第5話 ド田舎に教会?

 店に戻るなりクロードがコークさん、俺が闘気法を使えたことを報告すると、「それは目出度いな!」と言って料理を振舞ってくれたのだ。

 しかもタダで。

 気前が良すぎだろ。いや、起きてから何も食ってなかったから有難いけど。

 並べられた料理はどれも見たことのない料理ばかりだった。

 鳥?いや、ブタか?の香草焼きみたいな物、枝豆みたいな物が浮かんだスープに、新鮮な野菜のサラダ、それとこれは・・・・ピラフ?

 料理名も分からなければ、どんな味なのかも分からないが、空っぽの胃袋を刺激する美味しそうな匂いが鼻腔ををくすぐる。


「三人とも、遠慮せずに食べてくれ」


「それじゃ、お言葉に甘えて・・・・・」


「じゃあ、俺も」


「俺も」


 三人揃って料理に手を伸ばす。


 何から食べようか、どれも美味そうだけど、まずはスープからいただこうかな。


「ッ!!」


 うまっ!


 なんだこれ。口に入れた瞬間枝豆?から溢れる僅かな甘みと、野菜が溶けるまで煮込んだのか、スープの味と見事にマッチしてとても美味い。

 次に香草焼きに手を伸ばす。


「ッ!!!」


 こちらもヤバイぐらい美味い!

 噛むたびに肉汁が溢れる。肉から出る油も香草のおかげでくどくなく、口の中で見事に調和してくれている。


「美味い!美味いですよこれ!!」


「ははっ!喜んでくれてなによりだよ」


 マジで美味いぞ!これが異世界の料理か!


「まあ、コークさんの料理が美味いのは当然だな。なんたってコークさんは都で店を出してたぐらいだからな」


 テムロがまるで自分の事のように自慢げに語ってくる。


「昔の話だよ」


 都がどれほど凄いのか知らないが、感覚的には東京の一等地に店を構えてたって感じか?それならこの味も納得だ。

 俺は料理を次々に口の中に入れていく。

 気が付けばそこそこの量があった料理は綺麗に胃袋の中に納まっていた。


「ふぅ~食った食った」


「やっぱコークさんの飯は美味いな」


「ご馳走様でした~」


 俺含め三人揃って大満足。


「こっちもおいしそうに食べてくれて嬉しいよ」


 コークさんはニコニコと笑顔で食器を片付けて調理場へと消えていった。


「どうだソウジ、もう体は平気か?」


「ああ、体も休めたし、何より美味い飯も食えたからな」


「ならソウジ、少しいいか?」


「うん?何だクロード」


 口には笑みが浮かんでいるが、クロードの目は何処か真剣眼差しをしていた。


「ソウジ、闘気法の修行をしてみる気はないか?」


「え?」


 修行?闘気法の?


「さっきも説明したが、闘気法や魔術を使うにはある種の才能がいる。そしてお前は今しがた闘気法を使って見せた。つまりはお前には才能がある」


 確かにクロードの話なら、闘気法を使えた時点で、いや、マナを感知出来た時点でその『才能』とやらがあるのだろう。

 しかし・・・・・


「なんでまたそんな話に?」


「実は、俺はハンター組合で指導係をやっているんだ。まあ、手が空いている時だけだがな」


 ハンター組合。つまりゲームとかで言うとこのギルドってやつか。


「でだ、指導係をやっている俺の目から見て、お前の才能がこのまま野に埋もれちまうのを、もったいないと思っている。

 だからな、ソウジ。その才能を伸ばして、強くなってみないか?」


 ドクンッ


「強く?」


「そう、強く」


 ドクンッドクンッ


 何だ?胸が熱い。

 鼓動が早鐘のように鳴る。

 強く?俺が?闘気法で?

 そう思った瞬間、脳裏に嫌な顔が浮かぶ。

 それは俺がこの異世界に来る少し前の記憶。

 俺の愛した女を奪い取り、下卑た笑みを浮かべた『あいつ』の顔。

 傷は無いはずなのに、『あいつ』に殴られ、蹴られた体が、まるで忘れるなと言うように疼く。

 俺が弱くて、『あいつ』の方が強かった。

 ただ、それだけだ。

 それだけなのに・・・・・それが、酷く、イラつく。

 それを意識した瞬間、体が、脳が、沸騰したように熱くなる。


「頼むクロード。俺を、強くしてくれ」


 俺はその熱を力に変える様に、クロードの目を見返し、言った。


「・・・・・ああっ!任せときな!」


 そんな俺にクロードは力ずよく答えてくれたのだった。




        ♢       ♢       ♢      




「そう言えば、お前らこれからどうするんだ?」


 あれからクロードと今後の闘気法の鍛錬について話し合い、明日この時間にコークさんの店で待ち合わせることを約束し、話がひと段落した時だった。


「ああ、そう言えば村の案内の途中だったんだ」


 ハンターの事や闘気法の事ですかっり忘れていた。


「まだ全部案内したわけじゃないし、ソウジの体力が戻ったんなら案内を再開するか?シェスタにもこいつを届けないといけないし」


 そう言ってテムロは足元に置いておいた古びたランプを手に取る。


「そうだな。俺の方はもう大丈夫だし、案内の続きを頼もうかな」


「あいよ。じゃあ、クロード・・・・・」


「おう、俺はまだここでゆっくりしていくつもりだから気にせず行ってきな」


 テムロと二人で席を立ち、店の入り口へ。

 去り際にコークさんに食事をご馳走になったことを改めてお礼を言っておく。

 するとコークさんは笑顔で「いつでも来るといいよ」と言って手を振ってくれた。

 本当にいい人だ。

 店を出る直前にクロードが「明日のこの時間だぞ」と声を掛けてきた。

 俺はそれに「分かった」と答え、テムロと二人で店を出て村の案内に戻ったのだった。




          ♢       ♢      ♢     




 店を出ると日が傾き始めていた。

 感覚的に三時、四時ってところか?

 もう少しすれば夕暮れ時と言える時間になるだろう。

 そう思えば結構な時間を店で過ごしていたのだと思う。

 テムロに案内されるがまま村を歩く。

 案内されるのは畑や家畜小屋等、そう言った農作物関連の場所を案内される。

 まあ、テムロも言っていたがこのノザル村には店が三軒しかないのだから仕方がない。

 別にこの村が観光名所でもないのだから見所などあるはずもなく、今も田園畑が目の前に広がっているばかりだ。


「それで?次は何処を案内してくれるんだ?」


 田園畑の脇を通り過ぎると、その先には森が広がっていた。

 テムロに案内されるがまま、俺たちは森の入り口まで差し掛かった。

 どうやら次の目的地は森の中らしい。


「教会。そこが今日のラストだ」


「へぇ~教会か・・・・・」


 そう言えば、ランプの届け先は教会のシェスタて人宛てだったな。

 てか、こんな田舎村に教会なんてあるんだ・・・・・・口には出さないけど。


「・・・・・・お前今、『こんな田舎に教会なんてあるんだ~』とか考えてたろ」


「い、いやそんな事考えてないよ!」


「本当かぁ~?」


 やべっ、顔に出てたかな?


「まあいいけど。実際こんな田舎に教会がある方が珍しいし」


「そうなのか?」


「ああ。まあ、教会って言っても木造作りのこじんまりとした古い教会だけどな・・・・・・・と、見えてきたぞ」


 テムロが指を示す方に目を向けると、木々の隙間から建物が見受けられる。

 近づくにつれ、その全容が明らかになる。

 木造作りのこじんまりとしていて、所々補修したような跡が残る古びた建物。


「ここが本日のラスト、ノザル村唯一の教会だ」


 そう言ってテムロは教会の扉に手を掛けた。

 教会の中に入っていくテムロを追いかけるように俺も後を追って中に入る。

 ここに来るまでに陽が傾いて夕暮れ時を迎えてしまった為、教会の中は窓から差し込む夕日に照らされてオレンジ色に染め上がっている。

 外から見た通り、中はこじんまりとして決して広いとは言い難い。

 しかし、建物の老朽具合に比べて中は掃除が行き届いているのか、埃っぽさやカビ臭さなどはなかった。

 いくつかの長椅子が左右にあり、入り口から奥に伸びる身廊が真っ直ぐ伸びている。

 その身廊の先にはおそらく司祭とかが有り難い説教をする為の祭壇になっている。

 祭壇には確か、聖書台?と言ったか、教卓みたいのがあり、その奥には祭壇よりも高い位置に古ぼけた聖女か女神を模ったと思われる石像があった。

 その祭壇には数人の小さな子供達に囲まれた修道服に身を包んだ人がいた。


「よっ、相変わらずガキ共に絡まれてるなシェスタ」


「え?」


 どうやらテムロが声を掛けたのが件のシェスタさんらしい。

 テムロに声を掛けられてこちらに顔を向けたシェスタさんは、子供達の輪から抜け出してこちらに歩いてくる。


「どうしたのテムロ?こんな時間に」


「カジルおばさんかシェスタにランプを届けてくれって頼まれたんだよ」


「カジルおばさんが?わぁ~ありがとう!」


 そう言ってシェスタさんはにぱぁ~と笑顔になる。


(カワイイ・・・・・)


 笑った顔がとても愛らしい。


(て言うか・・・・・・)


 俺は視線をある一部に向けてしまう。いや正確には吸い寄せられた。


(胸、でかッ!)


 そこには修道服越しからでもわかるぐらいの大きな膨らみがあった。

 俺やテムロよりも頭一つ分は低いその体には不釣り合いな胸が、修道服越しでも判るぐらい突き出していた。

 しかもパッと見、体型も女性として魅力的な肉付きをしているように見える。

 清楚な雰囲気とはアンバランスなそれは、むしろ魅力の一つに見える。


(美里とより少し小さいか?けど、この大きさは反則だろ!それに・・・・・・)


 シェスタさんはベールを被っているのだが、そのベールから覗くのはなんと、驚きの髪色!

 ピンクなのである。

 アニメのコスプレなどで使うウィッグなどではなく本物、地毛だ。

 これにはビックリした。現世ではお目にかかれない天然物が、今目の前にある。

 普通ならそんなハイカラな色の髪なんて浮いてしまうが、シェスタさんは自然と溶け込んでいる。

 いや、むしろ似合っていて可愛い。シェスタさんの魅力をさらに引き立てている様に見える。


(マジか・・・・ピンクが似合う人なんて初めて見た)


 ピンク・・・・・ピンクかぁ~

 オタクの中でピンク髪と言えば『淫乱ピンク』等とよく言われるが、まさかこのシェスタさんが夜な夜な村の男共とイケない事を・・・・・

 ゴクリッ・・・・・


(・・・・・ハッ!いかんいかん!何馬鹿なこと考えてんだ俺は!人をそんな風に見たら駄目だろ!)


 等と馬鹿な事を考えていると、不意にシェスタさんがこちらに目を向けてくる。


「そう言えばこっちの人は?」


 小首を傾げて聞いてくる。その姿がまた可愛い。


「ソウジだ。この前言ったレッグボアから助けてもらった」


「ああ、この人が!」


 俺の話ってどこまで広まってんだ?まさかこの村全員じゃないだろうな。


「改めて、シェスタです。テムロを助けてもらって本当に、ありがとうございます」


 こちらに向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「あ、どうも。総司です」


 反射的にこちらも頭を下げてしまう。


「ソウジさん、本当にありがとうございました」


 ぺこり。


「いえいえ、こちらこそ」


 ぺこり


「いえいえ、そんな」


 ぺこり


「いえいえ、本当にこちらこそ」


 ぺこり


「いえいえ・・・・・」


「・・・・・何やってんだお前らは」


「「あっ」」


 気付けばシェスタさんと二人でお礼合戦をしていた俺達を、テムロの一声で我に返った。


「い、いやなんか反射的にな」


「私も何だか自然と・・・・」


「まあ、いいけどさ。ほら、これ」


 そう言ってテムロがカジルさんに持たされたランプを渡す。


「ありがとう。神父様の部屋のランプが壊れてて困ってたの」


「今度カジルおばさんにお礼言っとけよ?」


「わかってる」


 受け取ったランプを大切そうに抱える。その際にむにゅっ、と胸が変形する。思わずそちらに目が行ってしまう。


「ところで、ソウジさん」


「は、はいっ!」


 やべっ!胸ばっか見てたのバレたか?


「生まれは何処なんですか?ここら辺ではあまり見かけない顔立ちをしてますけど。あ、答えにくい事なら無理に聞こうとは思わないのでッ!」


 何だ、それか。一瞬焦ったぞ。


「それなんだがな。実はソウジは・・・・・・・」


 俺の代わりにテムロが説明してくれる。

 テムロから事情を説明されるにつれ、シェスタさんの表情が段々と悲し気な顔になっていく。

 話を聞き終えた後は憐憫な顔になっていた。


「それは・・・・大変でしたね」


「ああ、いや・・・・・・」


 嘘設定でここまで悲しそうにされると、何だか罪悪感が・・・・・

 ここは大丈夫だとアピールしておかないと。


「その、記憶が無くて困ることもあるけど、テムロ達みたいに親切な人達にも出会えたから、むしろ幸運だったと言うか・・・・・」


 あぁ、いまいち気の利いた言葉が出てこない。


「とにかく、俺は大丈夫なんで」


 何が大丈夫なんだよ、と自分に突っ込みたいが、今はこれぐらいしか言えない。情けない。


「まあ、そんなに心配すんなよ。しばらくは俺の家に置いて面倒見るからさ」


「え?」


 テムロ、お前今何て?


「面倒見るって、いいのか?」


 正直今後の事で悩んでいた。今手持ちの金もない。あっても前世の金であって、この世界の金ではない。

 なので、どこかで仕事をして金を稼ぎつつ、しばらくコークさんの宿屋にでも泊まろうかと言う、何ともお粗末な考えしかなかった。

 なので、今後の事を思えばこの申し出は非常にありがたい。


「あの時俺は死んでたかもしれなかったんだ。それを助けてもらった。なら、その借りを返すの当然だろ?それに困った時はお互い様、て言うしな」


「テムロ・・・・・」


 お前は、本当にいい奴過ぎるよ。


「だったら、私も何か手伝います!」


 シェスタさんが先程の雰囲気を吹き飛ばす勢いで言ってきた。


「ソウジさんは、その、一般の知識?も無くしているんですよね?なら、私でよければ教えてあげられると思います」


 確かにこの世界の常識などはまったくもって知識にないので教えてもらうのは嬉しいが・・・・・・・


「シェスタはこの教会でガキ共に一般的な知識を教えてるんだよ。だから教えるのには慣れてるから大丈夫だ」


 なるほど。日曜学校みたいなものか。それなら頼りになるな。


「それなら、お願いしますシェスタさん」


「はい。こちらこそお願いします。それと一つ、お願いしてもいいですか?」


 お願い?


「何ですか?」


「できればテムロみたいに呼び捨てにしてください。さん付けは何だか緊張しちゃって」


「ついでに、そのかしこまった話し方も変えたらどうだ?聞いてるこっちが気持ち悪いし」


 仕方ないだろ?こんな可愛い子を前にすると緊張するんだよ。

 それに俺はどっちかって言うと陰キャなんだぞ。しかもオタクの。

 美里や会社の同僚、仕事のおかげで大分マシになったが、陽キャに比べればまだまだ腰が引けるんだよ。

 しかし、何時までもそう言うわけにはいかない。この異世界で生活するなら、改善するべきことではある。

 ならば・・・・・・


「じゃあ、その・・・・・よろしくな、シェスタ」


「はい、よろしくお願いします。ソウジさん!」


「俺もさん付けはいいよ。口調も気楽に話してくれるとありがたい」


「わかった。じゃあ、よろしくね。ソウジ」


 これはこれでいいものだ。変にかしこまるよりもこちらの方がずっと気楽だ。


「それじゃ、教えるのは今度の・・・・・・」


「ねえねえ、シェスタお姉ちゃん。この人誰?」


 気付けばシェスタの足にしがみつく4、5歳程度の女の子がいた。

 それに釣られる様に、今まで遠巻きに俺達を見ていた子供達がこちらにやってきた。


「オジさん誰?どっから来たの?」


「なえねえ、あそぼ~」


「何だこのオッサン。悪い奴か?悪い奴なら俺が退治してやる!」


「こら!初対面の人に変な事言わないの!」


 ボカッ!


「痛ってーーー!!」


 哀れ、ガキ大将風の男の子が、おそらくこの中の一番の年長者であろう女の子から拳骨をもらって喚く。


「ねえ~あそぼ、あそぼうよ~」


 シェスタに絡んでいた女の子が今度は俺の方に絡んでくる。


「え?えぇ~??」


 気付けば子供達に囲まれてしまった。


「こ、こらこら!ソウジが困ってるでしょ!」


 子供達を宥め様とシェスタが奮闘するが、それも子供達からしたら面白いのか一向に収まる気配が無い。

 と、そこでテムロがパンッパンッ!と手を打って子供達の目をテムロに向ける。


「こいつはソウジって言ってな、俺の友達だ」


「フ~ン、テムロ兄ちゃんの友達か~」


「そっ、俺の友達。隣村から来ててな、しばらく俺の家に住むことになったんだよ。だから仲良くしてやってくれよ?」


「しょうがないな~テムロ兄ちゃんの友達なら仲良くしてやるよ!」


「ははっ、頼んだぞ」


「任せとけ!」


 おぉ!見事に場を収めたぞ。

 最初にガキ大将の男の子を納得させたのが効いたのか、他の子供達も俺の事をテムロの友達と認識してくれたみたいだ。


「子供の扱いに慣れてるな」


「まあな。小さな村だからガキ共の相手をするのが自然と限られてくるってだけの話なんだけどな」


 俺は逆に子供の相手はちょっと苦手なんだよな~

 実家にいた時は甥っ子達が遊びに来てて面倒を見ていたりもしていたが、子供のパワーは底なしで十以上年の離れた俺には相手をするのはしんどかった。

 パンパンッと今度はシェスタが手を叩いて子供達の注意を集める。


「ほらほら皆、日も暮れたから今日はここまで」


「「えぇ~!」」


 シェスタの解散宣言に子供達からブーイングの声が上がる。


「ダメよ。夜になる前に皆家にちゃんと帰る事!いいわね?」


「「は~い・・・・・」」


「よろしい!それじゃ皆、気をつけて帰るのよ?」


「「はーい!」」


 シェスタに促され、子供達は元気に駆けて行く。

 その姿が消えるまで俺達はその場に残って見守っていた。


「あれ?君は帰らないのか?」


 他の子たちは既に帰ってしまったが、子供達の中で一番の年長者の女の子だけが俺達の傍にそこっている。


「はい。私はシェスタお姉ちゃんのお手伝いをしてから帰るつもりなので」


 見た目11、12歳程なのによく気が利くいい子みたいだ。


「そうか。偉いね」


「あっ」


 自然と手が伸びて女の子のフワッとした栗色髪の頭を撫でる。


「えへへ・・・・」


 最初は驚いたようだが、それも撫でているうちに少し恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに笑う。

 このぐらいの年女の子は素直で可愛いな・・・・・・・一応言っておくが俺はロリコンではない。断じてない。


「あ、そう言えば自己紹介がまだでした。私、コロワって言います」


 女の子、コロワは自己紹介をしてくれた。


「改めて、ソウジだ。よろしくなコロワ」


「はい!」


 フワッとした栗色髪を大きく揺らしながら笑顔で頷くその姿は、やっぱり可愛い。


「それじゃコロワ、戸締りをするから手伝って?」


「うん!任せてシェスタお姉ちゃん!」


「手伝うか?」


 テムロの申し出を首を横に振って応える。


「大丈夫。すぐ済むから少し待って」


「わかった。ソウジとここで待ってるよ」


「それじゃ行きましょコロワ」


「は~い」


 そうして二人は教会の中に入っていく。

 残された俺達は特にすることも無いので世間話に花を咲かせた。

 と言っても殆どが俺が質問してテムロがそれに答えると言った内容だが、一つ一つ丁寧に答えてくれるから俺はとても助かった。

 その中で聞いたことだが、テムロとシェスタは二つ歳が離れた幼馴染だそうだ。


「あいつは昔っから俺の後をチョロチョロついて回ってたな~何て言うか、幼馴染ってより妹って感じだな」


「フ~ン」


 しばらくシェスタとテムロの昔話を聞きながら時間が過ぎる。

 その時の話だが、テムロがシェスタの事を話すときは、いつもより穏やかで優しい顔をしていたのが印象的だった。

 まあ、幼馴染なんだし、それだけ大切に思っているって事かな。

 そうして話し込んでいるとシェスタとコロワが戻ってきた。


「お待たせ。後はここの鍵を閉めて終わりだよ」


 最後に教会の正面扉の鍵を閉める。


「よし。じゃあ帰りますか」


 テムロの合図とともに俺達は教会を後にし、村へと歩き出す。




          ♢       ♢       ♢           




 俺達は村の中央広場で別れてそれぞれの帰路へ。

 テムロの家に辿り着くころにはすっかり日も沈んでしまった。

 家に入り二人揃って広間の椅子に腰かける。


「どうだった、この村は。やっていけそうか?」


 おもむろにテムロが聞いてくる。俺は今日あったことを思い出しながら話し始めた。


「そうだ・・・・・・住んでる人もいい人達だし、この村の雰囲気も悪くない・・・・・・いい村だよここは」


 今日だけで色々な事があったのに、俺の口から出てきたのはそんな言葉だけだった。

 けど、それを黙って聞いていたテムロは「そっか」と言って笑ってた。

 今後の事は明日から考えようと言う事となり、テムロは夕食を作ってくれた。

 コークさんの作ってくれた料理に比べたら味わ劣るが、美味かった。

 食事が終わるとテムロは桶に湯を張り、手拭いと一緒に渡してきた。


「これで体拭いて今日はもう休みな。部屋はお前が寝てた部屋をそのまま使ってくれて構わないからさ」


「ありがと」


 差し出された桶と手拭いを受け取る。


「後これ、寝間着」


 簡素なシャツとズボンを渡される。


「俺も今日はもう寝るよ。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 そう言ってテムロは自分の部屋に引っ込んでいく。


「俺も今日はさっさと寝るかな」


 与えられた部屋に入りランプに明かりをつけ、上着を脱いで桶に入っている湯に手拭いを浸して搾り体を拭いていく。

 あらかた拭き終わるとテムロに渡された寝間着に着替え、ランプの灯を消しベッドに潜り込む。


「今日は色々あったな~・・・・・」


 カジルさん、コークさんにシェスタ、コロワと子供達。そして、ハンターのクロード。

 この世界が異世界で、この世界には俺の知らない事がいっぱいあって、今までの常識が通用しないこの世界に不安が込み上げてくる。

 けど、今日出会った人達の顔が頭に浮かぶと、不思議とと不安な気持ちが和らいでいく。

 これから先、俺はどうなってしまうのか分からないが、まずは出来る事を一つずつやっていこう。

 まずは明日からの闘気法の訓練だ。

 そんなことを考えていたら次第に意識が眠りの底へ落ちて行った。

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