の男は、あろうことかガヤルの家族をその剣で切りつけたのだ。
しかも、ガヤルの家族だけでは飽き足らず、他の者にまでその手に掛けたのだ。
その事件は帝都でも大きな事件として扱われ、ハンター組合にもその話が回り、正式に国からの依頼でその男の討伐依頼が出された。
クロードとガヤルは当時からの顔なじみで、当然クロードはガヤルの家族とも面識があった。
話を聞いたクロードは真っ先に依頼を受け、犯人をその手で葬った。
しかし、自らの手で作った物が家族の命が奪われてしまったことによるショックでしばらくは手に何も付けない状態になっていた。
時間が経ち、ガヤルは何とか復帰したが、もう二度と武器を作らないと心に決めて帝都を去った。同じ過ち繰り返させないために。
「ワシが武器を作らないと言う事は知っているはずだが?」
「分かっている。それでも、頼む」
「・・・・・・大体、お前さんには立派な大剣があるだろうに」
「装備は、俺の為じゃない・・・・・・・ソウジの為に作ってほしいんだ」
「ソウジに?」
クロードも当然理解している。ガヤルの受けた心の傷は深いと。
それでも、クロードはガヤルに頼みたかった。
「・・・・・・・・・随分と入れ込んでいるようだが、止めておけ、碌な目に合わんぞ」
余り接点がないが、ガヤルから見た総司と言う男は不審でしかなかった。
(あの男は、何かを隠している・・・・・)
普段の行動を見る限りなら無害に見えるが、ガヤルはその一点だけがどうしても気になり、信用しきれない。
前に店に来た時に武器を貸してやったのもクロードの頼みだからだ。
もし、総司一人ならそんなことをしなかった。
「お前はどうか知らんがな、ワシは自分の事も碌に話すことが出来ん奴の事など信用できん」
「ガヤルならそう言うとは分かっている。だが、頼む!ソウジの為に作ってやってくれっ!!」
頭を深々と下げながらガヤルに懇願する。
「・・・・・・・・どうして、そこまでする?お前さんにとってソウジは一体何なんだ?」
「ソウジは・・・・・・」
顔を上げたクロードの瞳は優しく笑っていた。
「ソウジは、俺の夢を応援するって言ってくれたんだ」
ハンターの夢。アーティファクトの中でも幻と言われる神器。それを手にすることがハンターの、クロードの夢。
しかし、現実は残酷だ。
今やおとぎ話として扱われる神器は、もはやハンターたちの中ではその存在など眉唾物。
それを手に入れるなどと言えば、周りから馬鹿にされるのが現状だ。
クロードはそれでも神器を求めて依頼を受けながら各地を旅している。
「今では子供だって信じないような俺の夢を、アイツは応援するって言ってくれたんだ。真っ直ぐに、俺の目を見て」
それがクロードには嬉しかった。嬉しくて仕方なかった。
今までそんなことを言ってくれる相手がいなかったからだ。
「・・・・・どの場だけの言葉かもしれんぞ?」
「アイツは、俺が話す冒険譚を子供みたいにはしゃぎながら聞いてくれた。『すごい!もっと聞かせてくれって!』てな。大の大人がまるで子供みたいにだ。俺は、それが眩しく映った」
「・・・・・・・・・」
「本当は分かってるんだ、何時までも子供の様な夢なんて追いかけたって意味が無い事は・・・・・・・けど、ソウジは真剣に俺の話を聞いて、応援してくれている。おかげで、失いそうになっていた夢を、ソウジのおかげで思い出させてくれた」
何処までも熱く語るクロードの目は、今まで見たどの目より輝いている様にガヤルは見えた。
「それに、アイツにはハンターとしての素質がある。今はまだ俺よりも弱いが、いつか、ソウジは俺よりも強くな。そんな予感がするんだ」
「まさか、アイツをハンターにするつもりか?」
「ああ」
馬鹿げている、とガヤルは思う。そこまでの価値が総司にあるのか疑問でしょうがない。
「頼むガヤル!アイツがハンターになった時、アイツが真っ直ぐ前に進める様になってほしいんだ!だから、頼む!」
「クロード・・・・・・」
その時、バンッ!と店の扉が勢いよく開いた。
「俺からも頼むっ!!」
「テムロ?」
扉を開けて入ってきたのは、テムロだった。
テムロは此処まで走ってきたのか、肩で息をしている。
「金なら俺が出す!だから、ソウジの為に作ってくれ!」
そう言ってテムロは頭を下げる。
「テムロ、お前まで・・・・・」
「昨日、ソウジから聞いた。ハンターの誘いを受けたって。アイツは悩んでいたけど、きっとソウジはハンターになる、俺には分かる!同じようにハンターを目指した俺なら!!」
頭を下げながら必死にガヤルに訴える。
「テムロ・・・・・」
「俺は諦めちまったけど、アイツには諦めてほしくない!身勝手なことだって分かってるけど、ソウジには俺がなれなかったハンターになってほしいんだ!だから、頼む!!」
「テムロ・・・・・・・頼むガヤル!ソウジの為に作ってくれ!!」
「頼む!!」
二人が同時に頭を深々と下げる。その姿はどちらも必死で、どちらも総司の事をとても大切だと言う事がその姿が語っていた。
「・・・・・・・・武器は作らん」
「っ!」
ガヤルの拒絶に、二人は息をのんだ。
「ダメ・・・・なのかよ・・・・・・」
「すまん・・・・ソウジ・・・・・・」
二人が落胆する中、ガヤルは作業台に戻って槌を掴んで振り上げる。
作業場に鉄を叩く音がカンッカンッと小刻み良く鳴る。
作業に戻ったガヤルの背を見て、これ以上の交渉は無理だと思い二人は店を出ようと背を向けた。
「俺は武器は作らん・・・・・・・作ったところで、才能のないソウジに武器なんぞ使えるか」
そんな二人の耳にガヤルの声が届く。
振り返るとガヤルは槌を振るいながら二人に語る。
「だから・・・・・・身を守る防具と、手甲ぐらいなら作ってやる」
「!!」
「ちょうどタダで手に入ったレッグボア一頭分の素材が丸々残っているからな・・・・・・・売っぱらって酒代にしようと思ったが、まあ、いいだろう・・・・・」
「ガヤル・・・・・」
「ありがとう」
「フンッ・・・・・・どうせこの後はソウジの訓練だろう?要件が済んだのならとっとと帰れ」
二人はもう一度ガヤルに頭を下げると、店を出て行った。
「・・・・・・ワシも、甘いのぅ」
作業場に鉄を叩く槌の音が陽が沈むまで響いた。
♢ ♢ ♢
「これを・・・・・・二人が・・・・・・・」
「全く、二人がお前さんに何を見たのか知らんが・・・・・・・・受け取れ。そいつは、あの二人がお前さんに残した、いや、託したものだ」
改めて受け取ったものを見る。
軽く、それでいて丈夫な革で作られた服。
近接格闘を前提として作られた手甲。
「・・・・・・・・・・・・・・」
二人が俺にの為に頭を下げてまで作ってもらったものが、今、俺の手の中にある。
「・・・・・・・・う」
今、お前が手にした力は、間違いなくお前自身が努力して手に入れた力だ。だから、下を向くな。それを自信と誇りにして、前に進め。そうすれば、いつかきっと、自分が思い描いた『理想の自分』になれる―――――――
「う・・・・・あぁ・・・・・・・・」
闘気法を使えるようになったソウジは、十分にハンターになれる資格がある。勝手な話だけど、俺が諦めたことを、ソウジに託したいって言うのが、俺の身勝手な願いかな――――――
クロードの言葉が、テムロの願いが、ここにある。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!」
二人と過ごした時間が、思い出が、蘇ってくる。
三か月も満たない短い時間だった。
けれど、たったそれだけの時間で、俺は二人から大切なものを、かけがえのないものを貰った。
こんな大切なものを受け取ったお礼を言いたい。
嬉しい、と。
大切にする、と。
ありがとう、と。
けど、この気持ちを伝えることは、もう、二度と出来ない。
この世界に、クロードとテムロは、もう、いない。
「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
その事実が、胸の奥から湧き出し、涙となってあふれ出る。
今まで保たれた堤防が決壊したかのように、何度涙を拭っても、次から次へと涙が出てきて止められない。
胸に託された願いを抱きかかえて、止めどなく涙を流し続けた。
コークさんとガヤルさんに見守られながら、俺は涙を流し続けた。
♢ ♢ ♢
泣き続けてどれくらい経ったか、胸に溜まっていたものが全て涙と共に出尽くしたのか、ようやく涙は止まり、今は落ち着くことが出来た。
「情けない姿を見せて、すみません」
泣いている間、落ち着くまで黙って見守っていてくれた二人に頭を下げる。
「気にしなくていい。泣きたい時は泣けばいいんだ」
「落ち着いたようで良かったよ」
本当に情けない姿を見せてしまった。こんなに泣いたのは今までの人生で初めてだ。
「・・・・・それで、こいつを受け取ってくれるのか?」
「はい。勿論」
改めて手の中にあるものを強く抱く。
(ありがと・・・・・テムロ、クロード・・・・・・二人が託してくれたもの、確かに受け取ったよ)
だから、俺は――――――
「ガヤルさん、コークさん。ハンター組合がある場所は何所ですか?」
「・・・・・・なるのかい?ハンターに」
「はい。それが、二人の・・・・・俺の願いですから」
「そうか」
コークさんは優しく微笑んでくれた。
「組合はこの村から西にある『デムローデ』と言う街にある。馬を使えば三日で行けるが、歩きとなると一週間はかかるな」
一週間か、結構な距離だな。まあ、この世界に電車や車が在るわけじゃないし、それも当然か。
「・・・・・・・それなら、ワシが馬車で連れて行ってやる」
「え?いいんですか?」
「クロードの遺品を組合に渡してやらないといけないからな。そのついでだ」
願ってもない申し出だ。この世界に来てから、俺は未だにこの村以外の場所に行った事が無い。
土地勘もない俺では街に辿り着ける自身が無い。ガヤルさんの申し出は天の救いでもある。
「ありがとうございます、ガヤルさん」
「・・・・・フンッ」
ガヤルさんに頭を下げると、腕を組んでそっぽを向いてしまった。面と向かって感謝を示されるのは苦手らしい。
「よし、じゃあここを片付けて出発の準備をしないと」
「はい」
俺のせいで中断させてしまった片づけを再開し、終わったころには日が傾いていた。
帰る間際にコークさんが夕食をご馳走すると言ってくれたので一緒に手伝ってくれたガヤルさんと共にコークさんの夕食に舌鼓を堪能する。
明後日の朝一番にここを発つことを約束し、本日はお開きとなった。
家に帰るころには夜も遅い時間になっていた。
「ただいま・・・・・」
返事はない。
分かっているけど、今までの習慣で口に出てしまった。
「・・・・・・・・・・」
少しの寂しさを覚えながら自室に入り、ランプを点けて部屋の中にある荷物を漁り始める。今のうちにある程度荷造りをしておくためだ。
と言っても大したものなんてないんだけど。
「そう言えば・・・・・・」
暫く荷造りをしていると、フッとある疑問が頭に浮かんだ。
「あの時、俺は何であんな事・・・・・・」
頭を過ったのは、教会でのこと。
赤蜘蛛のリーダー、デップを倒してシェスタを助けたところまでは覚えている。だけど、その後の事が思い出せない。
厳密にはうろ覚えで、まるで夢を見ていたみたいに記憶が曖昧なのだ。
「それ以前に、どうして急にあんな力が・・・・・」
頼みのクロードがやられて、もう駄目だ、と思った矢先の事だ。体の内側から急に力が溢れてきたのだ。
「・・・・・いや、違う」
急に力が湧いてきたんじゃない。あの時―――――
『オレが力を貸してやったからだ』
「っ!」
突然声が聞こえた。
驚いて周囲を見渡すが当然この部屋には自分しかいない。
聞き間違い?いや、確かに聞こえた。地の底から響く様な、とても嫌な声が。
『と言っても、ほんの少しだけだがな』
再度聞こえる声。間違いない、姿は見えないが確かに聞こえる。
「だ、誰だ!」
『誰とは随分な言い草だな。誰のおかげで生きていられると思っているんだ?』
姿は相変わらず見えない。なのに声だけははっきり聞こえる。
「そんなの知るか!一体誰なんだ!!」
『寂しい事を言ってくれる。お前はオレを知っているはずだ』
「だから、お前何て・・・・・・」
いや、待て。この声、聞き覚えがある。
何処だ?一体どこで・・・・・・・
「っ!」
『思い出したか?』
そうだ・・・・・・・この声、俺がこの世界に来る直前、マンションの屋上から飛び降りた時に聞いたあの声!
『クックッ・・・・・どうやら思い出したようだな』
「お前は、一体・・・・・・」
『そうだな、まだ、名乗っていなかったな。オレはオグマ・・・・・そうだな、お前に分かる様に言うのなら精神体、魂の様なものだ』
精神体?魂?何だってそんなものが俺の中に。
『お前が望んだことだろう?力を貸せと』
「それは・・・・・・・」
確かに言った。けどあれは・・・・・・
「あの時は・・・・・・どうせ死ぬんだからって、自暴自棄になって・・・・・・・」
『違うな。あれは紛れもなく本心だった。だからあの時も目の前の人間を殺すことに躊躇しなかった』
殺すって、まさかあの教会の時の!
「お前、あの時何をした!」
『言っただろ?少し力を貸しただけだ』
「確かにいきなり力が溢れてきた・・・・・けど、あの時、殺そうなんて考えてなかった。お前が何かしたんだろ!!」
(そうだ、きっとそうに決まってる。じゃなかったらあんな簡単に人を殺すなんて、出来る訳・・・・・・)
あの日から考えないようにしていた事、自分の手で人を殺めてしまったと言う事実を。
だから、自分の意志ではなく、このオグマとか言う奴が原因だと主張したかった。
だが――――――
『違うな。俺がしたことは力を貸したことと、お前の中にある感情を少しだけ後押ししてやっただけだ』
「感情?」
『憎悪。悔しい、憎い、殺してやりたい。お前があの時から抱えていた感情をオレが後押ししてやったに過ぎない。その結果、お前はあの人間どもを自分の意志で皆殺しにした。それが事実だ』
「俺は・・・・・そんな事・・・・・思ってなんて・・・・・」
『否定したところで事実は変わらない。これから先、何があったてお前の中にある憎悪は消えることなどないだろうよ』
じゃあ、俺はこの先ずっとこのままなのか?
『いい加減に認めろ。お前はあの女もその手にかけただろうが』
「っ!!」
まさか・・・・・まさか・・・・・・あれも、俺の意志で?
『良かったな。お前が望んだ通り、滅茶苦茶に出来て』
嘘だ・・・・・俺は、あんな事したいなんて・・・・・
(・・・・・・いや、俺はあの時何を考えた?)
覚えてる。あの時、俺はシェスタを、欲しいって考えてしまった。
そしたら、もう何も考えられなくなって、そのままシェスタを押し倒して・・・・・・
(あれは・・・・・俺が望んだこと、だった・・・・・?)
目の前が急に暗くなる様な気分だった。
人を殺し、挙句の果てにシェスタを力ずくで押し倒して、これじゃまるで・・・・・・
(アイツと・・・・村上と一緒じゃないか!!)
俺から美里を奪い、俺をボコボコにして嘲笑った、アイツとっ!
村上と同じクズになってしまったのかと思うと、吐き気が込み上げてくる。
そんな俺の姿を楽しそうにオグマが笑う。
『ハハ!そう悲観するな。欲望のままにあの女を手にかけたのは正解だ。おかげで、オレはこうしてお前と会話できているのだからな』
「何?」
『お前をこの世界に連れてくるのに力を使い過ぎた。おかげで今までずっとお前の中で力を戻すために眠っていたが、あの女のマナを吸収できたことで、少しはマシになった』
「じゃあ、シェスタが目を覚まさないのも・・・・」
『心配するな。死ぬほどの量は吸収していない。それでも当分は目を覚まさないだろうがな』
「お前っ!」
『ククッ、お前にはこれからもそうやってオレにマナを与えろ。そうすればオレの力ももっと早く戻る』
「誰がお前なんかの為にっ!!」
『最初に言ったはずだ、これは契約だと。オレの願いを叶えるまで、この契約から逃れることなど出来ないと知れ』
つまり、こいつの為にこれからも同じことをやれと?馬鹿げてる!!
『話は終わりだ。オレはまた眠りにつく。力を貸してほしければ呼びかけろ。力を貸してやる』
そう言ってオグマの声が聞こえなくなった。どうやら本当に眠ったらしい。
「ふざけるなよ・・・・・・・これからどうしろって言うんだよ・・・・・・」
ランプの明かりが揺らめく部屋の中に、俺の声が虚しく響く。
それに応えてくれる人は、誰もいない。
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