幕間 01
目の前で桜の花びらが舞い散っていた。
それは3月の中頃から咲き始め、4月に入る今日には満開の花を咲かせていた。
大学のキャンバスに佇む俺は、そんな桜をボケっと眺めていた。
周りは入学したての若者たちが、これから過ごす大学ライフに期待と興奮を宿した目で輝いている。
そんな中で俺だけがこうしてボケっとしているのは、傍から見たら異質に見えるだろう。
別に俺だって大学生活に期待していないわけではない。ただ、今までの事を振り返ると、こんな俺が充実した、リア充と呼ばれる生活が送れるとは思わないだけだ。
そりゃあ、俺だって大学で気の合う友人を作ったり、あわよくば彼女なんて作ったりなんかして、なんて妄想もあるけど。
けど、将来の目的とか、そう言うものもなく、ただ漠然と大学もで進んだだけの俺には一生縁がないことの様に思う。
まあ、こう言う考えをしてしまう時点で負けなわけで・・・・
せめてまともな就職先を選べるようにだけはしたいし、勉強だけは気合を入れなければ。
などと後ろ向きな考えをしている俺とは別に、周りの連中は楽しそうに過ごしている。
何をそんなに楽しそうにしているのかと思うが、それは無理もない。なぜなら今はサークル勧誘の大戦争が勃発しているからだ。
大学のサークルと言えばリア充の基本。それを皆理解しているのか、サークルに誘う方も誘われる方も皆、熱心にどこのサークルに入るかで大いに賑わっている。
それを別世界の様に眺めている寂しい男が一人。ソウデス、ボクデス(泣)
しかし俺には救いの道が一つだけある。それは高校時代の先輩がこの大学にいて、大学に合格したら先輩が所属するサークルに入らないか?と、誘われているのだ。
そのサークルとは、『アニメーション研究会』と、言う書いて字の如く、ただのオタクサークルである。
けど、俺もオタクである事を自覚しているし、実際高校では漫研に所属したから、アニ研に入ることに抵抗はない。
先輩も悪い人ではないし、実際興味もある。まあ、オタクなんて大体それ関連に惹かれやすいだけなのだが。
ともかく俺はもうすでに入るべきサークルは決まっている。だから他の皆と違いここでボケっとしている訳で。
そうしてボケっとサークル勧誘に勤しむリア充共を眺めていると、スマホに着信が来た。画面を見てみると、そこにはアニ研に誘ってくれた先輩の名前。出てみれば電話口から先輩の声。
『よう、待たせたな天野。今どこだ?』
「今正面玄関の脇にある桜の木にいます。それより先輩、早く来てください。じゃないと目の前のリア充共に石投げそうなんで」
「あははっ!分かったよ、すぐ行くから。それまでダークサイドに堕ちるなよ?」
「分かりました。待ってますんで」
じゃあなと、言って先輩からの通話を終える。
「ふぅ・・・・また暫く待ちだな」
先輩が来るまでの間、スマホでもいじりながら待つかな。
そう思い、最近ハマっている『パラレルストライク』、通称『パラスト』と呼ばれるアプリゲームを起動。
デフォルトされたキャラクターを、ピンボールの様に敵にぶつけていく、単純なゲームだが、色々なキャラクターやスキルなどで戦略が広がるゲームなので、意外と奥が深い。
しばらくパラストに集中していると、サークル勧誘で人や呼び込みの声で混沌とした中で、一際大きな声が上がった。
そちらに顔を向けるとチラシを女の子の手に強引に押し付けているチャラ男が、女の子にグイグイ勧誘していた。
「超カワイイじゃん!俺、超タイプ!君、よかったら内のテニスサークルに入ってよ!」
「い、いえ。わ、私、特に興味ないんで・・・・」
何だあのチャラ男。勧誘するのにお前の好みが関係するのかよ?馬鹿なのか?
「えぇ~そんな事言わないでさぁ、一回ヤッてみたら結構気持ちいからさぁ、もしかしたら病みつきになっちゃうよ?」
「だ、だから、興味ないんで・・・・」
一回『ヤッたら』て、何だよ。アレか?頭がお花畑になる薬的な何かか?
それは置いといて、あんなデカい声でアホ丸出しな事言ってて恥ずかしくないのかよ?周りの皆も冷めた目で二人のやり取りを見てるし。
あぁ、彼女完全に引いてるよ。これだから空気読めないチャラ男は嫌なんだ。
「いいからさ~ちょっとだけ、ね?体験入部だけでもいいからさ~」
そういってチャラ男が彼女の腕を掴もうと手を伸ばした瞬間・・・・・
「ほ、本当に興味なんでっ!」
彼女はチャラ男の手から逃れるように体を反転させて走り去って行ってしまった。
「・・・・・・チッ!」
遠ざかる彼女の背中を呆然と見ていたチャラ男は、舌打ちを一つしてその場から去っていった。周りから『ダッサ~ww』と、言う声に見送られながら。
「ありがちな展開だったな~。あの展開ならイケメンが颯爽と登場して助けるのが定番だけど、そこまで都合よくはいかないか。それにしても・・・・・」
俺は彼女が走り去っていた方に顔を向けるが、既に彼女の姿は見当たらない。
「・・・・・・・・可愛かったな」
それが俺が彼女、美里を初めて目にした時だった。
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