第3話 その職業は、ハンター

「クロードは、その、本当に冒険者なのか?」


 アニメや漫画では定番だが、現実にそんな職業は存在しない。

 もしリアルに「俺は冒険者になる!」なんて言えば、指をさされて笑われるだけだ。

 悪く言ってしまえば、『冒険者』とは、世間一般では子供の夢物語、オタクの妄想、そんなところだ。

 けど、ここが本当に異世界ならば、『妄想』は『現実』に変わる。


「おう。これでも大陸中を冒険して回ってんだぜ?」


 ドヤ顔を浮かべながら胸を張るクロード。

 それが本当なら、かなりクロードへ向ける印象が変わるぞ。


「冒険者・・・・ハンターてのは、具体的にどういった事をするんだ?」


「ハンターの主な仕事は、未開の土地の調査や『アーティファクト』の発掘なんかが主な仕事だな」


 未開の地の調査は分かるが、『アーティファクト』?なんだそれは。

 普通に考えたら『遺物』ってことだよな?

 けど、今までの流れから考えればそのまま『遺物』と言う意味ではないはず。

 考えても分からない。ここは素直に聞くべきだ。何せ今の俺は、記憶喪失(自称)だからな。


「アーティファクトって?」


「そうか、記憶が無いならアーティファクトの事も分からないか。アーティファクトってのは神や精霊、天使や悪魔が作った、もしくは使用していた道具の総称だ」


「神、精霊・・・・・それに、天使と悪魔が作った?」


「そうだ。アーティファクトは様々な物がある。例えば折れることも錆びることも無い剣とか、水中で息ができる指輪、空を飛ぶ靴なんて物もあるんだぜ」


「おぉー!マジか、すげー!」


 アーティファクト、マジやべぇ。空を飛ぶとか憧れるぞ。

 俺の子供のような反応に気をよくしたのか、嬉々としてクロードの説明が続く。


「そうだろう?まあ、アーティファクトにも当たりはずれがあるから、全てのアーティファクトが凄いわけじゃない」


「使える物もあれば、使えない物もある、と?」


「まあな。アーティファクトは―――――」


 クロードの話を要約するとこうだ。

 この世界には、アーティファクトと呼ばれる道具があり、アーティファクトには大きく分けて二つの種類がある。

 その一つが『魔具』

 この魔具と呼ばれるものは、自然界の力が宿っている物の事らしい。

 使用用途は主に日常生活。

 例えば、熱を生み出す魔具を使って、冷めた料理を温めたり、逆に冷気を生み出す魔具で食材を保存したりと、要は電子レンジや冷蔵庫等、原動力として使用したりするのが魔具。

 そしてもう一つが『魔器』

 この魔器は主に戦闘などに用いる物の事を指す。

 大岩を真っ二つにしてしまえるほどの切れ味を持つ剣や、熱を全く通さない鎧、通常よりも速く走れる靴、等々。

 ゲームなどでお馴染みの武器防具がこれに該当する。

 やべぇ・・・・アーティファクト、マジやべぇ。


「そんな凄い物を探すために世界中を旅してるのか」


「そう言う事だ。だが、それは言っちまえばただの『ついで』だ」


「ついで?」


 こんなロマンある事が『ついで』とは?


「いいかソウジ?確かに、魔具や魔器を探し出すのもハンターの仕事だが、それだけじゃない。俺達ハンターには共通の『夢』があるのさ」


「共通の、夢?」


「そう、夢だ」


 世界中を冒険する者達の、共通の『夢』、それは・・・・


「一体なんだ?」


「神器だ」


「神器?」


「そうだ。神器ってのは神の力そのものが宿ったアーティファクトの事だ。その神器を見つけて、この手で掴むっ!それが、俺達全てのハンターの『夢』だ!!」


 神の力が宿るアーティファクト・・・・・・・凄い!

 ヤバい。字面だけでも妄想が掻き立てられるぞ。


「その神器ってのは、そんなにすごいものなのか!」


「まあまあ、落ち着けソウジ」


 おっと、神器なんてロマン溢れる単語を聞いたものだから、ついついテンションが上がってしまった。

 しかし、それはしょうがない。なぜなら神器と言えばゲームや小説なんかに登場する、伝説級のレアアイテムと相場が決まっている。

 テンションが上がらないわけがない。


「さっきも言った通り、神器には神の力が宿っている。伝説や伝承に登場する神は天を裂き、地を割る程の力を振るったと言われている。そんな神の力が宿ったアーティファクトを手に入れれば、それこそ世界を手にしたも同然よ!」


 確かにそんな力が手に入れば、向かうとこ敵無しだ。

 世界を手に入れ、王を、いや、神を名乗ることだってできる可能性がある。


「ま、神器には他にも色々な力が宿った物もあると言われているから、一概に世界を手に!とは言えないかもしれないがな」


「あれ?神器って一つじゃないのか?」


「厳密にどれだけの数があるのかは、正直分からねえ。何せ伝説や伝承に出てくる神の数だって結構な数になる。その神全ての神器があるかどうかも分からん。『神の数だけ神器は存在する』なんて言う奴もいるぐらいだからな。だから神器の数、その力はどういったモノなのか分からねえ」


 この世界にどれだけの神がいるのか知らないが、神には色々な役割を持った神がいる。

 その全ての神、一柱に付き一つの神器が存在していたら、もう既に神器は世に出回っていても不思議ではない。

 なら・・・・・・


「誰か、もう神器を見つけた奴はいるのか?」


「どっかの国が神器を所持している、何て話もたまに聞くが、本物かどうかは分からねえ。『俺は神器を所持している』とか言ってるどっかの馬鹿もいるぐらいだから、ほとんどの奴は半信半疑、てとこだな」


 何か神器の信憑性が無くなってきたぞ。本当にあるのか?


「何だよその顔は?信じてねえのか?」


「いや・・・・別に」


 どうやら顔に出ていたらしい。

 クロードは俺の顔を見て、分かってないなお前は、と言った感じで首を振る。

 ・・・・・・・・・・ちょっとイラっとくる。


「まあ疑いたくなる気持ちはわかる。けどな、実際神や精霊が作った魔具や魔器があるんだ。神器があってもおかしな話じゃないだろ?」


「まあ、な」


 クロードの言っていることは分かる。

 魔具や魔器があるのだから、神器だけ無い、とは言い切れない。

 オタクの性か、この手の話には興味津々で話を聞いていたが、冷静に考えると俺にとってはやはり眉唾物だ。

 何故なら俺はまだ、その魔具や魔器を実際に見ていないのだから。

 見たことも無いものに対して、信じろと言われても、『はい』とは答えられない。

 そう思っていると、今まで黙って事の成り行きを見ていたテムロが口を開いた。


「まあ、普通神器なんて眉唾物だもんなぁ」


 なるほど。テムロから見ても神器の話は嘘くさいと。


「かぁ~~~!!これだから男のロマンを分かんねえ奴は嫌だね!」


 テムロの発言を暴言と取ったのか、クロードが憤慨している。


「だってさ、あるかどうかも分からない物に命懸けとか、正直どうかと俺は思うね」


 今までテムロはハンターに思うところがあったのか、話は続く。


「アーティファクトを探すのだって、基本魔物や魔獣がうようよしてる遺跡とか迷宮だろ?命がいくつあっても足りないよ」


 やっぱりアーティファクトってそう言った場所にあるんだ。

 しかも魔物や魔獣って、つまりレッグボアみたいなやつが他にも一杯居るって事だろ?それは死ねるわ。


「だから、こうして鍛錬も欠かさずやって強くなってんだよ!」


 ムンッ!と筋肉に力を入れてマッチョアピール。

 ・・・・・・・キモイ


「それでも、クロードでも勝てない相手だっているだろ?」


「そ、それはそうだが・・・・」


 図星らしい。


「ほら、やっぱ命懸けたっていいことないって」


 テムロの言っている事はもっともだ。

 わざわざ命の危険を懸けてまでやる事ではないだろう。

 しかし・・・・・・


「だからこそだ!命を懸けてやるからこそ、『夢』があるんだよ!」


 そうなのだ。

 クロードの言っていることは、冷たい言い方だが青春物語のような陳腐な話だ。

 けれど、今まで話をしていた時のクロードの顔を思い出す。


(眩しかった・・・・・)


 目をキラキラとさせて、まるで子供のように語るその姿は、好感が持てて、同時に嫉妬もした。


(美里と結婚する為に、頑張って働いていた俺も、こんな感じだったのかな?)


 それこそ命を削る様な思いで仕事に励んだ。

 しかし、結果は最悪な形で迎えた。

 だから、『夢』を語るクロードに嫉妬した。

 俺は失敗して、惨めな思いをしたのに、クロードは今も『夢』に向けて走っている。

 それが俺には憎く思えた。

 ・・・・・・・けど、同時に応援をしてやりたい気持ちもあった。

 惨めな結果になってしまったが、今までやってきた事が無駄だったとは・・・・・・・思いたくない。

 自分の行動を正当化して誤魔化してるだけかもしれないが、それでも、そう思っていなければ、本当に心が折れてしまう。

 クロードの『夢』を聞いて、俺も何か頑張れるような、生きる目標みたいなモノを、探してみようか、なんて、そんな風に思ってしまった。

 我ながら実に単純で、子供臭い考えだが、少し前向きになれた。

 だから――――――


「クロード」


「ん?」


 テムロと言い争っていたクロードがこちらに向き直る。

 俺は、今の俺の素直な気持ちをクロードに届けよう。


「俺は、クロードの『夢』を応援する。いつか、クロードの『夢』が叶うって。だから、応援する。がんばれクロード・・・・・信じてるぞ」


 ガツッとクロードの胸に拳を当てる。

 かなりくっさい台詞と行動だが、今はこれが俺の素直な気持ちだ。


「お、おま、ソウジ、お前は・・・・・・」


 目に涙を滲ませ、鼻水を垂らした顔面がとてもやばい絵面になってるぞクロードよ。

 と、次の瞬間・・・・・・・


「うおぉぉぉぉ!!ソウジ~~~!!!!!」


「ギャぁぁぁ~~~!!」


 ガシッ!とクロードが俺に抱き着いてきた。

 それはもう全力で。


「お、お前、なんていい奴なんだ!うわぁぁぁぁ!!」


「止めろ!泣くな!!抱き着くな!!!鼻水が顔に付く!」


 ぎゅ~~~と気持ち悪いぐらい抱き着いてくる。

 てか、メキメキと背中と腰辺りから嫌な音が!


「いたたたたたたたっ!死ぬ!マジで死ぬ!!」


「うわぁ・・・・・・」


 ドン引きしたテムロを他所に、俺はしばらくこの地獄を味わうことなった。




         ♢        ♢        ♢




 死のハグから解放された俺は床に手を付いて死にかけていた。


「死ぬかと、思った・・・・・」


「いやぁ~悪かったな、ははっ!」


 謝って済む問題かっ!


「まあ、その無駄に鍛えられた筋肉に締められたら、普通死ぬわな」


 他人事だからとすまし顔で言ってのけるが、テムロよ、肉体は死んでいないが精神は死んだも同然だぞ。


「クロード、お前ハンターなんだから、もう少し一般人には手加減しろよ」


「だから、悪かったって」


「大丈夫か?」


「お、おう。何とかな」


 テムロが差し出した手に掴まり立ち上がる。


「良かったな。クロードが感極まって闘気法を使ってたらマジで死んでたぞ」


「い、いくら何でもそれぐらいの制御はできるわ!」


「あ~はいはい、分かった分かった」


 闘気法とな?


「なんだ、その『闘気法』てのは」


 拳法かなんかの類か?


「闘気法てのは、戦闘には欠かせない必須スキルの事だ」


 戦闘には欠かせない必須スキル・・・・・


「へぇ~!そんなのまであるのか」


 これってアレだよな?ゲームで言う攻撃スキルとか、アビリティとか、そう言うやつの事だよな?


「クロードはその『闘気法』を使えるのか?」


「当然!何だ、興味あるのか?」


 それはもちろん!


「ある!」


 俺の答えにクロードは喜色満面の顔になる。


「そうかそうか!興味があるか!なら、特別に見せてやるよ」


 なんだ、アレか?もしかして自慢したかったのか?

 しかし、見せてくれるなら何でもいい。

 アニメや漫画のキャラクター達が魅せる、カッコいい戦闘シーンの再現が見られるかもしれないのだから!

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