第10話 教会のお手伝い
クロードが村に戻ってきた翌日、俺は早速クロードに課題の成果を見せていた。
「はっ!」
左から迫る木片を上体を逸らすして回避、間髪入れずに迫ってきた右斜め前方から迫る木片をバックステップで躱す。
そのタイミングでクロードがそこら辺に落ちていた枝を投げつけてくる。
「ふっ!」
それを振り向きざまに回し蹴りの要領で弾き飛ばす。
そのまま直ぐに体を右に投げ出す。と、さっきまで立っていた場所目掛けて木片がブオォン!と勢いよく通過していく。
あのまま立っていたら直撃していた。
「ほお・・・・・」
転がった勢いを殺さず、一気に体をバネの様にして勢い良く立ち上がる。
起き上がると、目前に木片が迫ってきていた。大きく回避しようと動こうとして思い止まる。次のアクションを考えると、ここで大きく動くことは次の行動に移す時に隙が出来る。なので、ここは最小限で避けることを選択。
横に一歩、体をずらすことでギリギリ回避する。
「っぶなぁ!」
しかし、ギリギリで避けた甲斐があった。クロードがまたしても投げてきた枝を拳で叩き落すことに成功したのだ。
もし、選択を間違っていたら今ので終わっていた。
冷や汗を掻きながら、俺は次々と木片を避け続けていく。
やがて・・・・・
「そこまで!」
クロードの終了の合図と同時に大の字で倒れこむ。
「驚いたな。随分上達したみたいだな」
「ハァハァ・・・・・ま、まだ目標の、十本、まで、できないけど、な。ハァハァ」
息も絶え絶えで、喋るのが辛い。
「そんな事ねぇよ。八本も出来る様になってんだ。最初のころに比べたら大進歩だ」
そう。俺は何とか八本を安定してクリアできるようになんとかなったのだ。
ただ、九本目が投入されると一分程度しか持たない。
避けることに意識を持っていかれて、クロードが投げてくるものに対して反応できなかったり、その逆に木片を回避し損ねたり。挙句の果てに体力切れで強化法が解除されたりと、九本目は本当に地獄の様な難易度を誇っている。
それでも八本をこなせるようになっただけでも、自分で自分を褒めてやりたいほどだ。
まあ、目標達成できなかったら意味が無い事ではあるのだが・・・・・・
それから俺は木陰に移動してしばしの休息をとる。
クロードと並んで木陰に座り込み、水を飲んだりして体を休めていると、隣で同じく休憩しているクロードがおもむろに話しかけてきた。
「ソウジ、ちょっといいか?」
「何だ?」
えらく真面目な顔になってるけど、何か重要な話でもあるのだろうか?
「ハンターに、なる気はないか?」
「・・・・・・・え?」
俺が?クロードと同じ、ハンターに?
「何で、急にそんな話を・・・・・」
「前々から思ってた。惜しいってな」
「惜しい?」
「ああ、その才能がな」
前にクロードは闘気法が使えるだけでも、それは立派な才能だと言っていたが。
「言っておくが、前に言った闘気法が使えるって意味じゃないぞ」
あれ?違った。じゃあ、一体何だってんだ?
自慢じゃないが、今まで才能があるなんて言われたこののない人生を送ってきたんだぞ。
「マナ操作。お前はそれが他の奴よりも、上手く扱えている」
マナ操作が?そんな自覚無いのだが。
「本来なら、闘気法を使うまで数日は掛かる。が、お前はそれを一日も掛けずにやってみせた。それに加えて、強化法の習得もさほど時間を掛けずに扱えるようになった」
「それは、クロードの教え方が分かりやすかったから」
「それでも、だ。普通はこんな短期間で出来るものじゃない。もっと時間をかけて覚えていくものだ。だが、それを短期間でやってのけた。それはつまり、マナの扱いが上手いって事に繋がるんだよ」
確かに、闘気法を扱うにはマナの操作が重要だ。自分のイメージした通りにマナを操るのはとても難しい。
それだけに、クロードが言う通り俺にはマナを扱う才能があるのだろう。
しかし、俺はいまいち信じられない。
今まで才能がどうとかって話は自分には遠い世界の話、それこそ天才と呼ばれる人たちだけのものだと思っていたぐらいだ。
そんなザ・凡人な俺が、才能がある、何て言われても、いまいちピンとこないのはしょうがない事だと思う。
「俺には、才能なんて・・・・・・」
自信のなさに思わず顔が下を向きそうになる。
「ソウジ」
が、クロードはそれを許してくれない。
俺の肩をその大きな手で力ずよく掴み、俺の名を呼ぶ。
その声は、『逃げるな』と、言われているような気がした。
「お前がお前自身をどう評価しているのか、俺には分からない。が、これだけは言わせてくれ――――――もっと自信を持て」
「クロード・・・・・・」
「今、お前が手にした力は、間違いなくお前自身が努力して手に入れた力だ。だから、下を向くな。それを自信と誇りにして、前に進め。そうすれば、いつかきっと、自分が思い描いた『理想の自分』になれる」
「理想の・・・・・自分に・・・・・」
前世で惨めな最期を迎えた、こんな俺なんかに。
何処までも真剣な瞳でクロードは言ってくれる。
自信を持てと。
自分を誇れと。
(こんな、俺を・・・・・・・)
認めて・・・・くれるのか・・・・・・?
真剣だったクロードの目が、フッと柔らかくなる。
「話はそれだけだ。今すぐに返事をくれとは言わない。じっくり考えてみてくれ」
そう言ってクロードは立ち上がり、次の訓練の準備に取り掛かった。
俺はその背中を眺めなが、どうするべきなのか悩むのだった。
♢ ♢ ♢
「・・・・ソ・・・・ジ・・・ソウジ!」
「ッ!!」
「どうしたんだよ、さっきからボーとして」
気付けば食事の手を止めてテムロがこちらを心配そうな顔で見ていた。
「あ・・・・悪い、ちょっと考え事してた」
「そうか?なんか帰ってきてからずっとその調子だぞ?」
「悪い」
あれから訓練が終わって家に帰ったまでは良かったんだが、クロードからの誘いの話で頭が一杯になって、気が付けばそのことばかり考えてしまっていた。
「何か、悩み事か?なんなら相談ぐらい乗ってやるぞ?」
余りテムロに心配かけたくないし、一人で悩んでてもしょうがないな。
「実は、クロードから―――――」
俺は今日の訓練であった話をテムロに話した。
「なるほど、それでソウジはハンターになるかどうかで悩んでいると」
「まあ、そんな感じだ」
「んん~・・・・・・・それは、難しい話だな」
そう、難しい話なのだ。
ハンターになると言う事は、クロードの様にアーティファクトを探すと言う事。つまりは冒険に出ると言う事。
俺だって男だ。冒険と聞けば胸が躍る。
しかし、冷静な部分ではそれがどれだけ危険な事なのかを理解もしている。
「ハンターになって、冒険をするっていうのは魅力的なんだけど・・・・・」
「ハンターになれば、危険な仕事の依頼だってしないといけないからな」
そう、それが俺が決断できない大きな悩みだ。
それに、昨日クロードから聞いた盗賊の調査依頼の話も悩みを大きくする原因の一つとなっている。
クロードは言っていた、可能なら盗賊の討伐と。
クロードの話では女子供だろうと、容赦なく殺してしまうような集団だ。そんな危険な連中と戦わなくてはいけないのだ。
それになりより、『討伐』と言う事は・・・・・・
(人を・・・・・殺すって、事だよな・・・・・)
相手は殺人を犯すような犯罪者。そんな奴なら死んで良し。等と前世ではニュースの報道などを見るたびに思っていた、が。
それは、自分で手を汚すことなんてない、自分以外の誰かが勝手にやってくれる。だから、自分には関係のない事だと、無責任な思考があったからだ。
けれど、ハンターになれば、いや、この世界ではそんな無責任な考えではいられない。
自分の身は自分で守らなければ、簡単に殺されてしまうような世界なのだ
それは人に限らず、魔物にも言える。
森でレッグボアに襲われた時がいい例だ。奇跡的に助かったが、あの状況なら死んでいた可能性だって十分あった。
そんな死と隣り合わせな世界で、自ら危険な依頼をこなしていくハンターと言う職業は、やはり躊躇してしまう。
「・・・・・・・昔、ハンターに憧れてた時があったんだ」
「え?」
「でも、俺はソウジみたいに闘気法は使えない。まあ、必ずしも闘気法を使えないといけないってわけじゃないらしいけど・・・・・・」
突然テムロが昔の事を語り始める。
テムロは昔の思い出を懐かしむように話を続ける。
「闘気法が使えなくてもハンターになれるって来たときは、はしゃいだよ。頑張ればハンターになれるんだって」
と、不意にテムロは苦笑いを浮かべた。
「けど、結局諦めた」
「・・・・・どうして?」
「色んな人から、どうやったら闘気法を使えなくてもハンターになれるのか聞いて回ったんだ。それで知ったんだ・・・・・・ハンターて言うものの厳しさを」
「厳しさ・・・・・」
「ハンターになれば、どんな仕事をするのかとか。その仕事がどれだけ危険なものなのか。まあ、全ての依頼が危険なものって訳じゃないみたいだけど、それでも危険な仕事だ・・・・・・俺はそれにビビッて、諦めたのさ」
「・・・・・・・」
俺は何も言えなかった。だって、テムロが言っていることは、まさに今俺が考えていたことだ。
「だからってわけじゃないけど、ソウジには期待してるんだ」
「ん?」
「闘気法を使えるようになったソウジは、十分にハンターになれる資格がある。勝手な話だけど、俺が諦めたことを、ソウジに託したいって言うのが、俺の身勝手な願いかな」
「テムロ・・・・・」
ハハッと照れたように頭を掻いて笑って、しかし、しっかりと俺の顔を見ていった。
「俺の話は抜きにして、決めるのはソウジだ。ソウジが決めたことなら、俺はそれを支持するよ」
「・・・・・・・ありがとな、テムロ」
「さ、飯が冷めちまう。食っちまおう」
「ああ」
♢ ♢ ♢
それから、答えが出ないまま数日が過ぎたある日の事・・・・・
「本当に助かるよ。今日はよろしく頼むよ」
「任せてください」
「普段世話になってるからな、これくらいお安い御用さ」
「まあ、モーガン神父の頼みなら断れないしな」
俺とクロード、それにテムロの三人は、モーガン神父の頼みを受けて教会に集合していた。
「この前の雨で、雨漏りが酷くなってしまった。出来れば本格的に教会の雨漏りを修繕したい」と神父から頼まれたのだ。
どうやら一昨日に降った嵐の影響で教会の至る所で雨漏りや、屋根の破損などが深刻化したらしい。
そこで、俺達三人がシェスタからその話を聞き、ならばと手を挙げたのだ。
「俺達も手伝うぜ!」
「わたしも、てつだう~」
子供達が自分も手伝いと、元気に手を挙げる。
「私も邪魔にならない様にするから、手伝わさて下さい」
コロワも手伝いを申し出てくれる。
「余り無理はしない様にな?皆も、重い物や大きな物は俺達三人でやるから、飛んできたゴミ掃除とかを頼むぞ」
「「「は~い!!」」
子供達は元気に返事をしてくれる。
と、言う訳で。普段からお世話になっている俺達三人にと小さな助っ人たちによる、教会の補修作業が開始されることとなった。
まずは、村から持ってきた木材などを修繕個所に運び込む。
子供達は、シェスタとコロワに引率される形でゴミ拾いを開始。
クロードは梯子を使って屋根に上がり、俺とテムロは教会の壁の補修を担当。
「しかし、あの嵐でもここの教会は良くもったもんだな」
太い枝でもあたったのか、俺の目の前にある壁には亀裂が入っている。
始める前にざっくりと教会の周りなどを見て回ったが、どの個所も似たような感じにボロボロになっていた。
「まあ、見た目ボロいけど、長年ここにあり続けたもんは伊達じゃないってことだな」
「そうだな。さて、何から始めたらいい?」
「ああ、まずは―――――」
俺とテムロは二人で木の板を担いで亀裂を塞ぐように板を置き、釘で板を打ち付けていく。
補修した個所を二人でチェックして、問題が無いか調べる。
「出来栄えは少々不格好だが、これなら問題ないだろう。次に行こう」
「しかし、このペースだと今日中に終わるか微妙だな」
一つ終わらせるだけでも意外と時間を使ってしまった。
直さなければならない箇所は此処だけではない。まだまだあるのだ。
更に今俺達は外をやっているが、外が終われば今度は中の方も修繕する予定だ。
屋根や壁をやるなら、いっそ内側までやってしまおうと言う事になっているのだ。
「今日できなくても、明日やればいいさ。皆も手伝ってくれてるし、時間も十分あるんだしな」
「そうだな」
改めて意識してみると、屋根の方からクロードが金槌を振るう音が聞こえてくる。
その音に交じって子供達のワイワイと賑やかな声も聞こえてくる。
皆頑張っている。俺も負けてはいられないな。
「じゃあ、次行くぞ」
「おう」
そうして補修作業は進められていった。
しばらくそうして補修作業に没頭する事数時間。
太陽は真上にまで登り、時刻は丁度昼になったころ、お待ちかねの昼食タイムとなった。
シェスタとコロワお手製のサンドイッチが皆の手に渡る。
外が晴れているので皆でピクニック気分で外で食べることになり、皆思い思いの場所に腰かけて昼食をいただく。
俺も適当な木陰に腰かけてシェスタお手製のサンドイッチを頬張る。
「やっぱ美味いな~」
サンドイッチの美味しさに心が癒されていくのを感じながら、ありがたくご馳走になる。
食べ終わったら暫く休憩したのち、作業を再開する運びとなっている。
だから、ゆっくりと味わいながらのんびりとする。
柔らかい陽の光が木漏れ日となって降り注ぎ、気持ちのいい風が作業で火照った体を冷やしてくれる。
「何だか眠くなってくるぐらい、いい天気だな」
「何だったら眠っていてもいいんですよ?」
声が聞こえた方に目を向けると、コロワがこちらにスープの入った器を持ってこっちに歩いてくるところだった。
「どうぞ」
「ありがとう、コロワ」
コロワから器を受け取る。中から美味そうな匂いが漂い俺の鼻腔をくすぐる。
コロワはそのまま俺の隣りに座って一緒に持ってきた自分用のサンドイッチを頬張る。
その姿が何だか小動物の姿を彷彿させてついついジッと見てしまう。
「な、なんでか?」
「ああ、いや、なんかリスみたいで可愛いなって」
「か、可愛いなんて・・・・・」
おや、照れてしまったか。その照れた顔も可愛いんだが。
「そ、それに人が食事してるところをじっと見るのは失礼ですよ」
そのちょっと拗ねた顔も可愛いのだが、さすがにそれを言ったら色々とアウトの様な気がするから止めておこう。俺は至ってノーマルであって、ロリコンではないからな。
「今日は、ありがとうございます」
「ん?別にコロワがお礼を言う事じゃないだろ?」
「教会は私たちも授業で使う場所だから。だから、お礼を言いたかったんです」
律儀だな~
「それなら、俺だってここを使わせてもらってるんだ。だから俺じゃなくて、お礼はテムロとクロードにしてあげな」
「そうかもしれないですけど、それでも、やっぱりありがとう、です」
ホント、コロワはいい子だ。
「ハハッ、どういたしまして」
コロワの頭を優しくなでてやる。
「わっ!く、くすぐったいです!」
そう言いつつも、満更でもない様子のコロワにほっこりしていると、二人の女の子がこちらに駈け寄ってきた。
「ああ~いいな~コロワおねえちゃん。わたしもナデナデして~」
「あたしも~」
それに釣られてか、他の子供達もこっちに集まってきた。気が付けば子供に囲まれてしまった。まあ、もう食べ終わったからいいけど。
何かこの流れ、もはや休憩できる感じじゃなくなってきたな。完全に遊んでモードだ。
まあ、それならそれで、いいか。
俺は一番背の小さい女の子を抱き上げて高い高いをしてやる。
いきなり抱き上げられてビックリしていたが、全力の高い高いがお気に召したのか、女の子の表情が明るい笑顔に変わる。
「わぁぁ~~~~!!」
「あぁ~それ僕もやって~!」
女の子を降ろし、今度は男の子を抱き上げて高い高い。ついでに勢いよくグルグル回してやったら悲鳴を上げながらも楽しんでくれた。
そうしてひと時を子供達と過ごすのだった。
♢ ♢ ♢
総司が子供達の相手をしている一方、クロードとテムロは教会の入り口付近に座りながら、そんな総司たちを微笑ましく思いながら眺めていた。
暫くそうして眺めていると、不意にテムロが口を開く。
「・・・・・ソウジに、ハンターにならないか薦めたんだって?」
その質問の内容は、数日前に総司がテムロに話した問題だった。
「ああ、訓練を付けてそれで終わりじゃ、あまりにも惜しいと思ったからな」
「・・・・・・・ぶっちゃけ、ソウジは出来そうなのか?」
「そうだな・・・・・・・」
少し考えを纏めてからクロードは口を開いた。
「才能はある、それは本当だ。ただ、あいつのその才能は、マナ操作だけだ」
「マナ操作だけ?」
「ああ、正直、戦闘面に関してはそれほどでもない。咄嗟の起点はきくが、動き自体が付いていけてない。訓練次第でどうにかなるだろうが、あの調子だと他の奴よりも時間が掛かるだろう」
「冗談だろ?避ける訓練だってすげぇ上達してるじゃん!」
クロードのその答えにテムロは納得できなかった。
訓練を手伝い、間近で見ていたテムロの目にはとてもそんな風には見えなかった。
何より、友人だと思っている人間を馬鹿にされたようで納得がいかない。
その心情を分かっているのか、「落ち着け」と言って宥める。
「あいつがあの訓練をこなせるのは、マナの流れを感知しているからだ。ま、無意識だろうがな」
「マナの流れを?」
「物が動くとき、空気の流れが変わる様に、マナも流れを変える。殆どの人間はその感覚が分からないが、ある一定数の人間はそれを知覚できる。上級クラスのハンターは大体知覚できるだろうな」
「それをソウジが出来てるって?」
「言ったろ?無意識だって。だが、その流れを自覚できた時は・・・・・化けるぞ、アイツは」
テムロは驚いた。クロードがここまで評価しているとは思っていなかったからだ。
「期待してるんだな」
「ああ、期待している。それに・・・・・」
一旦言葉を切ってから、今度はクロードの方からテムロに投げかける様に質問する。
「お前だって、期待してるんだろ?」
その質問に、テムロは首を縦に振って応える。
「あいつが本当はどういった人間だとしても、何か、不思議と応援してやりたくなるんだよ」
「・・・・・・・気づいてたんだな」
「気付くだろ、普通」
「ははっ、そりゃそうだな。普通、誰も信じないからな」
「嘘つくならもっとマシな嘘つけばいいのに、よりにもよって記憶喪失だもんな」
「確かに」
二人は顔を見合わせて笑った。
総司は上手く誤魔化せたと思っていたようだが、二人には早々に嘘だと気づかれていた。
「それでも二人はソウジの事を信頼している。違うかい?」
「神父」
二人の会話に入ってきたのはモーガン神父だった。そのそばにはシェスタも一緒だ。
「気付いてたんだね」
「てことは、シェスタも分かってたのか」
「嘘だってことは何となく分かってた。けど、二人が何も言わないから問題ないかなって。それに・・・・・」
子供達を相手に追いかけっこをしている総司を見る。
笑いながら、それでいて優しい瞳をして子供達の相手をしている姿を見て、シェスタは微笑んだ。
「それに、話してみると、悪い人じゃないってわかったから」
そのシェスタの答えに三人は同じように総司の姿を見ながら笑った。
三人とも、シェスタと全く同じ事を思っていたからだ。
「確かに嘘をついてるし、何か隠してるんだろうけど、それでも、不思議とほっとけないんだよな」
「ああ、それに俺の夢を笑わずに聞いてくれた。それどころか、応援するって言ってくれたぐらい、アイツはいい人間だよ」
「子供達と一緒になって笑ってる人を、悪い人間だなんて思えないよ」
「自分の事より人の事で頭を悩ませる人ですからね。他の人を思いやる気持ちがある確かな証拠です」
総司は大丈夫。決して悪い人間ではない。四人は確信に近い気持ち思って、天野総司と言う人間を受け入れようと決めてのだ。
だから、総司がこれからどのような答えを出そうが、四人はそれを支えようと思ったのだった。
♢ ♢ ♢
「・・・・・・・・・・・」
そんな風に皆が思い思いの時間を過ごす中、教会に集まる人間を物陰から窺う人影が一つ。
「へへっ・・・・・」
薄ら笑いを浮かべて観察を続ける人影が、不意にある人間に注目する。
「へぇ・・・・・イイじゃん。へへっ」
その視線の先には、子供達とじゃれ合う総司を優しく見守るシェスタの姿があった。
「こりゃあ、楽しみが一つ出来たな」
そのつぶやきは、誰にも聞かれることはなかった。
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