第4話 漫画のような出来事
「見せるのはいいが、ここでは止めてくれよ?」
コークさんが調理場から声を掛けてくる。
確かに店の中だと何かと迷惑になってしまうからな。
てか、姿が見えないと思っていたら、いつの間に移動してたの?
「なら、コーク。店の裏使わせてくれ」
「まあ、いいだろう。けど、あまり派手な事をして店を壊さないでくれよ?」
「分かってるよ!」
コークさんからの注意もクロードには問題などないと言わんばかりに断言してみせる。
「んじゃ、裏に行くか」
コークさんに許可も貰い、店の裏に向けてクロードが歩き出し、俺とテムロはそんなクロードに続くのであった。
♢ ♢ ♢
店を出てそのまま正面から裏に回る。
「ここなら多少暴れたところで問題ないだろう」
確かにクロードの言う通り、周囲にコークさんの店以外建物が無いおかげか、広さはそこそこにある。
周りにあるとすれば、倉庫代わりにしていると思しき小屋があり、その脇には薪割の途中だったのか薪が数本と斧がそのままになっているぐらいか。後は森が近くにあるぐらいだ。
「よし。早速『闘気法』実演・・・・の前に、軽く『闘気法』に関して説明しておく」
まあ、いきなり見せられても理解できないし、ある程度の説明は聞いておきたいな。
「分かった、聞かせてくれ」
「まず、『闘気法』を使う上で最初に理解しておかないといけないことが2つある」
そう言ってクロードは指を2本立てて説明する。
「まず一つ、この世界に満ちる『マナ』を感じ取る事」
「マナ?」
「マナって言うのはな、簡単に説明すると目に視えないエネルギーみたいなものだ」
「視えないんだ」
「普通の人間はな。まあ、一部の種族や、生まれながらにマナを視る事ができる能力を持った人間ぐらいなもんだ。滅多に居ないがな」
「ふむ」
俺にはそのマナとやらは視えないから、俺にはその能力は無いのか。残念。
「勿論、俺も視ることができない」
「俺は視えないし、感じないんだよな」
そうか、テムロも俺と一緒なのか。
じゃあ、どうやってクロードは『マナ』を感じてるんだ?
「視る事はできないが、訓練すればある程度はマナを感じ取ることができるようになる」
やはり、地道な訓練の賜物と言う訳か。
「二つ目に、この『マナ』を自身に取り込み、『マナ』から『闘気』に変換する」
「闘気?」
「闘気ってのは、闘気法を使用する時に使うエネルギーみたいなものだ。これとは別に、魔術を使用する時は、『マナ』を『闘気』ではなく、『魔力』に変換して使用する」
つまり、闘気法や魔術を使うには、まず『マナ』とやらを感じ取ることと、自身に取り込んで用途に合わせて『マナ』を変換することが絶対条件になるわけか。
てか、この世界には魔術も存在してるのかよ。いよいよ異世界ファンタジーだな。
「と、ここまでが最低限出来ないといけない事だ。でだ、肝心の闘気法を使う時だが・・・・・口で説明するより実際に見せた方が早いか」
そう言ってクロードはスッと中腰になり構えを取った。
「いいか?よく見てろよ?」
「お、おう」
何が始まるんだ?
さっきまでの陽気なクロードの雰囲気から真剣なものに変わる。
自然と俺とテムロは体を強張らせる。
「フンッ!」
裂帛の気合を込めてクロードが力を入れると・・・・・
「おおっ!」
「どうだ?これが闘気法だ」
不敵な笑みを浮かべるクロードの体を覆う様に、赤いオーラの様なものが、その体を包み込んでいる。
「すげー!これが闘気法か!」
テンションが上がる俺とは対照に、テムロは落ち着いて居る。
「いつ見ても、やっぱスゲーよな」
「何だよ、こんな凄いの見て何でそんなに落ち着いてんだよ」
「ソウジは記憶が無いから新鮮に映るだろうけど、俺は見慣れてる、とまではいかないけど、知ってるからな」
あ、そうか。テムロにとっては常識なんだよな。
「はっはっは!いいリアクションありがとよ。まあ、これは闘気をそのまま体に纏わせてるだけなんだがな」
「俺からすれば十分凄いけどな」
テムロがどこか羨望の混じった声で感想を述べる。
もしかして、テムロもハンターに憧れでもしていたのだろうか?
あるんだろうな。だってこれ、滅茶苦茶カッコイイぞ!
見た感じどこかの戦闘民族みたいだし。
「体に纏わせただけってことは、他にも色々出来たりするんだろ?」
少し期待しながら聞いてみる。
するとクロードはニヤリと口を歪め、自信満々な顔になる。
「当然。ここからが『闘気法』の真骨頂よ」
そう言って、クロードは森の方に歩いて行く。
俺達もその後に続いて行く。
クロードは森に入る手前で足を止める。
正確には森に入る前にある、大人の背丈ぐらいはある岩の前だ。
「ソウジも言った通り、闘気には色々な使い方、技がある。その中でも初歩と言えるのが『強化法』と言ってな、言っちまえば身体能力を強化する技だ。その初歩の技も鍛え方によっては・・・・・」
クロードが腰だめに右腕を構える。まさか・・・・・・
「オラッ!!」
ガンッ!!
鍛え抜かれた体から放たれた右の拳が岩に直撃する。
すると・・・・・
ピキッ・・・・と岩の表面に亀裂が走ったと思ったら、みるみる岩全体に亀裂が広がり、ついには・・・・
「おおっ!!」
バンッ!!
岩はガラガラと音を立てながら崩れた。
「お、おおおおおお!!!!!」
その、あまりにも現実離れした出来事についつい、雄たけびを上げてしまう。
マジか!マジかよ!!素手で岩砕いたよ!
漫画か?アニメか?普通の人間がこんな真似できるのか?
いや、出来ない。
やっぱりここは・・・・・!
(異世界なんだ!!!)
♢ ♢ ♢
「ど、どうよ。こ、これが・・・・闘気法、の・・・・技、『闘術』、ってやつよ・・・・・ハァハァ」
どっと疲れたように、クロードが膝に手を置いてくたばってしまっている。
「おいおい、クロード大丈夫か?無茶すんなよ」
そんな疲れたクロードに、呆れながらテムロが言葉を投げかける。
「だ、大丈夫に決まってるだろ!ちょっと普段しない事したもんだから、力の加減を間違えただけだ!」
「そっちの方がダメだろ」
「い、いいだろ別に・・・・」
テムロはやれやれと言った具合に首を振る。
「そんな調子で魔物と戦えるのかよ?」
そうこうしていると、クロードの息が落ち着いてきた。
「ハァ~・・・・俺は剣士だからな、闘士みたく拳で戦う訳じゃないんだよ」
「剣士には剣士の戦い方があると?」
「まあ、細かいことは省くが、剣士は大概強化法を使って身体能力を上げてから、獲物に闘気を纏わせて闘うのが基本だからな」
「でも、その理屈なら獲物じゃなくて、拳に闘気を纏わせたらいいんじゃないのか?」
テムロからもっともな指摘が飛んできた。
「確かにそうなんだが、俺にはその技術が・・・・ぶっちゃけ才能がない」
「それは才能に左右されるものなのか?」
俺は首を傾げて聞いた。
「あぁ、ある程度は訓練を積めばそれなりにはなるが、所詮『それなりに』だ。本当に才能があるやつは、その先に行ける」
才能一つでそこまで差ができるものなのか。
なんかちょっと、納得いかない。
やっぱり努力した人が強くあってほしいと思ってしまう。
まあ、現実はそんなに甘くはないだろうが。
もし天才と呼ばれる人間がいたら、どれだけ努力しても勝てる気がしないし。
「納得いかないか?」
「まあ・・・・な」
いきなりテンションを下げてしまった俺を気遣ってか、テムロが話しかけてくる。
「気持ちはわかるよ。でもこればっかりはしょうがないさ。俺だって闘気法を使いたくても、肝心のマナの感知は出来ない。その時点で才能無し認定だからな」
ああ、そうか。
テムロは昔から才能が無いことを理解しているんだもんな。
ここで俺が変に落ち込んでたら駄目だな。
空気を察してかクロードが明るく声を掛けてくる。
「まあ、アレだ!才能が無くっても努力次第で強くなるんだ!常に高みを目指す志を忘れない事だな、うん!」
取って付けたようなセリフだが、そうだな、大事なのは常に高みを目指し続ける事だ。
そうすれば、何時か届くかもしれないからな。
「そう言えば、ソウジはあの時レッグボアを倒したのって、闘気法だよな?」
思い出したようにテムロが言ってくる。
「そうか!そう言えば言ってたな。ならソウジは闘気法を使えるってわけか」
「確かにあの時、右手から何か出てきたが、あの時の事は正直うろ覚えだぞ」
「何だそれ?咄嗟に体が動いたって事か?」
「そう、だな」
正直それも何だかしっくりこないんだよな。
あの時は確か、体の奥から熱い何かが込み上げてきて・・・・駄目だ、記憶がはっきりしない。
腕組みをして何やら考え込んでいたクロードが言ってくる。
「ふむ・・・・・一度でも使えたなら、これは試してみる価値はあるぞ?」
「まさか、やってみろってのか?」
「無意識かどうかはさておき、使えったてことは、それはマナを感じ取って闘気に変換したってことだ。つまりソウジには、闘気法を使う為の基礎が既にできてるってことだ」
「いやでも、俺、あの時マナなんて感じなかったし・・・・」
「頭がパニックててマナの存在を感じられてなかっただけとか?」
「確かに、それはありうるな」
「でも、それっだたら俺が闘気法を使えたのは変だろ?」
「う~ん・・・・それもそうか」
マナを認識できてないのに闘気法を使えたら、クロードの説明してくれた内容が矛盾する。
つまり、もっと別の要因があったと考えるのが妥当だ。
だが・・・・
「・・・・・・・・考えても分からんな」
暫くうんうん唸って考えてみたが、三人そろってお手上げ状態だ。
そもそもこの中で一番闘気法について詳しいクロードが分からなければ、いくら俺とテムロが考えたところで判るものでもない。
「考えても仕方な。ここはやっぱ、一度試しにやってみるしかないな」
「為っすて言っても、マナの感じ方なんて分からないぞ」
「そこは俺がアドバイスしてやるから、ものは試しに一回チャレンジしてみな」
「はぁ、まあ、分かった、やってみるよ」
出来るかどうかはさておき、試してみるのも悪くないか。
それに、使えたら漫画のヒーローみたいでカッコイイし。
「それで、まずはどうしたらいいんだ?」
「まずは、目を閉じてみろ」
クロードの指示に従い目を閉じる。
「音、匂い、肌で感じる感触以外の気配を探れ」
音、匂い、感触、それ以外の気配・・・・・
「・・・・・・・わからん」
「もっと意識を集中させてみろ。一度は出来たんだ、諦めないでやってみな」
そうだな、諦めないでやってみよう。
もっと、意識を、集中・・・・・・・
「・・・・・」
集中・・・・・集中・・・・・・
聞こえているはずの音が意識から消える。
「・・・・・・・・・・・」
集中・・・・・集中・・・・・・集中・・・・・・
匂いが、肌で感じていた感触が意識から消える。
そして・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
何か、ある。
小さな、とても小さなものが、周囲一帯をたくさんの数が彷徨っている様にある。
これが、『マナ』?
と、思った瞬間。
「ッ!!」
体の中から、正確には胸の真ん中が、火が付いたように熱を帯びていくのを感じる。
するとどうしたことか、周りにあるマナと思わしき気配が、俺に吸い寄せられるように動き始めた。
やがて気配が俺の体に吸い込まれるように消えていく。
そして、気配が消えるのと同時に、胸の熱が先程よりも熱さを増してくる。
「お、おい!クロード、これ・・・・!」
急な変化に驚いて、目を見開いて叫んでしまう。
「慌てるなっ!そのまま今感じ取っている熱を、体全体に広げていく様にイメージしろっ!」
「わ、分かった!」
クロードの強い言葉に押されるように、俺は再び目を閉じて、クロードのアドバイスに従い、熱を広げていくイメージを強く頭の中に描いた。
すると、胸から徐々に体全体に熱が広がっていくのが感じられる。
しかし、熱が広がるスピードは遅く、中々体全体に熱が伝わり切れない。
「もっと意識を集中させろ!」
「ッ!!」
クロードの言葉にさらに意識を集中させていく。
そうして集中する事、三分、いや、五分は経っただろうか?ついに頭からつま先まで、熱が広がり切ったのを感じた。
「「おおおおぉぉぉぉぉ!!」」
それと同時にクロードとテムロがいきなり大声を上げる。
目を閉じて集中していた俺は、その声に驚いて思わず閉じていた目を開いてしまう。
「い、いきなり叫ぶなよ!ビックリするだろうが!!」
「ソウジ、お前スゲーよ!」
「は?何言ってんだテムロ」
何をそんなに興奮してんだよ。
「ソウジ、自分の体をよく見てみろ」
え?
「あ・・・・・・」
クロードに言われるがまま、自分の体に視線を移すと、そこにはありえない現象が起きていた。
体から青い光が体全体を包み込んでいる。
その光は先程クロードが見せてくれた闘気法の光よりも弱弱しく頼りないものだが、確かに俺の体を光が包み込んでいる。
「・・・・・・・・・・」
これ、本当に俺が・・・・・・
「やったな、ソウジ」
「本当にスゲーよお前」
呆然としていた俺は、二人の賞賛の言葉が聞こえてくるも、どこか遠くに聞こえるような気がした。
反応が無い俺を怪訝に思い二人が顔を見合わせるて首を傾げる。
「・・・・・・・・や」
「「や?」」
「やっっっっったあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
空の彼方まで響けと言わんばかりに天に向かって全力全開で叫ぶ。
その姿をクロードとテムロは苦笑しながら、しかし、どこか暖かく見ていた。
俺は苦労の末、闘気法を使うことが出来たのだ。
♢ ♢ ♢
闘気法をマスター・・・・・ではなく、使うことが出来た。
これは、もうテンションアゲアゲですわ。
と、思ったら。
「あ・・・れ・・・・・?」
視界がグニャりと歪む。そうかと思えば今度は全身から力が抜けていく。
「くっ」
立っていることが出来ず、思わずその場で膝をついてしまう。
「どうしたソウジ!大丈夫か!」
「あ、ああ、何とか、な。けど、力が入らん・・・・・」
突然膝をついた俺の元に駆け寄ってきたテムロに応えるも、正直声を出すのも億劫おっくうだ。
「無理もないな。何せ初めて闘気法アーツを使ったんだからな。俺も最初はそうだった」
懐かしき思い出に浸っているようにクロードがうんうん頷いている。
つか、こうなるってわかってたなクロード。
「そう言えば、レッグボアを倒した時もソウジは闘気法アーツを使った後気絶したな」
「あぁ・・・・そうか。そう言えばそうだな」
あの時もそうだが、闘気法アーツってこんなに疲れるものなのか。
そう言えばクロードも岩を砕いた時も肩で息してたもんな。
「力の加減が分からずに全力でやればそうなるさ。まあ、それも最初だけだ。慣れればちゃんと使えるようになる」
「そんなものか?」
「そんなものだ。実際俺がそうだったからな」
事も無げに言ってくれるが、俺とクロードでは実績も経験も開きがあり過ぎて参考にならん。
「しかし、これは目出度い事だぞ?俺が傍でアドバイスしていたとは言え、短時間で使えるようになったんだからな」
俺を称える様に満面の笑顔で肩を叩く。
なんか、ストレートに褒められると体がむず痒いな。
「なあ、一旦店に戻らないか?ソウジもこんな状態だし」
「ああ、そうだな。一度戻って休もう。なに、心配しなくても少し休めばちゃんと回復するさ」
「分かった」
「ほら、掴まれ」
テムロが俺の腰に手を回して立ち上がらせてくれる。
「サンキュ」
テムロに肩を貸してもらいながら、俺たちは一度コークさんの店に戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます